第22話 ミニ皇帝

 反乱から数日、尾羽打ち枯らしたような皇帝、それも体の大半を討ち取られたような、コウモリにして一匹分程度のミニ皇帝がやって来た。


 他の分体は周辺国にでも行ったのか、どうせ討ち取られるならと、俺の所に一匹だけ派遣した模様。


「どうしたんですか? 反乱起こされて追い出されるなんて、佞臣ばかり採用しちゃ駄目って言ったでしょう」


「ム?」


 俺の対応がまとも過ぎて疑っている模様。あれだけ「反逆の試み」「魔国と調印までして魔族になった」「皇帝陛下をないがしろにして偉そうにエルフ王気取りでございます」と言われ続けたのに、本人一切反乱起こす気が無いのを見て、やっとこさ連中こそが反乱者で売国奴で、聖国の残党から「神の御使いによる神聖なる戦い」を言い含められた連中なんだと思い知った模様。


「奴らは人間兵器という奴を押し立てて来てな、隷属の首輪をされた奴らが高レベルの神聖魔法を繰りだして来たので、レジストもできずにたまらず退散して逃げてきた訳だ」


 皇帝、チビっこいので声も高い、ミニ皇帝なのでもう「ガッファアアアッ!」と口と鼻から蒸気吐いてない。


「人間兵器にされた奴らは、神聖魔法も使うから気を付けてって言ったでしょうに」


「ふむ」


 聖国の生き残りと念入りに準備をしてた奴らなので、脇マ〇コが甘すぎると乗っ取りされると、耳にタコができるまで言ったのに、連中が「奴めが反乱の試みをしております」と言ってくる回数の方が多くて、俺は国外で活動させられて帰ったら殺されるので、帰れないでいると反乱者扱い。


「お主もヴァンパイアロードになったか?」


「はあ、生身だと連中に殺されるんで、どうせ眠れないんでグール堕ちして、それからヴァンパイアに」


「そうか」


 ヴァンパイアも生殖機能は大半失われて、メスのケツを吸う方向に欲情する。もしかするとダンピールとか、ヴァンパイア同士なら子供が生まれることもあるらしい。でもエルフ以下の生殖能力。


 鈴木雅之ソックリなブレイドとか、吸血鬼ハンターみたいにダンピールが産まれるかもしれないが、高位のヴァンパイアに勝てる訳がないので、すぐに「真祖」とか匂わせて「まさか、あのお方様?」みたいな展開になる。


 こっちはリッチや不死王にも成れるからもう殺せない。太陽光浴びせようとしてもデイウォーカーになったから殺せない。太陽光の波紋とか撃ち込まれないと死なない。


 もう「俺は人間を辞めるぞ~~っ!」しちゃったので、何かに負けてしまって「やっぱり〇ソポには勝てなかったよ」にはならない。



 さらに数日すると、周辺国も悪のアンデッド皇帝がいなくなったのを喜んでいて、旧聖国領も大喜びで復国して、自治領程度だが聖国が復活。


 アンデッドの皇帝は行く所が無くて、教会の教えに反する死人なので収容してくれる隣国も無し、兵を貸してくれる国も無いので、結局俺の所に集合して身長5~10メートルある身体に。


 大きいよ、天井つっかえてエルフ国の接収したホテル程度だったら入らない。


 結局、アレクサンダー大王亡き後のマケドニアみたいに、アレクサンドリアごとに分裂して、各国の太守ごとに独立して争う群雄割拠時代に。


 聖国残党と結んでいた奴は、聖帝だとか国家代表を名乗って独立宣言。聖都の民衆はまだテント暮らしなのにな。


 周辺国を自分の領土にしたかった軍閥も派遣軍も独立宣言して、各国の領土を復活させて分割統治。


 元聖国からも各国教会からも、蛇蝎の如く嫌われていたアンデッドの国なので、国民も解放されたような顔して雑多な新王国を認めた。


 キンニ~ク帝国は廃止されて旧王国が復活、第一王妃の息子でちょん切られて修道院送りの王子が戴冠。そいつの息子も去勢されて修道院送りなので、やっぱり新宰相の孫が養子になって傀儡政権誕生。



