【朗報?】俺のダンジョン食堂を潰そうとしたアイドル配信者に飯テロで分からせしたら、うっかりバズった件

ぽんぽこ@書籍発売中!!

メスガキ配信者の分からせ定食


 ダンジョン内とは思えない田園風景に、ポツンと建っている木造平屋建ての食堂。


 その正面に立ち、満面の笑顔でカメラに挨拶するのは、近ごろ人気沸騰中のアイドル配信者だ。



「貴方のハートに流れ星! 星空メルルのグルメちゃんねる、はっじまっるよ~!」


 キューティクルな金髪をツインに束ねた、スレンダーな美少女。

 地雷系ファッションを身にまとった可愛らしいキャラクターをしているが、その正体は宇宙からやってきた侵略者インベーダーだった。


 これまでメルルは持ち前の毒舌で、地球人が作る料理を片っ端から否定してきた。料理人のメンタルを容赦なくへし折る様子は、宇宙人たちの間で大バズり。

 宇宙船内における、同時接続数・チャンネル登録者数は共にトップを誇っていた。



「今夜も始まりました、メルルの突撃☆食レポのコーナー! 本日はあの噂の名店。ダンジョン食堂さんへとやってまいりましたぁ~!」


 メルルとカメラが店内に移動し、キッチンにいる人物を映し出す。

 そこには黒髪にコック帽をかぶり、エプロン姿で手際よく調理をする少年の姿があった。


「彼の名は、ナオトさん。ここダンジョン食堂の店主であり、そして日本を代表する凄腕料理人でーす!」


 パチパチと拍手するメルル。賞賛するセリフとは裏腹に、あなどりの表情がありありと浮かんでいた。


 ナオトと呼ばれた少年も、特に否定するでもなく黙って調理を続けている。



「お店のメニューはどれもこれも素晴らしく、味にうるさい食通たちも舌を巻くと大評判! ですが~……」


 もったいぶった調子で、メルルがナオトを指さす。


「そのどれもこれもが、地球人向けのメニューでありまして~……宇宙から来た私たちにとっては正直『レベル低っ!』って感じなんですよねぇ」


 腕をふりあげ、わざとらしく憤慨するメルル。


《この煽りきったドヤ顔好きw》

《我らぐらいになると、低次元のものはお口に合わないんだよな》

《調理される食材が可哀想》

《地球人には無理して、美味しいもの作らなくていいって言ってるのになぁw》


 メルルの言葉に、視聴者たちがコメントで同調する。

 本来なら食事を必要としない彼らだが、決して味覚がないわけではない。むしろメルルは、料理センスと味覚の鋭さに絶対の自信があった。



 店内の客たちがギロリと睨む中、彼女はカウンター席に腰を落ち着けた。


「なので今回も! この天才料理評論家のメルルちゃんが、ズバッと料理のアドバイスをしちゃおうと思います!」


 ぱんぱかぱーん! というSEと共にメルルがメニュー表を手に取り、カメラに向かってウインクする。

 意気揚々と注文をしようとするメルルだったが――不意にその手が止まる。


(あ、アレ? 何よこのメニューの豊富さ。こんなにたくさんの料理、今まで見たことないわ……)


 メルルが注文しようとしているのは『本日のオススメ』。つまり日替わりメニューである。しかし、今日に限ってはそのバリエーションが多すぎた。


 彼女が焦るのも仕方のないこと。

 地球侵略の影響で、食材の流通は大半がストップしている。


 つまりメルルがこれまで地球で食べてきたのは、料理とも言えないものばかりだったのだ。


 だが、ダンジョンで豊富な食材が得られるこの食堂は事情が異なる。



「え~っと、定番から攻めるとしてぇ……まずはこの店長イチオシ? というのを注文してみましょう!」


 メニュー表とにらめっこしながら、メルルが選んだのは――すき焼き定食だった。


(……でも待って? この写真にあるのってお肉よねぇ?)


 これは知識の豊富なメルルも聞いたことがない料理だ。

 そもそも宇宙船に牛はいないし、地球でも現在は乳牛ばかり。だから牛肉なんて食べたことがないのだ。


 いったいどんな味なんだろう?

