第14話


 「たっだいまーっ。

  あっはははは。」


 ……真矢野、

 お前、なぁ……。


 「あれ、郁ちゃんはー?」


 「お前の部屋だろが。」


 「痴話喧嘩でもしたのー?」


 いきなり何言ってんだコイツは。


 「中間対策だろ。」


 「あれ、勉強会とかしないんだ。」


 「あんなもん、成績落とすだけだろ。

  少なくとも雨守にとってはな。」


 「あー、郁ちゃん、オールマイトだったからなー。

  真人、そういうの見つけるの、ほんと上手いよね。」


 そういうの?


 「にゃははは。いいっていいって。

  んで、葉菜が来る前に、ちょっとだけ。」

 

 ん?


 「いやははは。

  いやー、あたしとしてもさ、これからどうしようか、

  いっろいろ、考えることがあるわけですよ。」


 いろいろ、なぁ。

 コイツも相当裏で蠢く奴だからな。



 「優先順位のトップが、

  沢名の家の、の件か。」



 ほんの一瞬だが、顔つきが、鋭くなった。

 コイツ、こういう顔をするわけか。

 なるほど、女優向きだ。笑顔で皆を殺していく悪女役のほうな。


 「先に言っとくが、

  これは星羅ちゃん情報だぞ。」

 

 「っ!?」


 「……どうした。

  情報交換、しっかりしとくんだろ?」


 「……どこまで、知ってるの?」


 「お前、あんまり俺を買いかぶるな。

  本当になにも知らんぞ。

  これから知っておくべきとは思ってるがな。」


 「……。」


 ガキの頃の俺のような眼をしてやがる。

 なにもかも、一人で全部やってきた奴の目だ。


 「……

  お前、苦労してんなぁ。」


 「……。


  あー、もうっ!

  真人、あたしまで口説くつもり? 

  節操なさすぎー。」


 いまのをどう解釈すればそうなるんだ?


 「……あははは。

  真人、ある意味、ルトよかずっとタチ悪いよ?

 

  ま、いいや。

  情報交換、だよね?」


 「ああ。」


 「……。

  なるべく、簡単に話すね。」


 「助かる。」



 「葉菜の父親は、二人いる。」



 ……ん?


 「一人が、産みの親。

  もう、死んでる。」


 父親を産みの親、って言うか?

 まぁいいけど。


 「もう一人が、義理の父親。

  あたしが、、って言ってるほう。

  星羅ちゃんの相手したのはこっち。」


 ……まぁ、シンプルな話だな。


 「……で。

  産みの親が、死ぬ前に、外に子どもを作った。

  。」


 ……それ、は。


 「しかも。

  そっちのほうが、。」

 

 ……なに?


 「まぁ、零落してたらしいけど、

  毛並みだけで見れば、だいぶんね。」


 ……。


 「……分かると思うけど、

  葉菜の家は、考え方が、古い。

  なまじっか歴史が長い分だけね。

 

  だから、とのだったら、

  そっちを立てたほうがいいんじゃないかって騒ぐ輩が、そこそこいる。」


 ……。


 「はっきりいっちゃうと、葉菜のお母さんって、

  生まれはあんまりよくないんだ。

  あたしらには凄くいい人なんだけどね。」


 ……。

 じゃあ、東郷の件は。


 「うん。

  が進めてた。

 

  もちろん、東郷側にも事情があったから、

  あんな強引なことをしてたわけだけど、

  葉菜のお父さんからすれば、葉菜に、後ろ盾を作るためでもあったんだよ。

  少なくとも高校出るくらいまでの間はね。」


 マジ、かよ……。


 (たぶんね、どうにかしてほしいわけじゃないと思うんだ。)

 

 (……野智君には、知っておいて欲しい。

  葉菜ちゃんは、ただ、それだけなんだと思う。)


 なら、俺のやったことは。


 「……あはは。

  ルトみたいなやり方だったら、なにもかもぶち壊し。


  真人は、違った。

  あたしらには、想像もつかない方法だった。

  あんなやり方あるんだったら、って。

 

  ……覚悟してよね、真人。

  葉菜も、あたしも、見ないようにしてきた夢なんだから。」


 「……。」


 「あはははは、

  郁ちゃんもおもったいけど、葉菜も、相当だからね?

 

  あー、この話はいいや。

  で、離れの話ね。うんうん。

 

  ま、真人が読んでる通りだと思うんだけど、

  離れのほうに、先代のババアが鎮座してる。」


 やっぱりか。


 「で、葉菜の産みの親の母親。

  意味、わかるよね?」

 

 ああ。

 分かってみればよくある話だよな。

 にしても。


 「義理の父親、立場弱ぇなぁ。」


 「……あはは。

  いい人だし、仕事はちゃんとできるんだけどね。」

 

 守成タイプってことか。

 関係性を壊さないようにしつつ、実利はしっかりあげようとするが、

 周りからはそう思われない的な。


 「一応聞くが、義理の父親と沢名の母親の間に、

  子どもはいないわけだな?」


 あ、少し痛みを感じさせる顔芸だけで分かった。

 さすが子役。政治家にもなれるわ。

 ってか、顔、整ってんなぁ。


 で。


 「こないだの大通りの件は、

  ババアか、婚外子一家か、その周辺がやらかしたと。」


 「……あたしは、そう見てる。」


 あの刑事の見立てと一緒だろうな。

 ただ、証拠はなにもないのだろう。


 それに、

 

 「警察内も、どっちに付くか、決めかねてるわけか。」


 「……

  そういうとこ、気づくかー。

 

  ただ、さ。」


 ……?


