第13話/負けヒロインと僕が反撃を考えた時



 いざ行かん大学へ、敵は水球部の部室にあり。

 四人が所属する水球部は、幽霊部員も多いゆるふわエンジョイ勢であるからして。

 楯とエイルの予想通り、部室には秀哉と雪希の二人っきり。

 ――到着するなりドアに耳を、ターゲットが中でイタしていない事を確認し小声で。


「どうするエイル、今すぐ突入するかい?」


「勿論よ、先ずはイニシアチブを得るわっ。――ごーごーごー!!」


 次の瞬間、バンとドアを壊す勢いで開き同時に中に入る。


「僕たちを騙した不届き者はどこじゃあああああああああああああ!!」


「神妙にお縄につきなさい!! もう逃げられないわよッッッ!!」


「よっ、おはようお二人さん。今日も賑やかだな、昨日は楽しんだか?」


「おはようエイル、堅木君、昨日はどうだった? 気に入ってくれていたらいいのだけれど…………」


「いやいや君たちさぁ……Wデートだって楽しみにしてた僕らの気持ちを考えてどうぞ??」


「そーよそーよ!! 超期待したんだからね!! そこん所わかってるの二人とも!!」


 怒り心頭というより、ぶーぶーとコミカルに文句を言う楯とエイルに、秀哉と雪希はくすっと笑い。

 たった一日会わなかっただけなのに、デート前よりもっと仲がよくなっている様に思える。

 今だってそう、エイルは楯の右腕をぎゅっと抱きしめたままで、前は自分たちの前で手すら握る様子を見せなかったのに。


「悪い悪い、そこまで楽しみにしてくれるとは想定外だった。二人には俺達に休日問わずさんざん付き合わせて来たからな、俺ら抜きで遊ぶのも久しぶりだったろうし、――楽しかっただろ?」


「どうでしたか? 楽しめました??」


 二人のなんの屈託のない笑みに、楯とエイルは「う゛っ」とタジタジになった。

 この純粋な笑顔に弱いのだ、どちらも惚れてしまった理由の一つで。

 だから、素直に言うしか選択肢がなくて。


「楽しかったけども!! というかホテルのディナーくっそ美味かったんだけど!? あれヤバくない!? もしかしなくても高かったんじゃないの!?」


「すっごく美味しかったし夜景は綺麗だし……もうロマンチックで!! ホントありがとう雪希!!」


「ははっ、喜んでもらえて嬉しいよ。雪希と一緒に頭を悩ませた甲斐があったってもんだ!」


「私たちの恩返しはまだまだあるわ、――覚悟しておいてっ!!」


「い、いや……、もう大丈夫なんだけど?? 別に恩返し期待してたワケじゃないし」


「そうそう、サプライズでデートを送られるのはこれっきりよ雪希」


 偽カップルとしては本音だったのだが、秀哉と雪希には遠慮にしか聞こえない。

 楯とエイルは、そんな勘違いに気づいたが誤解を解く言葉をとっさに思い浮かばず焦った顔。

 それを更に勘違いしたのか、秀哉は苦笑して楯に言った。


「今回のサプライズにはな、実は俺達にも利益があることだったんだ」


「は? 君と前浜さんの?」


「ああ、遊園地デートの後にお泊まり…………頼む、教えてくれ――――食後にいい雰囲気になってセックスにたどり着く方法を!!」


「私からも頼むわエイル、どうにも照れてしまってキス以上に行かないのよ…………」


「君ら本当に初体験したんだよね??」


「…………もしかして、恋人になった勢いで初体験は済ませたけど。その後は照れて何も進展していない…………とか?」


「そうなのよエイル! 貴女なら分かってくれると思ってた!!」


「だからお願いだ楯、マイベストフレンド!! どか教えてくれ!!」


 楯は秀哉に、エイルは雪希に、ずずいと迫られ両手を握られ頼まれる。

 どうせ手を握られるなら相手を交換したい、なんて思いながら楯とエイルは困ったように見つめ合った。

 だってそうだ。


「僕たち、何か特別なことしたっけ?」


「心当たりないわねぇ…………あ、そういえばアンタねぇ、遊園地でアトラクションの待ち時間にセクハラするんじゃないわよ!!」


「「ッ!?」」


「今更それ言う!? 君だって抵抗しなかったじゃん!! そりゃー確かに恥ずかしそうにしてたけど、うっとりした顔で僕に寄りかかったり抱きついたりしてたじゃん!!」


「はー? アンタの手つきがスッゴく上手かっただけですぅ~~、一々さぁ、好きだとか可愛いだとか言いながらさぁ、髪にキスしたりして、セクハラついでにムード作るのが悪いのよ!!」


