第11話「初めての街」

 異世界に召喚されてから十四日目。


「雷よ、荒ぶる力を我が身に宿せ【エタンセル】」


 まず綱島が雷を体にまとう。


「火よ、荒ぶる力で我が身を覆え【シャルール】」

 

 次に三郎丸が火で体を包む。


「水よ、荒ぶる力で我が身を包め【フラール】」

 

 続けて竜王寺が水の力で体を覆う。

 そして三人でゆっくりと体を動かしていく。


「皆さん、五分は維持できるようになりましたね。神器の選別はたしかなのだと実感してます」


 オリビアが三人を褒め、アイシャ、リリーが拍手してくれる。


「まあ、何とかいけました」


 三郎丸が言うと、


「あんた、一番最初にクリアしたでしょ」


 綱島が隣からツッコミを入れて、竜王寺と本郷がくすっと笑う。

 達成感があるからか、いい雰囲気だ。


「皆さんにはそろそろモンスターとの戦いを経験していただきたく思います」 


 オリビアが軽く咳払いして次の予定を告げると、四人に軽く緊張が走る。

 

「いよいよって感じだね」


 三郎丸が言うと女子たちはこくりとうなずく。


「時間的に余裕はありますので、慣れるまでわたくしたち三人も同行いたします」


 というオリビアの発言に驚かされた。


「いいの?」


 竜王寺が聞くと、オリビアたちは微笑む。

 

「いきなり敵の本隊との戦闘は無茶すぎますから。まずは近くのダンジョンに行きましょう」


「ダンジョン? この近くにあるんですか?」


 ここは大きな都市ではないのか、と三郎丸が疑問を抱く。


「たしかに危険な場所に都市を作るのはおかしいね」


 本郷も彼に同意する。


「皆さんの考えではそうなのですね」


 オリビアたちは新鮮な情報を聞いたという表情になった。


「こちらではダンジョンの監視と管理をするために都市を作り、定期的に人を送り込むという考えがあるのです」


「そうなんだ」


 オリビアの返事を聞いて、常識の違いを三郎丸たちは感じる。


「さすがに王都の周辺にダンジョンはありませんが」


 と言ってオリビアが笑うと、つられて三郎丸たちも笑う。

 

「近くにあるダンジョンは規模は小さく、敵も弱いので練習用として適していると言えます」


「だからここで俺たちを召喚した、とか?」


 三郎丸はオリビアの説明を聞いているうちにふとひらめく。


「実はその通りです。よくおわかりになりましたね、ヨーヘイさん」


 オリビアたちは目を丸くして、本当に驚いている。


「すごーい」


「やるじゃん、三郎丸」


 綱島と竜王寺のふたりも三郎丸に感心した。

 

「三郎丸くんって、実はけっこう頭いいんじゃ?」


 本郷はひとりごとをつぶやく。



 三郎丸たちはこちらの世界に来てから初めて聖堂の敷地の外に出た。


 当たり前だが、見たことない建物が並んでいて、見慣れない格好の人々が行き来している。


「建物、なんだかイギリス風っぽいね」


 と本郷が言ったが、ほかの日本人たちにはビンと来なかった。


「お、可愛い服売ってるじゃん」


 と言ったのは竜王寺で、彼女の視線は服飾店に向けられている。


「あのアクセサリーも可愛いよ」


 と綱島はアクセサリーショップに興味津々だ。

 違いがよくわからない、と三郎丸は思ったので黙っている。


「建物と物価から推測するに……」


 本郷は周囲を観察しながらぶつぶつとつぶやいていた。

 三郎丸が何となく目を向けた店は、なんとたこ焼きが売っている。


「あれってたこ焼きじゃないか?」


 と彼が言うと女子たちの視線が一気にそちらへ向く。


「ほんとだ。マヨネーズかかってる」


「たこ焼きもマヨネーズもあるんだね」


 竜王寺と綱島が驚きの声をあげる。


「スマホがなぜかつながる世界だしね。充電は無理だけど」

 

 と三郎丸が言うと、


「誰かがスマホがつながるシステムを作ったのかもしれないね。充電までは手が回らなかったか、材料がなかったとか?」


 本郷が想像を話す。


「皆さんがご存じの食べ物なんですね。よければ召し上がりますか?」


 とオリビアに問われたので四人はうなずいた。

 全員そろそろ日本食が恋しい気持ちになっている。


「六個で六〇〇ゴールドになります」


 店主のおじさんはオリビアの顔を知っているのか、やけにていねいな態度だった。


「一ゴールドが一円から二円くらいだね。たぶんだけど」


 本郷の予想に三郎丸たちは感心する。


「桜ってそういう置き換え、得意だよね」


「頼りになるぅ」


 竜王寺と綱島の賞賛を彼女は微笑で受け止めた。

 

「皆さんでどうぞ」


 つまようじはなく、代わりにフォークを突き刺して食べるらしい。

 女子の視線が同時に三郎丸に集中したので思わず苦笑をこぼす。


 フォークで刺したたこ焼きを中に入れて味わう。


「……中にたこが入ってない」


 三郎丸は裏切られた印象を抱く。


「えっ?」


「たこがないたこ焼き?」


 三人は首をかしげながらほおばる。


「……たこがないね、たしかに」


「たこがないんじゃたこ焼きとは言わないのでは」


「この地域にたこは生息してないのかもね」


 と本郷が言い、四人で苦笑する。

 オリビアたちは会話に加わらず、四人のやりとりを黙って見ている。


「そう言えば俺たちの生活費ってどうやって稼ぐんですか?」


 三郎丸はたこ焼きを食べ終えたところでオリビアに問う。

 

「モンスターの討伐証明を持ち込むことで、報酬を受け取れます。ほかには需要がある部位を素材として売れます」


「ゲームの世界っぽいな……」


 彼女の回答を聞いた三郎丸は正直な感想を漏らす。

 ポジティブに解釈するなら、独特のルールがなくてありがたい。


「討伐証明?」


 ピンと来なかったのか、綱島が首をかしげる。


「そのモンスターだとわかれば何でもよいですよ。人気があるほど高く売れます」


 とオリビアが話す。

 女子たちの視線がいま一度三郎丸に向けられる。


「三郎丸はわかってるっぽいから、任せてもいい?」


 と竜王寺に聞かれた。


「うん、俺もなんとなくわかった気がするレベルだけど」


 三郎丸は自分のイメージとズレがあることを懸念する。


「最初のうちはわたくしたちも同行しますので、わからないことはご質問ください」


「フォローがこわいくらい手厚い」


 本郷がオリビアたちには聞き取りにくい位置でぼそりと言う。


 三郎丸は人類の危機的状況かつ、現時点では多少余裕があるという奇跡の産物だろうと思っている。

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