 「あはは。

  はっきり言うと、葉菜が荻野辺さん引き入れちゃったから、

  そのへん、事情が変わったんだよね。」


 ん?


 「いやー。

  、面白くてさー。

  ネトゲだと、男キャラ3つも使ってるんだよね。」


 ……あ、あぁっ。


 「やり方さえ分っちゃえばねー。

  ま、中間のあたしの成績、ちょっと見なかったことにしてほしいけど。」

 

 それが、沢名が荻野辺氏とができた理由かよ……。

 真矢野、俺なんかよりよっぽど徹底してんな。


 ん?


 「ってことは、

  向こう、焦って来てるんじゃねぇ……

  あぁ。」


 それで、越してきたんだったな。


 「ぴんぽーん。

  いやー、話早くて、ほんと助かるよー。

  ルトがこんなんだったら良かったんだけどねー。」


 ……双谷、なぁ。


*


 はぁ。

 体育んなって、やっといなくなってくれたか。

 男女別っていうのを、有難く感じるたぁな。


 ん?


 「……。」


 誰だコイツ。

 って、あぁ。


 「そのだな、野智。」


 名和座、か。

 絡んだことねぇなぁ。


 「なんだよ。」


 「……っ。

  その。」


 双谷ほどじゃねぇけど、まぁまぁいい顔だよな、コイツ。

 掘られてるアイドルくらいか。よろしくやってんね、ってか。


 「……その、

  逢ってやってくれないか。」


 ……は?

 誰に、って、

 

 あぁ。


 「断る。」

 

 こんなもん、先回りしてやる。


 「頼む。」


 「人にものを頼む時には、相手方にメリットがないと動かないぞ。

  お前、そんなことも分からないのか?

  そんなだから障子屋の本性が分かんなかったんだろ。」


 「っ!?」


 「俺は、お前らに対しては、純粋な被害者だ。

  意味、分かるな。」


 「……くっ。」


 「俺は行くぞ。

  一応、体育の時間だからな。」


*


 「よっ!」


 !

 って、真矢野か。

 背中に肩、廻してきやがったからびっくりしたぞ。


 「どうー? 

  登場シーン変えるだけで、ちょっと新鮮な感じするー?」

 

 しねぇ、ってこともないな。


 「あはははは、ノッてくれるとありがたいよー。

  郁ちゃんとかはからかいがいはあるんだけどねー。」


 「お前、ほんとに雨守をオモチャにすんなよ。

  キャパないんだから。」

  

 なにしろ引き籠りだぞ?


 「あー、はいはい。

  わかってるつもりだよー?」


 ホントかよ。


 「っていうか、沢名と雨守は?」


 「あー、もう、いることが当たり前になっちゃってんねー。

  真人ってば、贅沢もんだねー。」


 「ちげぇっての。」


 「んふふふ、知りたいー?」


 「別に。」


 「あはははは。

  ふたりとも、コクられてる。」


 ぶっ。


 「って、言うのかよ。」


 「だってー。

  葉菜も郁ちゃんも隠したがるからさー。

  あたしが言うしかないじゃん?」


 「お前って、

  そういう時、ほんと生き生きしてんな。」


 「そう?

  あははは、まぁねー。

  楽しんでいかないとさー、やってらんないんだよ。

  ルトのこととか。」


 ん?

 あぁ。


 「名和座に頼まれたか?」


 「おおう、さすが真人。はっやいねー。

  ちゃんと答えると、そうじゃない。

  康彦君、わかると思うけど、いい子なんだよ。」


 ……いい子、な。


 「たっぶんね、頼み方、わかってない。

  自分が頼まれたら、相手に無償で尽くす。

  自分が頼んだら、相手がやってくれるはずだ、

  的な世界で生きてきたはずだから。」


 「……なるほど、な。」


 「んー?」


 「いや、そういう発想って、俺らの世界にゃないだろ?」


 ぜんぶ貸し借り。

 無償の奉仕なんて、考えたこともねぇわ。

 

 「うわー、

  あたしをルトの側に入れてくれないってわけかー。」


 「現にそうだろ。

  汚れてんなぁ、俺ら。」


 「あははは。

  そう言われっちゃうとねー。」


 「なんかちょっと、名和座のことがわかった。

  ありがとな。」



 「……そう、だね。」



 ん?


 「あー、いや、なんでもないなんでもない。

  で、まぁ、康彦君とおんなじになっちゃうんだけどさ、

  正直言うと、あたしらじゃ、どーにもなんないんだ。」


 「どーにも。」


 「ほら、葉菜もあたしも、隠し事、多いじゃない?」


 「まぁな。」


 「郁ちゃんや真人は、

  ルトに、隠し事をする必要ないじゃん。」


 「?」


 「あははは。

  んで、郁ちゃんは、ルトに当たりが強い。

  言っちゃなんだけど、刺激が強すぎる。」


 「俺のほうがそうだと思うが。」


 「うん。

  でもさ、郁ちゃんみたいにならないと思うんだ。

  なんていうの、ちょうどいい塩梅でひとつ。」


 「お前な。

  ……だいたい、俺のメリットはなんだよ。」


 「んー。

  一晩、寝てあげよっか?」


 ぶっ!?


 「お前、冗談でも言うなそんなこと。」


 「そう?

  冗談でもないんだけどなー。」


 「お前なっ!」


 「あはははは、ごめんごめん。

  じゃー、郁ちゃんのコスメ指南料とか。

  オプションで試供品三か月セット。どうー?」


 上手いとこ突いてきやがる。

 ……ったく、しょうがねぇなぁ。


 「もう一つ、オプションを寄こせ。」


 「おっ、ノってきってくれるんだねー。

  いいよー、なんでも言って?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る