第2話 n回目の18歳の誕生日

 私が朝起きてすぐ、ママの声が飛んできました。 

「シャーリー。お姉ちゃんを起こしてきて」

そう、今日は大事なお姉ちゃんのお誕生日。というわけで階段を降りて半地下の部屋にある彼女の部屋へ向かいます。あの日のままの部屋の片隅にある棚の引き出しをそっと開けました。

「お姉ちゃん、おはよう」


引き出しの中、アクリル板の下のお姉ちゃんはまるですやすやと心地よく寝ているかのようです。お姉ちゃんがここで眠るようになってもう10年ほどたってしまいました。私は毎日のようにそっと引き出しを開けてお姉ちゃんの寝顔を眺めて声をかけたりしています。それでもたまに彼女に話しかけても何も返事がないことがつらくなって、彼女はただ話せなくなっただけなんだと私自身に言い聞かせることもありました。


 そして毎年お誕生日会の日はそのアクリル板を開けてお姉ちゃんを担いでリビングまで連れていき、最後に彼女をリビングのロッキングチェアに座らせています。

「まるでゆっくり休んでいるみたいね」

そんなお姉ちゃんの姿を見たママのつぶやきが聞こえてきました。


 お姉ちゃんの前でママはお手製のケーキをテーブルに置いて小皿を並べました。そこにすっかり大人になって社会人の風格を感じるお姉ちゃんの小学生時代の同級生そして私の友人たちがやってきて玄関からリビングに通しました。みんなが座ったところで歌を歌いお姉ちゃんの代わりにケーキの上に立っているろうそくの火を私が吹いて消した後、ママと私でケーキを切り分けました。もちろんお姉ちゃんの分も。彼女はもう食べることはできないけど……そして友人たちはテーブルの上で再開を喜び合ったり床の上でゲームをやっていたりしました。


 日もすっかり落ちて、私たちの友達が帰ってしーんとした我が家。今でも18歳であどけないティーンエイジャー姿のままのお姉ちゃんと26歳になった私。そんなお姉ちゃんをソファに移動させた後、私たちふたりのツーショットをママにスマホで撮ってもらいました。力なくもたれかかるお姉ちゃんを私の体で支えながら。そして私は彼女を抱きしめた後そっと担いで彼女の部屋へ移動しました。

 机の上にはママと私がお姉ちゃんのために選んだ新しい服が置いてありました。お姉ちゃんを一度ベッドの上に寝かせた後にブラを付け替えてから、腕を上げて新しいブラウスの袖を通した後に、ボタンを留めて腰を少し上げスカートをはかせました。ママと私の自己満足かもしれませんが、お姉ちゃんに毎年新作の服を着せてあげるのが私たちなりの彼女への誕生日プレゼントなのです。そして着替えの済んだお姉ちゃんを担いで引き出しの中のシーツの上にそっと寝かせました。最後に隅に置いてある防虫剤と使い捨てカイロを交換した後にアクリルのふたを上に置いて金具で留めました。

「お姉ちゃん、おやすみ。また来年、起こしてあげるからね。」

私はそうつぶやいた後、引き出しをそっと閉めました。



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