第26話/負けヒロインと僕がまたも少し離れた時



 ――果たしてどれだけ考え込んで居ただろうか、気づけばスマホにエイルからメッセージが送られていて。

 実家に着きました、欲しいモノくれないと帰りませんと念押し。

 その連絡に安心した楯は、冷静になって彼女の望みを考え直す事にした。


「僕とエイルは両思いで、同棲してて……あと何かあったっけ? あ、そうそう恋人ごっこしてたっけ。アイツから告白してきたって事はそれも終わりで…………いや何で家出して実家帰ったの??」


 欲しいモノをくれなかった、彼女は確かにそう言っていた。

 つまりはそれが不満だ、では欲しいモノとは何だ?

 エイルが家出する直前、二人は何をしようとしていたか。


「――――くっ、やっぱり財産どころか人権まで貢がせて破滅性癖を満たすプレイをするべきだったのか!? でもアレはちょっと変なスイッチが入っただけでエイルとしても本意じゃなかったと思うんだ……」


 ならば、どういうプレイをすべきだったのか。

 楯の思考は彼女が本当に満足するセックスは何だったのか、という方向へ傾く。

 ――どちらにとっても一方的な想いの吐露は告白にカウントされないと、告白こそ彼女が望んでいる事だと気づかぬまま。


「…………わかったぞ!! やはりわんわんプレイで行くべきだったんだ!! その為の前ふりとして、あの謎のお貢ぎフェイズがあったんだ!! そして――お尻の穴に尻尾を挿入する準備の為に……、特殊なプレイで破滅気分を味わう…………もしかして、これだったのか? エイルが望んでいるのは……これ、だったのか!!」


 視界が妙に開けた気分であった、しかし同時に、何かを致命的に間違えている気もする。

 ならばどうする、楯は実にストレートな男だ、だから躊躇いなくスマホを手に取り。

 考えた事を率直に入力しエイルへと送る、すると。


『死ね』


「うおおおおおおおおおおおおおッッッ!? こっ、これはどう解釈したらいいんだ!? エイルがツンデレなのは明白、むしろ酷くなってる気がするしなら……これはむしろ反対に解釈すべきなのか??」


『勘違いしたら困るからもう一度言う、死ね、性欲を満たすことしか考えない最低のゲス男、いっぺん死ね、セックスでアタシを支配できると思うな』


「……………………あっれぇ??」


 楯の額に冷や汗がたらりと一筋、ヤバイ、不味い、どうしようもなく悪手を打ってしまった。

 どうすれば挽回できるか必死に考える中、一方その頃。

 実家にて自室のベッドでだらけているエイルは、足をジタバタさせて。


(不味いっ、これは不味い流れだわ!! レディコミで読んだ展開と一緒よコレ!! うう、なんて可愛そうなアタシ……、愛という名の執着により監禁され一生エロエロされて生きてくんだわ!! くっ、これもケダモノヤンデレ男に愛された宿命だというの!? 罪!! この類希な美しさと男好きするエロいボディが罪だというのね!!)


 万が一の為に、監禁される用意と、体中を洗って、そして尻穴を綺麗にしておくべきだろうか。

 とても悩ましい事態である、ここで間違えるとレディコミより過激な同人レディコミみたいなドエロいヤバい事態になるかもしれない。

 ここは盗聴器とGPSを駆使して、名残惜しいが監禁強制ラブラブエンドを避けるべきだろう。

 ――エイルがそう拳を握りしめている一方、焦りに焦っている楯は。


「か、考えろぉ……次の一手で僕の運命が決まる、はぁ、はぁ、慎重に、起死回生の一手を考えるんだッッッ!! ワンワンプレイは駄目だっ、やはり……人権そのものを貢がせる超ハードなプレイをするしかないというのか!!」


