第18話「外の街に行ってみよう」

「何かクラスのみんなバラバラになってきたね」


 と三郎丸は朝食をとりながら、右隣に座るマヤに話しかける。


「夕食以外、見ないやつがほとんどになったよね」


 マヤはうなずいて応じた。


「習熟度とチーム構成に差が出てきた以上、集団行動する意義はほとんどないですからね」


 彼の前に座るオリビアが微笑みながら説明する。


「まさか朝もばらけるとは」


 と三郎丸は意外感を出す。

 いま食堂には彼らのグループしかいないのだ。


「ほかの街やダンジョンに行くからって、一時間も早起きしたからねー」


 とヒカリはすこしつらそうな顔で言い、あくびをする。

 

「どうやってこの人数で移動するんですか?」


 桜がオリビアに問いかけた。


「馬車ですよ。あとでお見せしますね」


「やっぱりかぁ。クルマってなさそうだもんね」


 とマヤがこぼす。


「クルマとは?」


 すかさず拾ったオリビアが彼女に質問する。


「何人もの人を乗せて運ぶ乗り物です。燃料があれば動物なしでも動くんですよ」


 マヤの代わりに桜が説明すると、オリビアはすこし考え込む。


「ここから離れた皇国に似た乗り物があると聞きますね。むかし召喚された方が作って普及させたとか」


 この言葉を聞いた日本人たちは顔を見合わせる。


「クルマって作れるものなの?」


 とヒカリが首をかしげると、


「材料があればいけるだろうけど、むしろガソリンは? そっちのほうが大変なんじゃ?」


 と桜がぶつぶつとつぶやく。


「あるいはこの世界だと魔力で動かせたりするのかな」


 三郎丸は可能性を思いついた。


「ええ、魔力で動くそうです。がそりんというものは聞いたことがないですね」


 とオリビアが答える。


「洋平、いい勘してるね」


「やるじゃん、よーへい」


 ヒカリとマヤのふたりは驚き、予想を当てた三郎丸を褒めた。

 

「たまたまだよ」


 と彼は謙遜する。


 フィクションで魔力を動力源とするアイテムを見たことがあっただけだから、自分の手柄とは思えない、とつけ加えた。


「皆さんの世界も想像力が豊かですよね。それとも世界が違っていても、発想は似通ったりするのでしょうか」


 彼の言葉を聞いたオリビアが楽しそうに手を組み合わせる。


「同じ人間同士ですからね。たどるルートは違っても、ゴールは同じだったりするかもです」


 桜の言葉に三郎丸はなるほどな、と思う。

 

「まあ全然違っていると、適応するのに困っただろうね」


 と彼は感想を言った。


「もしかしするとそこは神器の力で、こちらの世界になじめる可能性が高い世界から選ばれたのかもしれませんね」


 とオリビアが予想を口にする。


「ありそうですね」


 三郎丸と桜のふたりは同じ予想を持つ。

 

 彼らが朝の準備を終えて聖堂の庭に行くと、立派な黒い二頭の馬にひかれた大きな馬車が待機していた。


「わぁ、馬車なんて初めて見たかも」


「ほんと。馬も乗り物もカッコイイじゃん」


 それを見たヒカリとマヤのテンションが高くなる。

 桜はある一点を見つめたあと、そばにいるオリビアに質問を放つ。


「馭者がいないですけど、どうするんですか?」


「それはわたしたちが引き受けます」


 答えたのはアイシャとリリーのふたりだった。


「わたくしもできるのですが、立場上ふたりに任せております」


 とオリビアは説明する。

 

「それはそうでしょうね」


 一国の王女が馭者というのは、世間体的にまずいのだろうと三郎丸も桜も納得した。


「皆さんからどうぞ」


 リリーがドアを開けてくれたので、三郎丸、桜、マヤ、ヒカリ、オリビアの順に乗り込み、最後に乗ったリリーがドアを閉める。


 中は広くないものの、クッションと背もたれが設置されていて座り心地は悪くなかった。


「隣町まではどれくらいかかるのですか?」


 と三郎丸が正面に座ったオリビアに問いかける。


「二時間くらいでしょうか。ここからなら日帰りできる距離ですよ」


「早めに出たことでゆとりが生まれそうですね」


 七時に出て九時に着き、日没前に帰ってくるなら、六時間から七時間は滞在できるだろうか。


 彼女の答えを聞いて三郎は簡単に計算した。


「どんな街なのか楽しみー」


「可愛い服を売ってる店はあるかな?」


 マヤとヒカリのふたりは買い物か旅行に行くように、声をはずませている。


 オリビアはちらりと見たものの、緊張感がないわけではないと見てとったので何も言わなかった。


「ふたりともバランスいいんですよね。俺なんて緊張が勝つんですけど」


 と三郎丸がオリビアに言う。


「してるようには見えませんよ」


 ジョークと思ったのか、オリビアはくすっと笑った。


「そうですか?」


 三郎丸は本気だったので首をかしげる。


「ふたりの様子を把握できてるし、よく見えてると思うよ」


 と桜が言った。


「洋平がリーダーでよかったよね」


 とヒカリがうなずく。

 

「褒めすぎじゃないかな」


 三郎丸はちょっと困惑する。


「そう? 正当な評価じゃね」


 とマヤも彼のことを認める発言をした。


 照れくさくて外に視線を向けた三郎丸は、馬車のスピードが落ちてきていることに気づく。


「何かトラブルでもあったのでしょうか?」


「……まさかの賊ですね」


 彼の疑問に応えたのは遠くを見ていたリリーである。


「賊!?」


 聞きなれない単語に三郎丸、マヤ、ヒカリの声が重なった。


「聖堂の周辺だから治安はいいと思ってた。変なところなかったし」

 

 桜が愕然とする。


「ええ。周囲に根城があるのではなく、よそから流れてきたのでしょう」


 とオリビアが落ち着いた調子で話す。


「冷静ですね?」


 気になったのか、桜が彼女を見つめる。


「たまにあると騎士から聞かされていたので。遭遇したのは初めてですけど」


 オリビアは微笑というよりは苦笑しながら答えた。

 

「オリビア様の反応を見ていると、深刻な状況じゃないらしいことはわかってきました」


 と三郎丸が言うと、桜はハッとする。


「そっか。わたしたちを落ち着かせてるんだ」


「なるほど、オリビア様もよーへいもあったまいいー」


 彼女が気づきを言葉にして、合点がいったとマヤが感心して手を叩く。

 

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