第5話 遭遇

 ここからストーリーが大きく動くはず…です!

 ※今回は三人称視点から始まり、*のマークからはいつも通りの一人称視点になります。

 ――――――――――――――――――


 より鬱蒼うっそうとした森が、不気味な感じを演出する。風が吹いて木々がざわめいており、それが不気味さに拍車をかけていた。


「食べられそうなものは……ないか。」


 その中を慎重に歩いているのは、アルビノ特有の美しい銀髪に雪のように白い肌、そして淡い青色の瞳をした容姿端麗な少年――黒雨零である。

 彼は数分前に森の奥へ進んでいくと決め、勇気ある(?)一歩を踏み出して急ぎ足で進んでいったものの、それから数十秒で冷静になり、周囲に気を配りながら慎重に歩いている。


 先ほど呟いていた通り、目的である食料を見つけることはできなかったようだ。だが、それは仕方ない。奥に踏み入ってからまだ数分しか経っていないのに食料を見つけられるのなら彼は決して此処ここにはいない。


「流石にないか。まあ、そう簡単に見つかったのなら今頃こうなってはなかったはずだろうし」


 小さな声で独り言を呟きつつも、警戒は解かずに進んでいく。

 一時期は不可思議な状態になっていて、危険性なども考えずに此処に来たのだがいつの間にか冷静になっていた。そうなったら彼は直ちに「数分前にいた位置に戻る」ことを実行する筈である。

 しかし、それを実行に移していないのは単純に「」からだ。

 ただ、外に出たことがほとんどないとはいえ、記憶力がよくて来た道のことをある程度把握していた彼が、道に迷うはずがない。

 だが、これは冷静だったときの話だ。不可思議な状態だったときは進む方向が真っ直ぐではなく、結構な頻度で変えていた。その上、冷静さが欠けており道を記憶してはいなかったので、戻れなくなってしまったのだ。


 そんながここからどのような判断をしていくのか、これからも見届けていこう。



   *



 戻れなくなってしまった……。これは完全に僕のミスだ。最近は短時間にミスがいろいろと起きている気がする。もう少しミスを減らせるようにしないと、後から酷いことになりそうだ。


 ……それはさておき、食料を探さなければならないので辺りを注意深く見渡す。今、僕が探しているのは植物だ。断じてマ○オに出てくるような赤い傘に白い斑点模様があるキノコ――所謂いわゆるベニテングタケなどではない。なのに、何故貴様ばかり出てくるのだ、ベニテングタケ! もう僕はあなた方を見飽きてしまったよ(そもそもキノコは菌類であり、植物ではないのだが)。


 つい乱暴な口調になってしまうくらい奴ら――ではなく「彼ら」、いや、「彼女」らが正しいのか?まあ、いい。「彼ら」にしておこう。と・に・か・く彼らが多い。まるで「食べて」と言っているようだ。

 ……食べないがな! ベニテングタケは食べると、食後30分ほどで下痢、嘔吐、腹痛の胃消化器系の症状が現れ、めまい、錯乱、運動失調、幻覚、興奮、抑うつ、痙攣など神経系の症状も現れ、 まれに、死に至ることもある非常に危険な毒キノコだ。食べたらそこで僕の人生は終了してしまう。


 お、ニリンソウがあるぞ。これは食べられる植物だ。やっと食事ができる……

って、これはトリカブトじゃないか!危うく土に還ってしまうところだったぞ。

トリカブトは食べると、食後 10 ~ 20 分以内に口唇や舌のしびれに始まり、次第に手足のしびれ、嘔吐、腹痛、下痢、不整脈、血圧低下などをおこし、けいれん、呼吸不全(呼吸中枢麻痺)に至って死亡することもある危険な植物だ。そして毒性は植物界の中でも最強といわれるほど強力であり、その上、食用の植物であるニリンソウやモミジガサに似ているので注意が必要である。


 ……どうしてこんなにも毒を持った植物(キノコは菌類)が多いのだろうか。もしかして嫌がらせか? 嫌がらせなのか!?

 だめだ。頭が回らない。僕はどうやら苛立いらだってしまっているようだ。毒がある植物(キノコは菌類)がたくさんあるのに、食用の植物が全くないからだろう。


 疲れた……。休憩するか? いや……やめておこう。一刻も早く食料が欲しい。毒があるものはお断りするが。

 ……緊急時になったらここら辺に茂ってる草を食べるか?でも、食べて食中毒になったら意味がないので却下する。

 そもそも、食べられない植物しかないのは置いといて、動物が全くいないのはおかしいよな……。この森には動物が全くいないのか? それだったら蛋白質たんぱくしつが不足してしまう。不健康になること間違いなしだ。


 はぁ、猛獣でもいいから動物が来てほしいな。肉食動物の肉は硬くて臭くて美味しくないらしいが、何も食べないよりはましだ。

 そんな小さな願望を抱きながら進んでいくと、不意に唸り声が聞こえてきた気がした。低く、聞き取りづらい音だった。


 ……嫌な予感がする。


 そんな予感は当たったようだ。

 近くの茂みからがさごそと、音が出ている。

 さて、鬼が出るか蛇が出るか。そう思いながら音が聞こえる方を向きながら後ずさっていく。

 その瞬間、黒いものが茂みから姿を現した。

 ……出てきたものは、鬼でも蛇でもなく――熊だった。

 

「ヴゥーーー!グァァァァァ!!」


 その熊から発せられた唸り声が空気を揺らした。

 ……こんな熊、見たことがない。体の色は黒くて目の色は赤く、若干光っている。そして体長が少なくとも僕の3倍以上はあるのだ。つまり、体長4.5m以上ということである。


 これはまずい。やり合ったら瞬殺されそうだ。幸いなのは、熊がまだ警戒しているだけで襲いかかってこないことか。


 「絶体絶命」この4文字が頭に浮かんでくる。

 ……どうすれば逃れることができる?考えろ、考えろ……。

 熊を倒すという選択肢はない。理由は単純である。僕に熊を倒せる筈がないからだ。


 僕は先ほどに「猛獣でもいいから動物が来てほしい」などと、ほざいていたようだが、それを撤回させてほしい。

 猛獣が来ても、倒せなければ僕が餌になるだけじゃないか……。


 僕はどうやら、フラグというものを回収してしまったようだ。




――――――――――――――――――


 本文にあるベニテングタケとトリカブトを食べたときの症状は、全て本当のものです。なので、読者の皆様も山菜採集の際には気をつけてください。

 「本当なの?」や「もっと知りたい!」と思った方は、厚生労働省のホームページの「ホーム>→政策について→分野別の政策一覧→健康・医療→食品→食中毒→自然毒のリスクプロファイル」に載っているので見てみてください。私はこれを参考にしました。




~熊についての豆知識~

 熊の名前の語源・由来をご紹介します!(「語源由来辞典」を参考にしました)


 熊の語源には、

①穴居することから「クマシシ(隈獣)」や「クマ(隈)」の意味。暗くて黒い物を「隈(くま)」と言うことから「黒い獣」の意味など、物陰になっている暗がりを表す「隈」に由来する説。

②穴に籠って暮らしていることから、「こも(籠)」が転じて「クマ」になった説。

③熊の鳴き声が「クマッ・クマッ」と聞こえることから、鳴き声に由来する説。

人に取り付いて組むことから、「クム(組)」が転じて「クマ」になった説。

④神の古語「クマ」に由来する

など、多くの説があります。

有力視されているのは「隈」と「鳴き声」の説ですが、鳴き声は近寄らなければ分からず、名前になるほど日常的に熊に近寄っていたか疑問です。

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