 そんな疑問を持ちながらも、カメラに向かって『定番』だと知ったかぶりしてしまった手前、今さら注文を変えられない。



「店長、すき焼き定食一つ入りました!」


 やたら綺麗な女性店員が注文を告げると、ナオトはうなずいて調理に取り掛かった。


(大丈夫かしら……変なものを出されたら困るわ)


 宇宙人が持つ高度なAIは、食材に最も適したレシピを導き出す。

 そして精密機械による一ミリの誤差もない調理で、完璧な食事が提供されるのだ。

 それらの技術を持つ彼女たちが、下手な食事で満足できるわけがない。



 自分が選んだメニューは失敗だったかもしれない、と不安になるメルルだったが――提供された料理を一目見て、そんな思いは吹き飛んだ。


「お待たせしました! こちら本日のオススメ、すき焼き定食になります」


 十分ほど待っていると、メルルの前に料理の乗ったトレーが置かれた。

 中央には存在感のある鉄の鍋が、デデンと鎮座している。


(これがすき焼きなの……?)


 さっそくとばかりに、メインと思われる鉄鍋の蓋を持ち上げてみる。

 瞬間――彼女の鼻腔に食欲をそそる香りが広がった。


「わぁっ!?」


 メルルはカメラが回っていることも忘れ、思わず大声を上げた。

 だがそれも無理はない。


「こ、これが……牛肉?」


 黒いスープの中に浮かぶ肉片が、宝石のように輝いて見えたのだ。


 人参、しいたけ、豆腐、しらたき。他のどの食材も美しい。彼女が今まで食べてきたものと比べれば、見た目からして美味しそうな品々ばかり。


(す、すごい……なんて美しい盛り付けなの!)


 鍋はすでに火から下ろしてあるにもかかわらず、今もグツグツと音を立てている。

 隣にある炊き立てご飯もホカホカと湯気を立てて、ふんわりと甘い香りを漂わせていた。


 口の中はもう唾液でいっぱい。

 早く食べたいとお腹が訴えている。


《メルルちゃんがこんなリアクションを取るなんて……》

《なんだろう、画面越しなのに匂いがする》

《真っ黒なスープって大丈夫なのか?》

《どの銀河にもあんな料理は無かったぞ?》


 視聴者たちも、メルルが料理に感動している様子を見てざわつき始める。


(待ちなさいよ! まだ食べてみなきゃ分からないじゃない!)



「あ、あのぉ~。もし食べ方がご不明なら、ご案内いたしますが」


 あまりにもメルルが料理を不安そうに見つめるので、店員の女性が声を掛けてきた。

 ハッとした様子で我に返った彼女は、「し、知ってるわ! これぐらい、当然よ!」と取りつくろう。


 そうして視聴者たちの期待が高まる中。

 メルルは震える手でフォークを手に取ると、まずはお肉を選んだ。


(さあ! 食べてやろうじゃないの!)


 ゴクリと喉を鳴らしたメルルは、さっそく肉を一切れ口に入れ――もぐもぐ。



「はむっ!?」


 その瞬間、彼女の身体がピタリと止まった。


《ど、どうしたんだ!?》

《声も出ないほど不味かったのか?》


 視聴者たちが期待と不安を胸に見守る中、メルルは目を見開いたままモグモグと咀嚼そしゃくする。


(あ、あれ? お肉ってこんなに美味しいの?)


 予想をはるかに上回る味わいに、彼女は内心驚いていた。


 お肉を噛み締めた瞬間、口いっぱいに広がる旨味。それでいて柔らかくて甘い味わいは、“極上”の二文字であらわされていた。



「小皿の生卵につけてから食べると、さらに美味しいですよ!」

「わ、分かってるわよ!」


 店員が指さしたのは、トレーの端っこにある黄色い液体。メルルはその存在に気が付いていた。

 気が付いてはいたのだが――。


(さらに美味しくなるですって? そんなの味わったら、私どうなっちゃうの!?)


