4-3
寮の外、交通量の少なすぎる車道のガードレールに背をもたれて煙草に火をつける天。両手をガードレールについて、その向こうの海を見ている俺。海は穏やかで、あまり波はなく、音もそこまで聞こえてくるわけではない。潮風が少しツンと来て、闇に溶けつつある、夕没後の、夕焼けの残りカスみたいな光を見ていた。
「話、聞いていたのか」
「いや、流石に聞こえては来なかったわよ。でも、入っていくのは見えた。しばらく待っていたら出て来た。なかなかやるじゃない。あの子の扉を開けるだなんて」
「何もしてない。何もしてないよ、俺は」
少し本音を話しただけだ。それだけだ。
「それで、彼女の過去については。どうだったの」
「ああ。簡単に言うと、昔引き籠もりだったこと。それで学校にはあまり行ってないらしい。それと今は精神の病気で薬を服用している。そんなところかな」
「薬なら、確かに飲んでいるところを見たことはあるわ。普通の風邪薬っぽくなかったから、なにかと思ってたけど」
詳しくは、皆までは言うまいよ。言えるかよ、そんなこと。そんな事は、彼女が話したい相手に話したい時に話せばいい。それしか無い。
「さて、これでもう全員じゃないか。調べるべきクラスメイトはこれで全員じゃないか。あとは……いるとしたら担任か? え、あの人まで捜索するの?」
「いやいや、いや。秋先生はいいわよ。対象外」
「そしたら終わりだな、こんな探偵ごっこも」
なんか、後引けるというか、あまり積極的な気持ちにはなれなかったから、終わるのは良い。少し仲良くなるきっかけにはなったかもしれないと思うが、それでも他人の過去を暴くような、そんな後ろめたくなるような行為は、もうたくさんだ。
「まだいるわよ」
え?
「ほら、私」
天。
そう、彼女は言うのだった。この企画の首謀者にして、俺を動かした黒幕。そしてたぶん、一番壮絶な過去を持っているだろう人物。彼女が、彼女自身が残っている。そう、言うのだった。
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