「さて陛下、攻めますか? それともこのまま待って、相手国が侵攻して来た所を叩きますか?」


「ム?」


 自分が皇帝扱いされると思ってなかったのか、エルフ国から兵を借りられると思ってなかったのか、戸惑っている模様。


「儂の娘が無理矢理新王子と結婚させられるらしい。それと国外に出して留学させていた息子も、捕まり次第牢屋入りでちょん切られて修道院送りだ」


 王族弑逆は出来ないのかしないのか、去勢して断種すれば修道院送りで済む模様。まだ捕まっていないので、友好国だったがキンニ~ク帝国が消えたので引き渡される。


 ここはクラリス姫を助けに行くルパ~ン三世ぐらい、劇場版か90分スペシャルで解決しなければならない。


「ところで姫様って何歳ですか?」


「6歳だ」


「そうでしたか」


 はい、解散~、ぐらいのステータス。イスラムなら8歳でも結婚できるが、若年出産でオマム〇と直腸や尿道の間の仕切りが壊死してしまい、穴が開いて膣から便や尿が出て来て、悪臭で暴力を受ける奥さんが後を絶たないという人権問題で社会問題がある。


 貞操の危険はないというか、そこまでの幼児に発情する相手なら大変で変態。


「相手の王子という奴も切り取られて、修道院堕ちしてたんでは?」


「そうだ、その子供として大臣の孫が養子に入って、国家簒奪という訳だ」


「はあ」


 今回は陛下一人で飛んで来たので、いつもの老臣と言うか大臣に任命したオジサンがいない。よく言われる「ドス黒いまでの孤独」に苛まれて、歴代の宰相みたいに黒い顔して目の下にクマ作ってたから、地下牢にでもぶち込まれて、骨休めと言うかやっと苦痛から解放されて眠れる。


 元護衛騎士から騎士団長と魔法騎士団長を仰せつかった、若いのもいなくなってるが、こいつらは入牢から即死罪があるので、急速に助け出さなければならない。


「まず、老臣の大臣と両騎士団長を助け出さないと、早めに始末される恐れがあります。一応裁判などもして公開処刑だと思いますので、その時に救助を」


「相手は王都騎士団なのだぞ? あの数と聖別された装備の数々、戦いにもならぬのでは?」


 ご自分が七魔将の軍団一つ消したことを忘れているらしい。


「は? 王都騎士団って、七魔将の軍団一つより強力でしたか?」


「あ?」


 この皇帝は、ちょっと天然入ってるアホの子なので、彼我の戦力差とか分かってない。白魔法だけ無効化できれば、自分のキンニクが無敵なのを分かってない。


「ちょっと現場調べに、これから転移魔法で帝国入りしましょう」


「何だと? あの伝説の転移呪文? 帝国の防壁も超えられるのかっ?」


「ええ、城砦丸ごと塩の柱に変える呪文も伝説の十階梯呪文です」


 エルフ王とか皇帝が直接殴り込まないでもいいのだが、奴らは自分の手で殺したい。情報部長が殺されちまったんだから弔い合戦。



 帝国王都


 もうキンニ~ク帝国ではなくなったが、俺達にとってはまだ帝国。


 いつもの黒フードで城下に潜入して、魔獣の血から抽出した、飲めばビキビキ言って巨大化する薬なんかも配って「ざまあ」された奴に復讐の機会も与える。


 皇帝にはオーラの排出を自重して貰って、10メートルに見えないようにして城に潜入。


「遮蔽」


 もう遮蔽スキルレベルも70超えてるから、今の王様の椅子の隣に立っても平気。スタートレックのロミュランバード並みに姿を消せる。


 警備の暗殺者がいても、高レベルの司祭がいても平気。トラップの塊で迎えてくれる奴がいても無効、空に浮いて上から来る奴の事なんか考慮に入れていない。


「陛下、まずは軟禁されている場所へ行って、王女殿下を救出します。その後は地下牢で大臣、騎士団長、魔法師団長と言った流れで」


「ウム」


 悪く言うと陛下と王女殿下は「足手纏い」なのだが救出する。捕まえて勝ったつもりでいる奴らの目の前から、トンビが油揚げかっさらうように、海辺で飲み食いしてるとデカイ海鳥が来て、手に持ってる食い物何でも持って行くように盗んでいく。


 陛下に「下品だ」とか「王族にあるまじき行為」とか言わせないようにして、何が起こっているのか分からないうちに処理。


 まずは警備の近衛師団の衛兵と、メイドに側仕えに幻覚見せておく。監視カメラ?の映像がループで同じ画像を垂れ流してるのと一緒。


「殿下、お迎えに上がりました」


「パパッ!」


「あータンッ!」


 少々デカイ声出しても大丈夫、潜入物は沢山こなしてるから、実は隣国の王様暗殺して来いと言われても可能。でも仕事一杯で眠いので、ベッドなんか見付けると、のりピーみたいに王様のベッドでも眠ってしまうのでやらない。