 だがここまできて試さないのは彼女のプライドが許さない。

 店員のお節介なアドバイスの通りに、すき焼き肉をまんべんなくくぐらせる。

 そしてそのまま口の中へ、放り込んだ。



「~~~~~~~っ!?」


 その瞬間――彼女は宇宙の真理を悟った。

 これまで食べたどんな料理とも違う! いや、そもそも食べ物なのかコレは? お肉が口の中で溶けるようだ。それは卵と絡み合い、さらなる旨味を爆発させた。


 なるほど確かに、このすき焼きは素晴らしいものだと思う。こんな味を知ってしまったら、もうこれまでのように地球の料理を粗末に扱うことはできないだろう。



「なにこれぇ~! こんな美味しいもの初めて食べたぁ~!」


 もう我慢できなかった。彼女は夢中になってご飯をかきこんだ。

 そして再びお肉を食べる。


「ああ、美味しい! こんなにも米と合うなんて信じられないわ! さらに卵を絡めて食べることで、味の変化を楽しむことができる。この食べ方も素敵だわ~!」


(ああ……こんな食事ができるなら、侵略なんかどうでも良いかも)


 そんなことを考えてしまいそうになるほど、彼女は地球の食事を気に入ってしまった。

 もういっそこのままここで働きたいぐらいだわ。



「良かったら、こちらのドリンクをどうぞ」

「――? 私は頼んでないですよ?」


 先ほどの店員がメルルに差し出してきたのは、ジョッキに入った黄金色の飲み物だった。

 シュワシュワと泡を立てているそれを、メルルは首を傾げながら受け取る。


「こちらはサービスの生ビールです! 夜にご注文をいただいた、大人のお客様全員にお出ししていますので、ぜひ!」

「そ、そうなの? じゃあ遠慮なく……」


(まぁサービスと言うなら、別にいいわよね)


 見た目は若いが、実年齢は×××歳のメルル。タダならばとそんな軽い気持ちで彼女はグイッと一気飲みした。

 その飲み物の正体も知らずに――。



「――!?!?」


《おっ!?》

《今度はなんだ!?》

《あの毒舌メルルがだらしのない顔を……》


「おかわりを! お代わりをください!」


 一杯目を飲んだメルルは二杯目も一瞬で飲み干すと、店員に空になったジョッキを突き付けた。


 どこか満足げな表情で、彼女はさらなるビールを求めたのだ。その様子は、完全にアルコールの美味さにハマった者の証だった。



「濃厚で美味しいお肉に、スッキリな味わいのドリンク! ああもう最っ高よ~!」


 視聴者を置いてけぼりにしたまま、すっかり上機嫌なメルル。

 そんな彼女に対し、お代わりのビールを持ってきた店員が笑顔を浮かべる。


「あのぉ~……それで当店のオススメ料理は、いかがでしたでしょうか?」


 ――ん? とメルルが首をかしげた。店員の言葉が、何やら意味深に思えたからだ。


 そこで彼女はようやく気づいたのだ。自分が何を口にしてしまったのかを。



(なんで私、こんなに食事を楽しんでいるの!?)


 右手にあるのが三杯目のビールだと気が付いた時にはもう遅い。

 もう後の祭りだ。頭がフラフラして止まらないし、いつもの毒舌も浮かんでこない。

 出てくるのは正直な感想だけ。


「お、美味しかったです……」


 もうこれしか言えないわと、彼女はカメラに向かって微笑んだ。



(もう幸せだからいっかぁ)


《メルちゃん、遂に地球の食文化に屈した件》

《あんなにも自信満々だったメルルちゃんが敗北を認めたぞ!》

《私、明日この食堂に行く! ぜったい!》


 気付けば過去最大の同時接続数を記録。

 メルルが幸せそうな顔を浮かべた切り抜きは、瞬く間に宇宙間ネットで拡散された。


 こうしてメルルは食堂の売り上げに貢献しただけでなく、「地球を侵略したら美味しいご飯が食べられなくなる」という、新たな教訓を宇宙に知らしめた。



「ご来店、ありがとうございましたー!」

「ま、また来ます……」


 配信後、ちゃっかり〆のオジヤまで堪能したメルル。

 会計時にはお得な会員カードを貰い、ここに通いつめることを決心したのであった。




――――――――――――――――――――


ご覧くださりありがとうございます!

こちらの短編の元となった作品が、本日より公開スタートとなりました。


もし本作に少しでも興味が湧いてくださった方は是非、そちらもよろしくお願いします!

(ヒロインもたくさんおります!!)

https://kakuyomu.jp/works/16817330661112520534

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