第16話「いつの間にか女子たちに認められていた件」

「プレートとは討伐者のランクを示すものです。万が一の際、身元を特定する手掛かりになるのですよ」


 とオリビアは説明して、真ん中のカウンターにいる若い女性に目をやる。


「皆さんは七級からスタートですから、赤色のプレートになります」


 女性はあわてて四つのプレートをカウンターの上に並べた。

 

「何かチョーカーっぽいね」


 と桜が指摘したように、赤色の細長い四角形のプレートがついている以外はチョーカーの見た目そっくりである。


「モンスターが口に入れたがらない素材を使っているので、原形をとどめやすいのです」


 と女性はにこやかに話す。


「説明がこわいよ」


「万が一って食べられる可能性もあんのか」


 マヤとヒカリのふたりが女性の言葉の意味を理解して、顔をしかめる。

 

「モンスターに敗れた場合は厳しい未来が待ってますね」


 と話すオリビアの表情から笑みは消えていた。


「悪い部分も隠さないから信用できますね」


 三郎丸は空気を変えるために彼女をフォローする。


「同感」


 三人の女子も彼の考えを支持した。


「皆さんの理解に助けられます」


 オリビアがホッとする。


「俺たちの名前は登録しなくていいんですか?」


 三郎丸がフィクションの知識を思い出して、彼女に質問してみた。


「チーム名だけです。名前はいますぐでなくとも大丈夫ですよ」


 とオリビアが返事をすると、カウンターの向こうにいる男女がみんな首を縦に振る。


「けっこうゆるいんですね」


「こっちのほうが気楽でいいじゃん」


 マヤとヒカリが微笑をかわす。

 

「たしかに日本のほうが几帳面だったかも……」


 と三郎丸がふり返ると、


「組織としてはあっちのほうが正しい気はするけどね」


 桜は苦笑する。


「名前って何かいいのあるかな?」


 三郎丸が独り言のつもりでつぶやくと、マヤがちょっと驚いて彼を見た。


「いま決めんの?」


「いま名前を決めてチームを発足させておくと、実績や報酬の管理がやりやすいのかなって。気持ちの問題が大きいんだけど」


 と三郎丸は答える。


「それもそうだから決めちゃおうか。このあと急いでるわけでもないし」


 桜が賛成すると、マヤとヒカリも「それもそう」とうなずく。


「ふたりのアイデアは何かある?」

 

 桜がマヤとヒカリにたずねた。


「フルーツパフェ」


「ラムレーズン」


 マヤとヒカリはほぼ同時に答えて、お互いの顔を見合わせる。


「それ、マヤの好きなものじゃん」


「そっちもじゃん」


 とふたりは言い合う。


 マヤはフルーツパフェ、ヒカリはラムレーズンが好きなのか、と三郎丸は初めて知った。


「ほ、桜さんは何かある?」


 と三郎丸が空気を変えたくて質問をふる。


「和名だと浮きそうだから、【ビジター】か【アナザーマン】はどうかな?」


「異世界人アピールをするんだね」


 桜の考えを聞いて彼はなるほどなぁと思った。


「洋平くんの意見は?」


 と桜に逆に問いかける。


「フォーリーブスクローバーはどうだろう? 幸運に守られて、日本に帰れるようにって願いを込めてみた」


 三郎丸は思いついていたアイデアを告げた。


「いいんじゃない?」


「あーしらちょうど四人だしね」


 ヒカリとマヤはにっこりして、彼のアイデアに賛成する。


「いい考えだけど、チームって増えたりしないの?」


 桜は賛成しつつ気になった部分を聞いた。


「そこはどうなんだろう? できれば戦士や騎士に来て欲しいよね」


 三郎丸は即答せず、オリビアをちらりと見る。


「チームは途中の加入と脱退を認められています。人数に応じて呼び方が変わる可能性はありますけど」


「それなら数字は外して【ラッキークローバーズ】はどうかな?」


 彼女の返事を聞いた桜が三郎丸たちに提案した。


「人数が変わるなら、たしかに数字は入れないほうがいいかな。幸運のクローバーって意味は同じなんだろうし」


 彼は納得して桜に賛成する。


「五人いるのにフォーリーブスは変ってなるかもね、言われてみれば」


 ヒカリとマヤは微笑みながら支持に回った。


「では決まりですね。登録手続きをしておくといいでしょう」


 とオリビアが三郎丸を見る。


「俺がですか?」


 意表を突かれた彼に、女子たちは笑う。


「洋平くんが一番リーダーに向いてると思う」


「ウチも洋平がいい」


「あーしもよーへいの判断なら従うから」


 三対一という構図に三郎丸はあっけにとられた。

 同時にいったいいつの間に、彼女たちから認められたのだろうかと怪訝に思う。


「わたくしもヨーヘイさんが一番適任だと支持します」


 オリビアにまで言われて三郎丸は断れなくなってしまった。


「わかりました。がんばります。みんなを頼りにしますけど」


 三郎丸は自信がないところをこぼす。


「ひとりに背負わせるつもりはないから」


 と桜は微笑む。


「いっしょにがんばろーよ」

 

 とヒカリは明るく彼絵を励ます。


「頼って頼られってやればいいじゃん?」


 マヤは軽い調子で言った。


「いいチームになりそうですね」


 四人の様子を見ていたオリビアが期待を口にする。


「では【ラッキークローバーズ】というチーム名で登録しますね。お名前を聞かせてください」


 空気を読んで黙っていたカウンターの女性が、タイミングを見計らって書類を取り出す。


「洋平、桜、マヤ、ヒカリの四人です」


 三郎丸は苗字を省いたが、女性は気にしなかった。


「リーダーはヨーヘイさん、男性ひとり、女性三人のチームですね。登録いたしました」


 と女性は営業スマイルで告げる。


「本日やるべきことは終わりですね。お疲れさまでした」


 オリビアが四人をねぎらう。


「終わったぁ」


 というマヤの声には実感がたっぷりこもっていた。


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