 抜き足差し足忍び足、しないでも平気。段ボール箱に入って潜入ミッションしないでも平気。


「大丈夫なのか? こんなに堂々と歩いても?」


「ええ、平気です、潜入はかなりやらされてますから、遮蔽スキルはレベル70です」


 ズンズン歩いて行ったが、王族を地下牢に入れる訳には行かない。


「これより下は地下牢ですので、こちらの部屋でお休みください。それとも殿下だけでも連れて帰国しますか?」


「なんと?」


 勝手知ったる王城の客室。メイドに命じて茶など入れさせて、殿下には菓子なども出させておく。



 地下牢


 攻守交替で一転攻勢、始末した貴族共以外は、出獄して解放されて、皇帝派と言うか支配階級だった奴らが入牢。


「牢の鍵を寄越せ」


「はっ!」


 牢番に非は無いのだが、偉い奴に命令されると逆らえない奴ら。遮蔽してあるので誰か別の奴に見えている事だろう。


 牢番も衛兵も一緒に歩いて談笑しながら、牢の中の住人も処刑されそうな奴らも解放していく。


 牢番には偽聖女か聖女の妹でも来て「あと何日で処刑、ざまあ見ろ」とか、牢の中と会話しているように見えている事だろう。


 騎士団長などは、牢から連れ出していないように見せているが、現実には出て貰って、ゾロゾロと連れ歩いている。


「マーシ殿、何故ここに?」


 牢番に鼻薬でも嗅がせたと思っているのか、お仲間をぞろぞろ連れ歩いているのを信じられないような目で見ている老臣。よく眠れたかな?


「ああ、皇帝陛下がエルフ国まで来ましてね、人間兵器共に追い出されたそうなので、まずは王女殿下と大臣閣下と騎士団長魔法師団長を救出に。陛下は一階で王女殿下と一緒にお待ちです」


「はあ……」


 こいつらの認識では、俺は反乱してエルフ国に籠っていて、魔族と調印までして魔族になって、旧エルフ国は魔族領域になっている。


「まあ、反乱してたのは奴らで、聖国の残党と熱心に連絡を取って聖国再興。周辺国の残党とも連絡を付けて、軍閥と一緒にボコボコ正当政府名乗って、将軍と姫が政略結婚して国家再興してる訳ですな」


 談笑などしながらドカドカ一階へ、陛下がいる待合室に到着。



「あ~タン、お髭じょりじょり~」


「ぴゃああ~」


 待たされてじれているかと思ったが、器が大きいのか肛(けつのあな)が大きいのか、娘と遊んで過ごしていた。


 この階層にいるような奴らでは看破は無理。できるとしたら聖国の間者か魔国の間者。


「入浴の用意を、着替えも用意せよ」


「はいっ」


 メイド頭が恐れ入って、何室も使って下っ端に入浴と着替えを用意させている。


 ついでに地下から連れて来た連中全員なので結構な数なのだが、来客が多い時もあるし、また支配者が変わったので申請者が大量、貴族階級には入浴の準備なども必要。


「おいっ、退避が先じゃないのかっ?」


 脳筋の騎士団長様が大声出すが、その方が発見されやすい。


「陛下の重鎮が、まるで逃げるように退散したなどと不評が立ちます。入浴して着替えて、堂々と正門から出てやろうではありませんか」


「馬鹿者っ、こんな状況で入浴する者がおるかああっ!」


「その大声の方が発見されますよ」


「くううっ、裏切者がっ、陛下にどの面下げて来たっ? 魔族と誼を結びおって、調印した証拠まで挙がっておるのだぞっ?」


「見事に敵に嵌められて離間工作、佞臣も見抜けずに革命を起こされて、聖国復活を許した無能は誰でしたっけ?」


 出された茶など飲んで寛ぎながら、嫌味には嫌味で返してやる。こっちはお前らも陛下も連れて、王女殿下を救いに来たんだ。文句言われる筋合いはない。


「陛下に歯向かった無能はお前だっ?」


 貴族のボンボンか知らないが、頭悪すぎ。


「俺は最初から反乱の意思なし、エルフ王の地位も何もいらない。革命派にも加わってない、聖国から命じられて神の使徒になった訳じゃない、それどころか陛下と同じヴァンパイアロードだ」


