第41話 スキルを生み出した女




 四人そろって朝食を食べてから、ティティに掃除と洗濯をさせた。

 食費も家賃も払っていないのだから、これぐらい働いてもらわないといけないだろう。


「ふう……たまには労働もいいものだな」


 庭の物干しざおに洗濯物を干し終えたティティが、汗をぬぐいながら言う。


「家事もせずにいままでどうやって暮らしてたんだよ……」


「掃除する時間があるならパチンコ屋に行くに決まっているだろう」


「ソウデスカ」


 あくまでコイツはパチンコ基準で動いているらしい。本当に、地球の神様の策略なのかは知らないけど、地球の沼に引きずり込んでしまったようで少々申し訳ない気持ちにもなる。

 俺がリビングの掃きだし窓に腰かけて、「どうやってお金を稼ごうか」と思案しているティティを眺めていると、千春が後ろから声を掛けてきた。


「私が蛍の部屋に行くことにしたから。ティティとヤックルに同室になってもらいましょう」


「……お、おう。千春がそれでいいなら構わないけど」


「寝相で顔を潰してしまったらごめんなさいね」


「どんな寝相で!?」


「こう――寝返りをうちつつ肘を打ち下ろすような感じで」


 そう言って、千春はひじ打ちの素振りを始める。怖ぇよ。

 なんだかんだ言いつつ、部屋割りまで見直したってことは、千春もティティをパーティの一員として認めてくれたらしい。掃除や洗濯する姿を監視していたようだし、それで合格点を貰えたのだろう。

 あとは、魔物と戦ってくれさえすれば、何も言うことはないのだけども。


「そういえばティティって、どんなスキルがあるんだ? マナー違反って聞いたけど、さすがにこれからギルドを組むって言うんだから、知っておいたほうがいいと思うんだが」


 金稼ぎについて悩み中のティティに声を掛けると、彼女は鼻で笑いながら「まったく使えないスキルを持ってきた」と答えた。

 俺たち地球人以外のスキルって、任意で選んで持ってきてるんだなぁ。

 チートじみたスキルはNGだろうから、明らかな差はでないと思っていたが――逆のパターンはあり得るのか?


「『パーフェクトアンサー』というスキルでな。状況に応じて最善の行動が理解できるというものだ」


 状況に応じた最善の行動って――それ強すぎないか?

 スキル発動に難しい条件があるとかならまだわかるけども。

 俺がポカンとしていると、彼女はさらに言葉を続ける。


「ふむ……口で説明するよりは見てもらったほうが早いか。蛍――私とこの庭で軽く戦おうか、武器は無しで構わないだろう?」


 唐突に、彼女はそんなことを言い始めた。

 その言葉に一速く反応したのは千春だった。


「スキルの説明をするんでしょう? 街の外に出ないとスキルは使えないわよ?」


 そう、俺もそれを言おうとした。ステータスの影響を受けないという意味では、レベル差がある俺とティティは街の中で戦ったほうが良いと思うけれど、スキルの確認はできない。

 だというのに、彼女はいまここでやろうと言う。


「理解しているとも」


 千春にそう返事をしてから、ティティはこちらを見た。

 ほうほう……やけに自信がありそうな感じだな。この自信は負けを確信してのものか、それとも勝ちを確信してのものか。

 俺は裸足のまま庭に降り立ち、スペースのある場所にやってきた。ティティも同じ場所へやってくる。


「何をしてるんですか?」


「ティティのスキルの説明ですって」


「ほぇ~」


 いつの間にかヤックルも来ていたらしく、千春と並んでリビングから俺たちを見ていた。

 俺と向かい合うティティは、なんとも言い難い表情をしていた。さきほどの掃除をし始めたときのような、つまらないけど、仕方なくやるといった雰囲気。


「本当にティティはこういうこと嫌いなんだなぁ――しおりで戦績も見させてもらったけど、ほとんど戦っていないようだし――なんでお前は代表に選ばれたんだ?」


「私が強いからだろう」


 俺の問いに、ティティは躊躇うそぶりもなくはっきりと答えた。

 俺も自分がまだまだだと思っているけれど、このワールド最強と言われているシェリアの配信も見ているし、自分が異世界人相手に引けを取らないと思っている。

 こうして対人戦をするのは初めてになるが――いったいどうなることやら。


「じゃあ遠慮なく――いくぞっ」


 いったいどんな戦いを見せてくれるのだろうとワクワクしながら、俺は彼女の元へ疾駆した。棒立ちだった彼女は、俺の接近を見て半歩後ろに下がる。

 ティティの懐目がけて蹴りを放つ――が、彼女はそれを左手でいなすように弾くと、俺に接近。その動きに躊躇いはなく、まったく俺の攻撃に臆している様子はない。

 俺はがら空きの顎に向かってアッパーを仕掛けたが、それもひょいと躱され――、


「うぉおっ!?」


 攻撃の隙間を縫うように、彼女は俺の額を人差し指と中指の二本でトンと押してきた。

 ……もしこれがナイフのような鋭利なものであれば――俺は死んでいた。

 その事実を頭が理解すると同時、自然と足がよろめいた。


「えぇ!? ほ、蛍さんが負けた!?」


「嘘でしょ……」


 観客の二人も、そろって驚いた声をあげている。

 これまでも俺は対人戦で勝ったことは無かった。親父の相手ばかりだったから。

 だけど、配信で見る限り、勝てそうだなとは思っていた。


 もちろん、強い異世界人には負けることもあるだろうと思っていたけど……まさかギャンブル中毒に負けるとは思っていなかったぞ。

 親父を相手にしているのとも違う――行動を全て把握されてしまっているような、そんな不気味なやりとりだった。


「『パーフェクトアンサー』というスキルは、私がいた世界で作られたスキル――恐れ多いことに、神様が私を元にして作りだしたスキルだ」


 呆然とする俺に、ティティはなんでもないことのように、そう言ったのだった


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