第15話「初めての討伐者組合」

「あ、そうか。ビッグラットとゴブリンを売らなきゃだ」


 三郎丸は失念していたと手を叩く。


「忘れていたんだ。じゃあ次からは確認するね」


 桜が意外そうな顔をしながら言う。

 

「あ、うん。助かるよ」


 彼女は忘れていなかったのだと思うと彼はちょっと恥ずかしいと同時に、心強くも感じる。


「さすが桜。頼りになる」


 マヤとヒカリのふたりも忘れていたと桜に声をかけた。


「では案内と説明に入りますね」


 オリビアは言って踵を返す。


「街へと戻りましょう」


「ええ」


 返事した三郎丸は地上に出たところで、オリビア、リリー、アイシャの三人の服がすこしも汚れていないことに気づく。


「俺たちとはずいぶん違うな」


 傷らしい傷はないものの、彼ら四名はところどころ服が汚れている。

 

「見事な観察力ですね、ヨーヘイさん。ときどき本当に初心者なのか、と疑いたくなります」


 オリビアは足を止めて驚きを隠せない表情で話す。


「初心者ですよ、間違いなく」


 三郎丸はふしぎそうな顔で断言する。


 前世の知識を持っていなければ、この世界が二周目という設定を持っているわけでもない──もしもそうであればもっと現状を楽しめただろう。


「強くなればああなれるってことね」


 と桜が三郎丸の右側に並びながら小さい声で言った。


「あの三人の強さ、よくわかんないけどね。いまのウチらよりずーっと強いってことだけわかる感じ?」


 ヒカリが三郎丸の左に並びながら言う。


「そうだな。俺たちが英雄って呼ばれるのが本当なら、そのうち追いつけると思うよ」

 

 三郎丸とは予想を口にする。


 でなければ時間もお金も労力もかけて、彼らを育成しようとする理由にならない。


「でもまあ、彼女たちでも厳しい相手と戦うのだと考えれば、楽観的ではいられないよね」


 桜は現実を指摘する。

 

「だよな」


 まさに三郎丸も同じ理由で浮かれていないのだった。


「オリビア様、地に足の着いた方々ですね」


 とアイシャが主人に話しかける。


「ええ。彼らは希望の光よ」


 と言われたら三郎丸たちも悪い気はしなかった。



 街に戻った三郎丸たちはオリビアにとある建物へ案内される。


「モンスター討伐者組合?」


 建物に掲げられた看板を三郎丸が読む。


「ええ、モンスター退治を生業にする方々のための組織、通称モンスターギルドです。おそらく皆さんが最も利用することになる機関のひとつでしょう」


「モンスターギルド」


 三郎丸の複雑な表情に気づいた桜が声をかける。


「何か心当たりでも?」


「やっぱり俺たちになじみやすいように、言語が翻訳されてるのかな」


 でないとピンポイントでこの言葉にならないのでは、とさすがの三郎丸も勘繰った。


「たぶんそうでしょ?」


 今さら何を言ってるの、という顔で桜は答えを返す。

 どうやら彼女はとっくに辿り着いていたらしい。


「同じような物があったとしても、発音は現地風になるのが自然で、どれも日本風なのは不自然だから」


 彼の視線を受けた桜は理由を語る。


「頭のいい理論だ」


 自分にはない発想だと三郎丸は感心した。


 オリビアはニコニコしながら、アイシャとリリーは驚いた表情で彼らの会話を聞いている。


「天におわす主上に感謝しなければ。あなたたちはきっとこの世界を救う英雄です」


 とオリビアは言う。


「いやぁ……」


 照れたのは三郎丸ひとりだけで、女子三人はお世辞を聞いているような顔で受け流す。


「ではギルドに入りましょうか」


「あ、話をとめてごめんなさい」


 桜がハッとした顔で詫びる。


「別にいいと思うよ。俺たちは毎日が発見の連続なんだから、どうしても止まってしまうだろう」


 三郎丸が彼女のフォローすると、女子たちはうなずく。


「おー、洋平、いいこと言うじゃん」


 ヒカリが彼の肩をぽんと叩いた。


「よーへいの言う通りじゃね? 桜は気にしなくていいよ」


 マヤも同意し、彼らは順番に建物の中に入る。

 建物の内部は古くて質素だったが、三郎丸にとって意外なことに清潔だった。


「おや? 見たことがないかお」

 

 カウンター付近にいた体格のいい中年の男が三郎丸を見て口を開き、オリビアの存在に気づいて硬直する。


「知り合いですか?」


 三郎丸は名前を呼ばない配慮をして、オリビアにたずねた。


「いえ、ですがわたくしはそれなりに有名人なので」


「でしょうね」


 彼女の返事は意外でも何でもない、と三郎丸は思う。


「向かって右側の掲示板に依頼が貼られています。討伐ランクによって、受注できる依頼が変わります」


 オリビアは何事もなかった顔で彼らへの説明を再開させる。

 

「ランクは七段階にわかれていて、あなたがたは一番下の七級からスタートします」


「数字なのはわかりやすいですね」


 と三郎丸は答えた。

 

「依頼をこなしていけば上がっていくんですよね? 報酬は出るんですか?」


 と桜が問いかける。


「もちろんです。七級だと一件につき一万から三万ゴールドが相場ですね」


「やすそう」


 オリビアの説明を聞いて、ヒカリが率直な感想をこぼす。

 

「モンスターの部位を売ることで、報酬の上乗せが可能ですよ」


 とオリビアがにこりとする。


「ああ、なるほど。そこにつながるんですね」


「部位を持ってきた意味がわかりました」


 三郎丸と桜のふたりは合点がいったとうなずき合う。


「真ん中のカウンターが依頼の承認と報告、一番左のカウンターが部位の確認と買い取りの業務をおこなっています。皆さんがいま用があるのは左ですね」


 というオリビアの言葉を聞いて三郎丸と桜のふたりが左のカウンターに立つ。


「素材の買い取りなら、カウンターの上に並べてくれ」


 中年のスキンヘッドのおじさんが話しかけてきた。

 桜と三郎丸のふたりが協力して並べていく。


「ビッグラットが十一、ゴブリンが八か。説明されてたところをみるとお前ら新人だろ? かなり有望だな」


 カウンターのおじさんが目をみはる。


「ビッグラットは全部で二十二万ゴールド、ゴブリンは八万ゴールド。合わせて三十万ゴールドで買い取ろう」


「三十万だとひとり当たり七万五千ですね」


 桜は即座に暗算した。


「労力に見合ってるのか、実感できないね」


 ほかの三人は小声で言い合う。


「報酬は銀貨と銅貨でいいな? あと、新人ならプレートも作っておけよ」


「プレート?」


 知らない単語に四人の日本人の視線がオリビアに向く。

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