「「ッッッ!!」」


「エイルさぁ、もうちょっと自分が魅力的なの自覚しよう? 初手でディープキスしなかった僕の理性を誉めてもいいんだよ? ホテルまで軽くお触りするぐらいだったじゃん」


「へー、アタシの所為にするんだアンタって、サイテーね、ディナーの後に部屋で二人っきりになった途端アタシにいやらしく服を脱いで誘えって命令してきて偉いでちゅね~~~~ッ!!」


「は? やるか? ケンカなら買うよ?? 僕のこの鍛えた体に勝てると思ってんの?」


「その手には乗らないわよ、どーせベッドまでお姫様だっこして朝まで獣のように責め立てるだけでしょうが、このケダモノ!!」


 口喧嘩を始める楯とエイルに、秀哉と雪希は戦慄しながら尊敬のまなざしを向けた。

 これが心も体も完璧に通じ合ったパーフェクトカップルの姿、自分たちの目指すべき境地だと。


「――よく覚えておくぞ雪希、俺達もああなる為にッッッ!!」


「勿論よばっちし記憶しておくわっ! ……にしても、この分だと二人が婚約するって本当なのね!! おめでとう!!」


「「――いやそれ初耳ィ!?」」


 とんでもない情報に二人は声を揃えて雪希に詰め寄った。

 秀哉は苦笑しながら、やれやれと助け船をいれる。


「昨日さ、俺の家に雪希が来てたんだが。母さんが言ってたんだよ、もしかしてまだ秘密だったか?」


「それ以前だね、僕とエイルはそんな事なんて一言足りとも話し合ってない」


「今すぐ確認するわよたぁ君ッ、またママ達が暴走してるかもしれないわ、早くしないと……」


「――ッ!? ごめん秀哉、前浜さん、用事が出来たからちょっと席を外すね!!」


「あっ、待ちなさいよたぁ君! 先ずは電話して確かめ――」


 二人は来たときと同じく、騒がしく部室から出て行って。

 新米カップルは、今回は違うようだが時間の問題だろうなと微笑ましい目で見送り。

 そして楯とエイルは人気のない部室棟の裏へ赴き、それぞれの親に事情を聞いた後はがっくりと肩を落として疲れた表情。


「――あっ、ぶなかったぁ…………、マジで僕らに内緒で婚約させようとしてたとかさぁ!!」


「雪希と千作君と同じく善意だからって、サプライズしようとしないでよ!!」


「婚約したらいよいよ後戻り出来なくなる……ッ」


「それもこれもアンタが悪い、どー考えてもアンタが悪い、ただでさえ体の相性がよすぎて堕ちかけてんのよ!! 責任取りなさいよ!!」


「ちょっとエイル? 相性よすぎて溺れかけてるのは僕も一緒だし、その言い方だと…………誰に聞かれてたら結婚一直線じゃない??」


「ッッッ!? しまった!! アタシとした事が…………!! これも昨日のデートで散々オレのオンナだぜーって好き放題してくれたアンタが悪い、うん、絶対に悪い、危うく気持ちまで引きずったままだったわ…………」


「完全に僕ら二人のミスだったね、思いつきであんなデートするんじゃなかった…………、一瞬さ、あの部屋だと子供できたらまた引っ越しかー、って考えちゃったもん」


 このままでは不味いと、二人の顔は焦りに満ちている。

 一発逆転を狙うしかない、そこまで行かなくともせめて一太刀。

 異性として好意があるのだ、とあの二人の心に刻まなければならないのだ。


「――――戻ろう、今なら秀哉たちも断らない」


「何か案があるのね!!」


「今夜……いや明日、明日の夜だ。……僕らの家に秀哉と前浜さんを呼んで……鍋パをする!! お酒は“僕らだけ”控えめで、だ!!」


「ナイスよ楯!! アンタが相方でよかったわ!! ……明日の夜にするコトで部屋の準備をし、同時に二人を酔わせて分断、――それぞれ二人っきりになって、告白に近いことをする!!」


「――――行くぞ、僕らの恋はまだ終わっちゃいないんだッッッ!!」


 二人は意気揚々と部室に戻り、早速約束を取り付ける。

 そして予定通りに次の日の夜、楯とエイルの新居に秀哉と雪希の姿があったのだった。


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