 しかし、それは断じて拒否するべきだ。


「何か……何か他にある筈だ、貢がせるんじゃない、他に精神的に満足して…………ん? 精神的に…………満足??」


 何かを掴めそうな感じがすると、楯は必死に思い出そうとする。

 精神、心と心の繋がり、貢がせるのではなく、対等の。

 ――見えた、彼はそう目を見開いて。


「結婚だ…………結婚届を書いて出す、これだああああああああああああああああ!! きっとエイルも喜ぶ筈だ!! なんて僕は天才なんだ!!」


 そうと決まれば市役所に取りに行かなければならない、身支度を整える中で楯はふと思い出した。

 そういえば、保証人の欄のような項目があった筈だと。

 未成年は親の同意が、しかし楯とエイルは成人だから。


「えーっと、保証人じゃなくて証人欄か、んでもって……たーぶーんー、秀哉と前浜さんでイケる筈だから秀哉に連絡すればどっちも集まるだろ、どーせ一緒に居るはず」


 実にお気楽な思考で、親友に連絡した楯であったが。


「……………………駅前のカフェに集合?? 市役所じゃなく? なんだろ、一緒に行く感じなのかな??」


 そして、ノコノコと集合場所に行くと。


「楯、ちょっとお前お説教な?」


「堅木君……、事情は聞いたけどエイルの気持ちを確かめずにいきなり結婚っていうのはちょっと……」


「………………あれっ??」


「だいたいな、お前は何かと先走りすぎなんだ。小路山さんが実家に帰ったのもお前がなんかポカミスしたに決まってる」


「確かに、堅木君って大事なところは外さないけど変な所で失敗するんイメージあるわね」


「もしかして…………ヤバかった?? 結婚届だしたら終わってた?」


 楯の疑問に、二人は顔を見合わせると。


「修羅場しか待ってないぞ」


「しかも両家の親を巻き込んで」


「マジで!? あ、危なかった……持つべき者は友達だぁ!!」


「とりあえずお前は小路山さんに謝る、そしてご機嫌を取る、分からない事は素直に聞く」


「プレゼントも買って行きましょ、その為にここを集合場所にしたの」


「おおっ!! そこまで考えて…………。いや待て、長いことくっつきそうでくっつかなかった二人に言われるの何か釈然としない」


「ふっ……反論できないわ! でも今回ばかりは私達が正しいから安心して」


「大丈夫だ、プレゼントを買った後は俺達も一緒に小路山の実家に行ってやるよ」


「なんと頼もしい!! くぅっ、友情に乾杯!! ここの支払いは任せろ!!」


 暖かな友情が楯の心に染み渡った、同じ女性として前浜雪希の意見は値千金であるし。

 何より、秀哉は楯のことをよく理解してくれているのだ。

 これはもう勝ったも同然、楯は意気揚々と。


「じゃあ、エイルにあう首輪を買いにアダルトショップ……いや、ここは折角だからペットショップでモノホンを買う方が……」


「楯? おい楯? どうしてその解答になったのか知りたくないから聞かないが絶対に止めておけ?」


「無難にアクセサリーにしましょう、エイルの好きなブランドのでね?」


 もの凄く曖昧な笑みを浮かべる二人を前に、楯は思考がスケベに寄っていた事を即座に反省した。

 プレゼント、何を送れば謝罪の品に、何よりエイルが喜ぶのだろうか。

 彼は慎重に考えながら、二人に問いかけて。


「念のために聞くけど……婚約指輪は重い? やっぱプレッシャー?」


「ようやく正気に戻ってきたか……だが惜しい、婚約指輪は彼女と一緒に考えた方がいいぞ、お前のセンスを過信するな」


「そうそう、エイルは一緒に選びたいタイプだから。今回はイヤリングかネックレスにしましょ」


「おお、なんと頼もしい……! 僕は今、猛烈に感動している……!!」


 楯が友情に漢泣きしている一方、ストーキングの為に動いたエイルは。


「くっ、ノイズが多くて聞き取れなかったッ! でも不味いわ……ペット用の首輪とか行ってたわねアイツ……このままだと本当にアタシ……っ! い、いえまだ確定じゃないわ、早く追いついて確かめないと!!」


 女として色々満足してしまいそうな夢シチュ、もとい最悪の監禁イチャラブエンドを回避する為にエイルは走り出し。

 ――そして三十分後、大学近くの駅前デパートには三人と一人の姿があったのであった。


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