第27話/負けヒロインと僕が本当に両思いになった時・前



(くっ、いったい何を話してるのよ!! さっきから盗聴器が何故か使えないし……でもこれ以上近づいたら気がつかれちゃう!!)


 デパート内のアクセサリーショップ、その中に楯と秀哉、そして雪希が並んで。

 テナントによくある見通しのよい店内故に、付近の物陰から隠れて聞き耳を立てるというのが困難。

 そして慌てて出てきた故に変装などはしていない、強いて言うなら金髪を隠す大きめの帽子を被っているぐらいである。


(くっ、この胸がッッッ、自慢の大きなおっぱいさえなければ店に入ってもワンチャンばれなさそうなのにぃ!! ううううう気になるっ、たぁ君達はいったい何を……!!)


 千作秀哉と前浜雪希と一緒ならば、愛しいバカタレもとい楯は暴走しないだろう。

 しかしエイルが不在であるのをいいことに、彼が二人に何を吹き込んでいるか分からず。

 また、雪希が楯に色々暴露しているかもしれなくて。


「お、これどうだ楯。お揃いの竜のネックレス!」


「君さ、センスを前浜さんに磨いてもらえ??」


「秀哉君…………それいいわねっ!!」


「どうしてその修学旅行のお土産をちょっと豪華にしたようなクソダサネックレスを選ぶわけ君らさぁ!!」


(たぁ君が叫んでる? なに? 何があったのおおおおおおおおお!?)


 店外の気になって仕方がないエイルに気づくことなく、楯は親友カップルの意外な一面に頭を抱えた。

 もしかすると、この二人に相談したのは失敗だったのでは、なんて考えまで浮かぶ。

 しかし偶然かもしれない、もう一度選んで貰えば違うかもしれないと一縷の望みを抱いて。


「――――じゃあ二人とも、それぞれ他のを選んでくれないか? ちょっと参考にしたいんだ」


「おう! 任せてくれ親友!」


「二人の為に、私頑張るわ!!」


(心配だなぁ……)


(――は?? たぁ君、あの二人と遊んでるの?? アタシが家出したのに二人と楽しく遊んでるワケ??)


 会話が聞こえずエイルがピキり始める一方、楯はあれこれと楽しげに選んでいる秀哉と雪希の姿にとても曖昧な笑みを浮かべていた。

 さっきのは間違いだった、そう信じたいのに。

 彼らが手に取る品は、どこから見つけてきたと叫びたいぐらい珍妙な物で。


「――ふっ、これでどうだ? 小路山さんに送るのにピッタリだろう。俺のを選んでくれていいんだぜ?」


「中々やるわね秀哉君、でも私だって負けてないわよ!」


「君らさぁ……、どうしてチョイスが中学二年生の男子になるの??」


「え? カッコいいだろ? この六芒星のネックレス」


「そうよ堅木君、この小さな剣がついたネックレスいいと思わないの?」


「そこにある色違いの小さなハートのネックレスとかさぁ! もっと色々あるよねぇ!? ホントに分かってる? エイルが気に入ってくれないと僕ピンチなんだよ!?」


 楯の指さしたネックレスを見て、秀哉と雪希は強い衝撃を受けた。


「――くっ、なんてチョイスなんだ楯ッッッ!! 俺にはまだ……そんなラブラブネックレスをつける勇気がでない、情けない男でごめん雪希……!」


「いいの秀哉君、私もまだ勇気が出ないから……だから、あなたの選んだドラゴンのネックレス一緒に買いましょう?」


「雪希……ありがとう!」


「きゃっ、そんな人前で抱きしめるなんて大胆すぎ……でも、嬉しい……」


「あれ? 僕の話聞いてた? うーんもしかしてお邪魔? あっれー??」


 この二人、こんなにポンコツだっただろうかと思い返してみると。

 秀哉は高校で雪希に出会うまで、お洒落なんてひと欠片も意識してないし。

 雪希はモノトーンコーデをクールに着こなしてる様に見えて、店頭マネキンのコーデ一式買いの必殺技の持ち主で。


(くッ、僕が間違っていた……エイルへのプレゼント、僕の力だけで選ぶべきだった…………!!)


