桃太郎
日比谷野あやめ
桃太郎
むかしむかし、あるところに、桃から生まれた桃太郎という男の子がいました。その子はめちゃくちゃ強かったので鬼退治に行くことになりました。
おばあさんからきび団子を持たされた桃太郎は、いぬ、さる、キジ、そして……
「ポゥ!」
マイケル・ジャクソンを仲間にしました!さあ、冒険の始まりです!
最初は動物3匹と人間1人で不安そうな桃太郎でしたが、マイケルが踊りを通じて動物たちとコミュニケーションをとってくれたおかげで、道中を楽しく過ごすことが出来ました。そう、マイケルはみんなの潤滑油として、いつしかかけがえのない存在になっていたのです。
鬼ヶ島に着くと戦闘が始まりました。さるは引っ掻き、いぬは噛みつき、キジは空から鬼を妨害し、そしてマイケルは踊りでみんなを鼓舞しました。桃太郎も必死になって刀を振り回しました。しかし、所詮桃太郎は力が強いだけの素人。戦い慣れている鬼たちには歯が立ちません。
「ぐっ……!」
遂に桃太郎が膝をついてしまいました。このまま、鬼にやられてしまうのでしょうか?
ふと、膝をついた桃太郎の横をマイケルが通り過ぎ、前に立ちました。
「まいける、危ない!」
「Leave it to me(僕に任せて)」
止める桃太郎を背にマイケルはそう言うと、不思議なステップを踏み始めました。一見前に足を踏み出しているように見えるのに、実際は後ろ向きに進んでいくのです。初めてみた時、桃太郎たちは手を叩いて興奮したものです。やがてマイケルの周りの空気が歪み始め、その場にいた一匹の鬼を包みました。するともっと不思議なことが起こりました!なんと、その鬼がいきなり苦しみ始めたのです。どうやら息が出来なくて苦しんでいるようでした。
皆さんもうお分かりですね?そう、マイケルは「ムーン・ウォーク」をすることにより、そこに無重力空間を現出させたのです!
「すごいじゃないか!まいける!」
「ワンワン!(まいけるさん、流石です!)」
「キーキー!(まいけるさん、やっちゃってくださいよ!」
キジは興奮して羽をバタつかせました。
マイケルはムーン・ウォークでどんどん鬼を倒しました。最後の鬼も、マイケルの無重力空間で弱った後、桃太郎に止めを刺されて死にました。桃太郎は笑いました。長年、人間を苦しめていた鬼はこの世から無くなったのです。
「まいける、お前のおかげだ!本当にありがとう!」
桃太郎がマイケルを振り返ると、マイケルは地面に倒れていました。
「どうしたんだ?まいける!」
「ワンワン!(マイケルさん、しっかりしてください!)」
「キーキー!(まいけるさん、身体の具合が悪いんですか?」
キジも心配そうにマイケルを見つめます。
「I'm done for it. Please forgive me for leaving you.(僕はもうダメだ。君たちを残して逝くことを許してくれ)」
マイケルは今にも消え入りそうな声で囁きました。みんな、彼が何を言ってるか全く分かりませんでしたが、これが最後の時なのだということだけは強く感じていました。
「まいける、大丈夫だ。心配しなくても鬼は全員退治した。安心してくれ」
「ワンワン!(まいけるさん、おなかが空いてるならきび団子ありますよ?)」
「キーキー!(まいけるさん、眠いんですか?)」
キジも自らの羽でマイケルを包み込みました。
マイケルの手が地面に落ちた時、みんなの胸にはマイケルとの様々な思い出が蘇りました。
最初は何を言っているか分からなかったのでハブられ気味だったマイケル、野宿をしていてクマに襲われた時踊りでクマを懐柔して救ってくれたマイケル、みんなの英雄になり勝利のムーン・ウォークを披露してくれた時のマイケル、吉原に行った時に遊女の肌を見て「That's it!」と叫んだ翌日に白塗りになったマイケル、よく前に倒れるフリをしては起き上がってみんなを揶揄うのが好きだったマイケル、様々なマイケルが通り過ぎてはムーン・ウォークで戻ってきました。
「墓を立てよう」
桃太郎が故郷に帰り、マイケルの話を伝えると、おじいさんはポツリと呟きました。
村のみんなも賛成してくれ、毎年毎年村には墓建設用の石が運び込まれました。そして、それは鬼ヶ島の財宝で煌びやかに飾られ、どんどん高く、高く、天高く伸びていきました。桃太郎が亡くなっても、戦争があっても、高度経済成長期が訪れようと、それはどんどん伸び続け、具体的に言うと、634mにまでなりました。
皆さん、もうお分かりですね?これが東京スカイツリーの始まりです!
マイケルはスカイツリーの先をそっと、愛おしそうに撫でました。
桃太郎 日比谷野あやめ @hibiyano_ayame
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