第5話 孤立したビル

 進展一:隠れ場所を見つけた


 デスクトップコンピューターだらけのオフィスに入って気づいた。ここのパソコン、どれも型落ちだ。

 めちゃくちゃ古いとまではいかないが、外見のデザイン的に五年くらい前の。まぁ、中身を弄ってる可能性はあるから何とも言えないが、ディスプレイの古さといい、旧型の気配を感じる。ここ一流企業でしょ? でもまぁ、蓋を開けたらこんなものなのかもな。私の想像する大人の世界が輝きすぎているだけかもしれないし。

 とにかく、何でもいい、通信機器。

 警察に連絡だ。いや、警察じゃなくてもいい。消防隊でも救急車でも、とにかく外部、外にいる人たちに銃を持った人がビルに立て籠っていることを知らせなければ。

 こういう時はコンピューターよりスマホがいい。私のスマホは今パパと一緒に監禁されてるから、この会社のスマホを。大手企業なんだから業務用のスマホくらい支給してるでしょ。誰のでもいい。置いてないかな。

 しばらくオフィスの中をうろつく。と、ひとごと? にんじ? とにかく「人事」と書かれたプレートが貼られた部屋を見つけた。ドアについてる窓から中を覗くと、大量のノートパソコン……のパッケージ。フィルムが破られてないから多分新品だ。その横にはタブレット、そして……やった! スマホがある! パッケージそのままのやつ!

 多分社員に支給するためのやつの新品だろう。ラッキーだ。このドアさえ開けば……と、ドアを揺する。開かない。まぁそりゃそうか。

 私は一度オフィスを出てここに入る時に使った消火器を持ってくると、再び「人事」のドアの前に行きその覗き窓に叩きつけた。割れる。穴に腕を入れて……解錠完了。

 中に入る。新品のパソコンたち……MacとWindows入り乱れてるのはどうして? そんなことしたらややこしいよ……互換性の問題もあるしさ。表計算ソフトとか何使ってんだ? まぁ、Windows環境が有利なExcelよりも誰でも使えるGoogleのスプレッドシートの方が使い勝手はいいからそれを使ってるのかもな。にしても最新型のパソコンばかり。オフィスの中のは旧型だらけなのに。

 新品パソコンの上に置かれたカードを見る。し、しん……何これ。とにかく「新卒用」と書かれたカードを退けてパソコンとタブレットとスマホを手に取る。一旦使うのはスマホだけど、コンピューターを使う場面もあるかもだし。ノートパソコンにタブレットならそんなに嵩張らないから平気平気。ま、今はそれよりもスマホで外部に連絡。

 スマホのパッケージを開ける。新品。ちらりと、新品だったら初期設定がまだなのではないかという不安が頭をよぎった。しかし私がこの企業の経営者なら、初期設定といった煩雑な手続きは電子機器周りを専門にする部署に最初からやらせておいて、新しくこれを手にした人がすぐに仕事に使えるようにしている。どうかこの会社の経営者が私と同じ頭をしていますようにと電源を入れた。画面を下から上にスワイプし、ロック解除を試みる……開いた。続いて「こんにちは、隆彦たかひこ」という画面が立ち上がった。なんて読むのか知らないけどごめんね隆彦。使わせてもらう。

 どうも社内連絡に音声通話機能付きのチャットアプリを使っているらしい。SlackやDiscordによく似ているが別物。社内の回線を利用しているみたい。もしかしたらこれ自前? 見たことないよこんなアプリ。

 スマホの設定を開く。電話番号は割り振られていた。なら使える……? と、ここで私は警察に電話するにはどうしたらいいか分からないことを思い出す。アメリカと日本の緊急通話って番号一緒? 違ったらどうする? 

 いや、間違い電話かけちゃったとしても助けを求める方が先決か。私は電話をかけようと指を動かして、止めた。アンテナが立ってない……。

 うそ、やっぱり新品だから? 経営者私と同じ頭してなかった? そう思いながらアンテナを注視し、気づいた。。つまり電波自体はあるのに繋がらない、接続が安定していない。

 電波が拾えないんだ。でもどうして? この町中で……東京だよ? おばあちゃんちのあった田舎ならともかく。こんな都会でそんなことある? この子がおかしいのかな。仕方なく一旦この隆彦のスマホを捨てて別の子に当たる。美沙希、優弥、雅史、三人とも名前読めなかったけどとにかく三人分、立ち上げてみた。どれも同じ。おかしい。明らかにおかしい。

 パソコンは……といくつか立ち上げる。タブレットも立ち上げる。軒並み繋がらない。ネットワーク環境を調べてみたがそもそも社内の線ですら繋がらない。もちろん外のネットワークとなんて繋がるわけがない。

 ネットワーク環境を切ってる? でもどうやって? 有線で繋げているならその回線を切ればいいけど、スマホ含め無線通信を妨害するなんてそんな芸当……。

 もしかして、と思い至る。いや、そんな映画みたいな、とは思ったが、斉藤製薬。世界に名だたる製薬企業。その本社ビルをジャック。既に映画じみてるんだ。だから多分間違いない。

 妨害電波が出てるんだ……。私も仕組み自体はよく知らないが、察するに電波を妨害するならその環境で使われてる電波と周波数の近い別の電波を広範囲に出力することでいわゆる状況にしている。じゃあ有線は? 私は試しにオフィスの方に行き、デスクの上にあった電話を手に取ってみた。音が鳴らない。やっぱりか……電話線も切ってるんだ。

 でもこっちは……? 

 私はオフィスの方に行くと、持っているノートパソコンにデスクトップパソコンに繋がっていた有線LANを繋いだ。通信環境を確認してみる。やっぱり外とは繋がらない。でも……社内のルーターからは、応答があった。

 どうも社内のネットワーク環境は生きている……らしい。少なくとも有線では。となると、無線は「外でも中でもダメ」、有線は「中のみOKで外はダメ」ということになる。やっぱり妨害電波が妥当か。有線は外とのみ切っているが中の回線までは破壊できなかったんだ。

 どこの誰がどんな理由でこのビルをジャックしたのな知らないが、かなり有能な人物が入念な下準備をしたのだろう。全てが完璧にコントロールされている。

 つまり、そう。このビルは、孤立している。


 進展一:隠れ場所を見つけた

 進展二:通信が妨害されていて外と繋がれない

 持ち物:スマホ、タブレット、ノートパソコン、それぞれ新品

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