 方向性の助言、間違っている認識を正してくれたのはとても嬉しいし助かった。

 しかし、これ以上は一人で行動した方がいいのかもしれない。

 楯はイチャつく二人を放置して、月と太陽のペアネックレス買うと。


「おーい、いつまで抱き合ってるんだい? いい感じのあったから買ったけど、もう一件回りたい所があるから着いてきてよ」


「――お、おお、すまんつい……」


「きゃっ!? あうあぅ……こ、コホン、それでどこに行くのかしら?」


「地味に切り替え早いね君たち、まぁいいや、上の階のちょっとお高い所だよ」


「うん? そこって確か……」


「ああ、成程。エイルも愛されてるわねぇ、ふふふっ」


 秀哉と雪希は、楯の頬が少し赤いのを見逃さなかった。

 上の階の店、そこは結婚指輪と婚約指輪を専門に扱っていて。

 ならば彼の意図も分かるというもの、移動を始める三人の後をエイルもはぐれない様に追いかける。


(…………たぁ君達、上に行くの? ご飯にでもするのかしら? ああもうっ、やっぱり初めて使う

盗聴器はダメね、たぁ君のスマホにアプリで仕込んでおくべきだったわッ)


「おいおい、結婚指輪を探すとか言わないよな? 流石に婚約指輪の下見だよな?」


「僕を何だと思ってるんだい? 君達に相談した時は僕も焦ってちょっと暴走してただけさ。今回は下見だけ、もしかしたら在学中に婚約指輪渡すかもしれないだろ? 色々見ておきたいのさ」


「私たちも無関係な話ではないわね、何か切欠があれば秀哉君との結婚式の話が出ても不思議じゃないぐらい親たちは意気投合してるもの」


「ホント、楯と小路山さんがいなきゃ俺と雪希は詰んでたなぁ……。どう恩を返せばいいか俺は途方に暮れてるぜ」


「別に恩に着せるためにやったワケじゃないから、気にしなくてもいいんだけど…………ま、今みたいにエイルとトラブッたら力になってくれればいいよ」


「楯……!」「堅木君……!」


 二人からの感激したと言わんばかりのキラキラした視線に、楯は思わず苦笑して。

 こんな二人だから憎めなかったし、協力してしまったのだ。

 あの散々邪魔した日々は、失敗に終わった結果は、無駄ではなかったのかもしれないと楯は笑った。


(――――たぁ君? なんでそんなに優しい顔を向けてるの?? ねぇ、ねぇなんで?? そういう顔ってアタシだけに向けるものじゃないの? ねぇ、ねぇ、ねぇ、ねぇ…………なんで??)


 その様子を人波に隠れながら見ていたエイルは、冷たく鋭く、それでいて濁った視線を楯に突き刺した。

 彼は何かを感じたのか、きょろきょろと周囲を見たが彼女が見つかることなく気のせいかと前を向き。

 バレることなく三人の後を着け、そして。


「………………えっ、ココって……」


 彼らが入っていった店が何かに気づいた瞬間、彼女の胸にとくんと甘い鼓動が響く。

 もしかして、そうなのか、そこまで自分との未来を考えてくれていると、そう言うのだろうか。


(えええええええっ!? そ、そそそそそっ、そうなの!? 婚約指輪……送られちゃうの!? う、ううん、冷静になるのよアタシ、たぁ君も流石に今日は下見だけ、そう、下見だけ…………)


 心がそわそわする、一緒に見て選んで、感想を言い合って、そして二人で付ける夢を見たい。

 あ、と声が漏れた。

 心の欲求に従い、足が勝手に動き楯へ向け進んでいる。


(だ、ダメなのに、そんな幸せな、幸せすぎて……うう、顔がニヤけてる、今絶対に変な顔してるううううううううううう!!)


 恥ずかしい、とても恥ずかしい。

 二人で婚約指輪を選ぶなんて、そんな幸せなこと幸せのキャパオーバーで嬉死してしまう。

 そうだ、幸せすぎて死んでしまう、それなのに気づけば楯の後ろに居て、手が勝手に彼の服の裾を掴んで。


「…………ん? どうした秀…………エイル?」


「うう、そ、そのぉ~~…………」


「あれ? 小路山さん?」


「エイルじゃない! あ、もしかしてエイルも婚約指輪の下見に来たの? わぁっ、流石は大学一とも噂される熱愛カップルね! 言葉にしなくても通じあえているなんて……素敵っ!」


(いやこれコイツ、ストーカーしてただけじゃね??)


 楯一人だけが正解に至っていたが、ともあれ、モジモジして上目遣いのエイルはとても可愛く。

 長い金髪を帽子の中に隠しているのも、とても新鮮で嬉しい所。

 彼が眼福だと幸福を感じている一方、いざ彼を目の前にして彼女は恥ずかしさが許容範囲を越えて。


「……………………どこまでアンタはアタシを喜ばせるのよバカッッッ!! 嬉しいけどまだ早いっていうか、結婚とか婚約とかもうちょっと恋人でいたいけどプロポーズして欲しいんだけど、たぁ君が素敵すぎるから直視できないのおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」


「またかよ!? なんでそうなるのさ!!」


「小路山さん!? お、おいっ、早く追いかけろ楯!!」


「そうよ堅木君、今が仲直りする絶好のチャンス追いかけるべきよ!!」


「お、おう! 分かった! 取り逃がした時の為に二人は大学に行ってくれ無駄足になったらごめん!!」


 そう言って、楯はエイルを追いかけ始めたのであった。


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