第7項

色づきかけた日常も束の間だった。


冬のあの日、初めて自転車に乗れたときのような感動が身を包んだ。

だが、春になるとその自転車は移動の手段に変わっていた。


紫陽花が開き、まとわりつくような気だるさが街を包むころ、手段から苦痛に変わった。


進んでも進んでも変わらない景色。

何度も途中だと信じたが、信じるために必要なエネルギーは底をつきた。


信号待ち、一時停止標識、渋滞。

日常のすべてが自分の行く手を阻むものに思えた。


次第にチェーンは錆びつき、ペダルは外れていった。

ぶらりと垂らした足がどこに着くわけでもない。


これ以上、慣性で進むことはできなかった。

気づけば景色は色を失っていた。


モノクロの中、もがく権利もなく、不時着するしかなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る