終わらないで。花火……

//SE 土手に体育座りをする二人。空は夜の色。色めき立つ群衆の声。


「会場が騒がしくなってきた。

いつの間にか、けっこう暗くなったね」


「そろそろ花火が上がる時間だよ」//わくわくと寂しさが入り混じった声。


//SE 遠くでカウントダウンの声。5,4,3,2,1


//SE ヒューーーーードーーーーン! パチパチパチ……


「わぁ! 音にびっくりしちゃった。あははは」


「すごーい、きれい。

散っていく火の粉の色が、オレンジから赤に変わったの、わかった?」


「ね、きれいだったね」


//SE ヒューーーーードーーーーン! パチパチパチ……


「おお! さっきより大っきいね。紫もすてきー。

空に一瞬で咲く大輪の花って感じだね」


「たーまやー」//叫んでいるがボリュームは小さい


「かーぎやー」


「これでも、大きな声出してるんだよ。これ以上は大きくならないの。

声は届かなくても、気持ちは届くよ、きっとね」


「たまや、かぎや、リスペクトー!」


「かぎやは、何を頑張ったのか、わかんないけどね」



//SE ヒューーーーードーーーーン! パチパチパチ……


「たーまやーーーーー」


「かーーーぎやーーーーーー」


//SE ふと主人公の横顔を見るちいちゃん。


「へ? 何してるの?」


「動画、撮ってるんだ?」


「やっと、楽しそうな顔になったね」


「逃げた金魚さんに見せるのかな?


って聞こえてないか。


私の声は、とってもとっても小さいから」


//SE ヒューーーーードーーーーン! パチパチパチ……


//SE カメラをちいちゃんに向ける


「へ? え?」


「私を……撮るの? どうして?」


「思い出?」


「なーんだ。思い出のムービーだったのね」


「ううん、なんでもない。

好きな子に送るのかなって思った」


「え? 後で、好きな子に送る?」


「そっか。


その時は、私が映ってる部分はカットしなきゃね」


「あっ、え?」


「一緒に?」


「う、うん」


「はい、ニコ~」//花火をバックに、ツーショット動画を撮影。


「んふふ。ありがとう」


//SE ヒューーーーードーーーーン! パチパチパチ……


「君が、例え、他の女の子を好きでも、私は君を全力で応援するよ。邪魔にならないように、小さな小さな声で、全力で応援する。これからの人生も、恋も、勉強も、頑張れ!」


//SE ヒューーーーードーーーーン! ドーーーーン! パチパチパチ……


「そろそろ、クライマックスだね」


「スターマイン」


「都会に比べたら負けると思うけど、花火が川面に反射する景色は、最高にきれいなんだよ」


「君と一緒に見られて、よかった」//連続する花火の音に重なってかき消される。

//SE ヒューーーーードーーーーン! ドーーーーン! パチパチパチ……ドーーーーン! ヒューードーーーーン! ドーーーーーーン! パチパチパチ……




「終わっちゃったね」


「あっという間だったなー。


まだ、帰りたくないなぁ」


「え? 君も、まだ帰りたくない?」


「じゃあ、しばらくここで、こうしてようか」


//SE 徐々に小さくなっていく群衆の声。



「随分静かになったね」


//SE フクロウが鳴く声


「もう、誰もいない。

私たちだけ、だね」


「あ! 流れ星!


ペルセウス座流星群!」


「ピークは、お盆辺りなんだけど、この時期、夜空を眺めてると、よく流れ星が見えるんだよ」


「あ、また!!!」//空を指さすちいちゃん。


「極大は13日頃なんだよね。

その時に、またイベントがあるよ」


「天体観測会っていう、望遠鏡で星座を観測するっていうだけのイベントだけど、けっこうたくさん人が集まるの。

いわゆる星座フェス!!」


「上がるぅ?」


「上がるでしょ!」


「君と一緒にみたいな。

ペルセウス座流星群」


「本当?」


「また会いに来てくれる?」


「嬉しい。


雨が降らないように、流れ星にお願いしよう!」//空を見上げる。


「へ? 雨が降っても、来る?」


「嬉しいけど、天の川は見えないよ」


「それでも……いいの?」


「そっか。


見えなくても、流れ星は雲の向こうで輝いてるんだもんね」


「じゃがやいてるじゃないよ。輝いてる!

流れ星が雲の向こうで、じゃが焼いてるわけないでしょー!

きっと、お願いごとは届くはずだ!」


「じゃあ、その時また、八兵衛堂のたこ焼き、一緒に食べようか」


「マンゴーミルクのかき氷も買って行こう」



「あ! そういえば、君が乗るバスの最終って何時?」


「え? 調べて来なかったの?」


「ふわぁぁぁーー、大変!!

この辺のバスの最終は、6時半ぐらいだよ」


「とっくに過ぎてるよ」


「タクシーで駅まで行くっていう手もあるけど、どうする?

駅まで一緒に行ってあげるよ。

君はよく迷子になっちゃうから」


「へ? もういいの?」


「始発のバスで帰る?」


「それって、朝まで一緒にいられるって事?」


「本当に?


いいの?」


「それは、めっちゃ嬉しい!」


「じゃあさ、うちに来る?」


「うちの庭で、花火フェスしない?」


「コンビニで手持ち花火買ってさ。


追い花火!


ねぇ、いいでしょ?」


「行こう、花火を買いに。


からの~、庭で、花火フェス!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る