第21話「ルーランの街のダンジョン」

 【ルーランの街】の近くにあるダンジョンは五階建ての建物だった。


「外見はめっちゃフツー」

 

 マヤの正直な感想に、三郎丸は心から共感して


「日本にあってもちょっと珍しい、洋風建築ですみそうだ」


 とつぶやく。

 

「ジャイアントモンキーとゴブリンは一階から二階に出るけど、ランダムらしいよ」


 受付から聞いたことを桜が話す。


「運次第では早く終わるってことか」


 とヒカリがちょっとうれしそうに言う。


「運には自信がないな」


 三郎丸はすこし弱気になった。


「そう? 洋平くんとよく話すようになったのは、こっちに来てからだけど、そんな感じはしないよ」


 桜にふしぎそうな顔で言われる。


「運悪い感じしないよねー」


 とヒカリも同調した。


「まるであーしらとチーム組んでるのが不運って意味に聞こえるよ?」


 マヤが笑いながらで彼を見上げる。


「いや、そんなつもりは……」


 三郎丸はジョークだろうと思いながらも急いで否定した。


「マヤちゃん、からかったらかわいそうだよ」


 桜がマヤに注意する。


「みんなと組めたのは幸運だと思ってるよ」


 と言った三郎丸にフォローしたつもりはなく、本心からの言葉だった。


「ストレートに言われるとちょっと照れる」


 桜の頬がすこし赤くなる。

 マヤとヒカリもまんざらそうでもなかった。


「誰から行く? 俺が行こうか?」


「毎回よーへいに危ない場面を任せるのはなぁ……」


 三郎丸の申し出にヒカリがすこし難色を示す。


「ポーションは作れたけどね」


 と桜もヒカリよりの態度を見せる。


「大丈夫。マヤさんが守ってくれるし、ヒカリさんも援護してくれるだろう」


 三郎丸は驚きを隠して言った。


 まさかふたりも自分が先頭に立つのを消極的に反対するとは思わなかったからである。


「そりゃそうだけど……」


「まーまー。よーへいだけ危険な目に遭わせるんじゃないんだし、本人がいいんだからよくね?」


 とマヤが彼の肩を持つ。


「ほかのキツイ部分をあーしらで受け持てば、バランスとれるじゃん」


「そうだね。桜さんだってポーション作るの大変だろう?」


 と三郎丸が言えば桜はうなずいた。


「それもそう」


「ま、たしかにみんなでやればいっか」


 桜とヒカリが納得したので、三郎丸が戦闘に立ってまずは呪文で光源を作り出す。

 魔法の実践練習も兼ねているので今日は光属性を選ぶ。


「通路が広いね」


 とヒカリが言ったように、四人は楽に通過できそうな一本道である。


「隠れる場所がなさそうなのはありがたい」


 と三郎丸は言って歩き出す。

 しばらくすると小型犬サイズのカブトムシのようなモンスターが出現する。


「どう見てもモンキーじゃないね」


 とヒカリはがっかりした。


「討伐依頼だとこうなるのか。これも経験だね」


 と三郎丸は受け止める。


「洋平、ポジティブでいいね」


 ヒカリは目を丸くしながら彼を褒めた。


「リーダーはポジティブな人がいいから、洋平くんは正解だね」


 と桜もすこしうれしそうに評価する。


「ありがとう」


 期待に応えられるように頑張ろうと三郎丸は思う。

 カブトムシのようなモンスターは彼が火属性の下級呪文一発で仕留める。


「意外と弱いね。そういうダンジョンに連れて来られてるんだろうけど」


 と三郎丸は慢心しないように自分を戒めた。


「ウチらは初心者だもんねー」


「当然の采配ですね」


 ヒカリはけらけら笑い、桜はまじめな表情で言う。

 マヤは彼女たちに同調せず、油断なく周囲をうかがっている。


「おっ、敵だよ」


 そして三人に注意をうながす。

 索敵は自然とマヤの役目になりつつある。


「了解」


 三人は意識をすぐに切り替えた。

 次に現れたのは緑色の毛皮を持った人間並みの大きさのサルである。


「当たりかな?」


「たぶん」


 ヒカリと三郎丸は短くやりとりをして、油断なくサルをにらむ。


「キーキーキー」


 歯をむき出しにしてかん高い声で鳴くと、たちまち四匹の仲間が姿を現す。


「うわ、仲間を呼ぶタイプか」


 三郎丸は舌打ちしたくなる。


「全部ぶちのめせば目標をひとつ達成だからラッキーじゃん?」


 ヒカリは明るく強気なことを言ってニヤッと笑う。

 

「その通りだな。雷よ、荒ぶる力を示せ【トネール】」


 と三郎丸が一番手前にいるジャイアントモンキーに雷属性の下級呪文で攻撃する。

 

「ギャッ」


 雷で痺れて悶絶したところを、ヒカリが同じく雷属性の下級呪文を浴びせた。


 仲間が一匹絶命したのをみた残りのジャイアントモンキーたちが、石を拾って彼らに投げつけてくる。


「水と、我らを守る盾となれ【ビュルドゥ】」


 この攻撃にはマヤが対応した。

 下級呪文によって生み出された水の盾が、飛んできた石を包むにして止める。


「ありがとうマヤさん。火よ、荒ぶる力を【フラム】」


 三郎丸は四匹のジャイアントモンキーを同時に狙って火属性の下級呪文を放つ。

 すべてのジャイアントモンキーに命中し、ひるんだところでヒカリが追撃に入る。


「雷よ、荒ぶる力を【トネール】」


 ヒカリの雷属性の呪文で一番左の個体を絶命させた。


「あと三匹、右から!」


 と桜が声を出す。

 水の壁がジャイアントモンキーたちの攻撃を阻止する。


「火よ、荒ぶる力を見せ、紅蓮の炎となれ【トレショー・フラム】」


 三郎丸は中級呪文を選択し、広い範囲の炎でジャイアントモンキーたちを一気に包み込む。


 ジャイアントモンキーたちから苦悶の声が漏れる。


「中級呪文でも倒せない?」


 ヒカリが意外そうな声を出す。


「範囲を重視した分、威力が落ちたかも」


 と三郎丸は自分の手ごたえを共有する。

 

「なるほどねー。雷よ、荒ぶる力を【トネール】」


 ヒカリの雷属性の下級呪文で一番右のジャイアントモンキーにとどめを刺す。

 三郎丸が攻め、ヒカリがトドメを刺し、マヤが守る。


 これをくり返して五匹すべてのジャイアントモンキーを倒し切り、桜が遺骸から頭部と尻尾を切断して収納した。

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陰キャの成り上がり~努力したら強くなりすぎた?~ 相野仁 @AINO-JIN

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