 こいつは無能だし邪魔だから置いて行こう、それとも先に抜け出させて大騒ぎにして、ドヤドヤ衛兵が駆け巡って「脱走だ~~~っ!」までやってやろうか。


 燦燦と太陽が降り注ぐ中で、茶でも飲んでたり、娘と遊んでるヴァンパイアロードなんか見た事もないだろうが、目の前に二人いる。それでも認知できないんだろうなあ。


「とにかくっ、脱出が先だっ!」


 デカイ声はり上げて、よれよれの囚人服のままの臭い元騎士団長以下数名が、俺が張った遮蔽の結界の外に出て行った。


 一体どこから逃げるつもりなんだろうか? 脳筋はこれだから困る。


「何者か~~っ!」


 早速見つかった模様。地下牢の方は中身が入ったままに見えるようにしてあるが、馬鹿共は自分がどうやって出たのか忘れさせておこう。


「皆さんは入浴に案内された続き部屋から出ないように」


 外ではドヤドヤと衛兵が駆け巡り、地下牢の住人は浮足立って、ウロウロしたり物陰に隠れたりしている。


 でもこの客室だけは認知できない。烏の行水で男同士なので汚れた湯のまま次々に入って、着替えて脱出開始。



「まあ、転移呪文も使えますが、それは追い詰められてからと言う事で。城下に降りて広場か転移を邪魔されていない所から出ましょう」


 陛下に殿下、大臣閣下に魔法師団長と部下数十名。それはもうゾロゾロと王宮内を行進。


 ハム太郎のテーマソングなども歌いながら行進、あれは街中を全員で行進した回で、一回虹の橋を渡ってしまい全員死んだのかと思わされたが、制作側が「虹の橋を渡る」の意味を知らなかったようで無事帰還。


 入場する時は厳重警戒だが出る方はらくちん。


「うぃ~~っす」


「ウッス」


 警備の衛兵にも適当に敬礼して出ると、平民の従業員だと思って貰えるので無事通過。


 遮蔽は続いているが、ここまで混乱しているのに、入浴して着替えて娑婆に出られるとは思ってなかったようで、魔法師団長から「さすおに」された。


「流石です、私などは及びもつかない、まさに魔法、このような脱出劇が可能とは思いもよりませんでした」


 でも騎士団長が犠牲になって、再度入牢して牢屋の鍵壊されるレベルで監禁。


「さて、この辺りから帰りましょうか? 王都土産に串焼き果物など買い忘れはございませんか?」


「はははっ」


 笑い声が起こったが、本気でエルフ国に行くと植生が違うのか、果物の味も種類も違う。市場に肉なんか売ってないから、串焼きも焼肉も魚も食えない。


 代表して露店で買い込んで、肉串やカラアゲ食いながらショッピング。



「あれ? 情報部長」


「ええ、旦那」


 やっぱり生きていた情報部長、殺された振りをして次の勤め先でも探してたのか、金持って逃げて女の所にでも転がり込んで休暇?


 俺や陛下や殿下を見かけたから、追走して下野した主人達を警護してくれた模様。


 このレベルの人物になら俺の遮蔽でも看破できる。


 反乱した奴ら皆殺しにしてやろうと思ってたけど、怒りのレベルが少々低下した。


 情報部も生きてたから、俺らを付けてた連中の死体も増えたろう、手際が良かったのか屋根の上で死んでるそうだ。


「ははっ、キンニ~ク帝国も無くなったから、次の職場探しても良かったのに」


「へい、金払いも良くて、俺達を始末しない上司ってのは中々おりませんで」


 ウチは比較的待遇も良かったらしい。



 エルフ王国


 王都ショッピングに入浴着替えまで済ませてから、エルフ国に帰還と言うか一旦退避。


「それではもう一回行って、反乱者を懲らしめて(全殺し)参ります」


 一人で行こうとすると情報部も付いて来ようとした、そして。


「待て、儂も行く」


「陛下まで?」


 陛下単体だと足手纏いではないが、日中は弱体化している。


「では、せめて日が暮れてからにしましょう」


 魔法師団長などは却下したかったが、どうしても行くというので同行する。


「昼食夕食など取ってから、十分休んでおいてください」


 決戦は夜、聖帝なんぞ名乗りやがった大臣の一人も、国内を制圧した新宰相も、陛下追い出しやがった貴族共全殺し。


 でも人間兵器達は助けてやりたい。

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