第4話 覚醒

「ンギギギッ…!」



リンはトロールの足の下でふんばっていた。


リンの下には、3歳くらいの小さな女の子がいるからだ。怯えた顔をしていた。腰が抜けてしまっているようだ。


リンはむりやり顔面の筋肉を操作して、笑顔を作った。


ビクッとする女の子。


無理もない。笑顔と呼ぶには程遠いピクピクした笑顔だった。



「大丈夫だ…!わだしにまがしどきな…!」



リンが女の子をはげました途端、あざ笑うようにトロールが体重を乗せた。


ガクンと沈む。



「グッ!」



女の子が手を伸ばして、手伝ってくれていた。


リンはそれを見て微笑み、力を振り絞った。



「どっせいっ!」



トロールは横転し、地響きが鳴った。


見ているより他なかった周りの人々は驚愕した。



「な、何もんだあの子…!」



リンは疲れ切って肩で息をしていたが、すぐに女の子を担ぎ上げてその場を避難した。


だが、突如真横の空間に亀裂が入った。



(なんだこの気配…!やばいっ!)



リンは咄嗟の判断で女の子を芝生の上に投げ飛ばした。



「がっはっ!?」



リンは痛烈な一撃を喰らい吹き飛んだ。カズマの石像に背中からぶち当たった。



「グ、グレーターデーモンだ‥!」



周囲の人々から絶望色の声が聞こえる。



「う、うそつけ!深部にいるんだろ!?」


「いや、頭に五本角が生えてるぞっ!?てことは…!」


「そんな…Sランクパーティが束になってやっとって噂だろ!?」



グレーターデーモンは長く獰猛な尾っぽをビダンッ!と地面にたたきつけた。


人々がシンッと静まり返り、逃げることも忘れ注目した。


グレーターデーモンは首を360度グルリと回し、人々を見て回った。


それは死の視線だった。



「ひ…!?」



悲鳴を上げようとした人々の顔上半分がゆっくりとズレていく。


次の瞬間、血が噴き出し、立っていた大勢の人が切断されて死んだ。


リンは血反吐を吐いた。



(まじか…。グレーターデーモンなんて初めて見たな…。あの尻尾、酸でも出てんのか?いつもより治り遅いし…)



リンはなけなしの治癒補助師の能力が妨げられているのを感じ、いよいよ絶望しそうになった。


しかし、リンは力を振り絞り、立ち上がった。



(あーあ、なんで寝たフリしとかないかな?)



頭の片隅で自分をバカにする声が聞こえる。


グレーターデーモンはリンのその動きに気づき、首を不自然な角度まで傾げてニヤと笑った。


ゆっくりと近づいてくる。



(なんてムカつく顔だ。なめきってやがる!…でも、こりゃ死ぬな。けど…)



周りには腰を抜かしていたり、しゃがんで生き残っている人々がいた。


さっきの女の子もいる。


みんな恐怖に震え、絶望していた。



(ここで立たなきゃよ…)



リンは構えをとった。


瞳には怯えでない、悲壮な覚悟が宿っていた。



「来い、クソ野郎」



突っ込んでくるグレーターデーモン。



(勇気を出せ!誇りを捨ててたまるか!)




グレーターデーモンが突っ込んで来て、リンを殺すまでの刹那、リンは走馬灯を見た。



さっきクビになったこと。仲間たちにハブにされて悲しかったこと。ラッツに口説かれて気持ち悪かったこと。孤児院から飛び出したこと。シスターローザのきれいな微笑。嫌な思い出。幼い頃のわずかな記憶。



その先に、光があった。



(あれ?なにこれ?こんなの知らない。これって、わたしの記憶じゃなくない!?)



記憶の中にはカズマ・ハラキリがいた。


それは前世の記憶だった。


カズマ・ハラキリは一人、グレーターデーモン三体と対峙していた。


カズマのうしろには、ボロボロになった仲間たち。


カズマは呼気を吐いた。


カズマの体に闘気が充満していく。


三体のグレーターデーモンが一斉にカズマに襲い掛かった。


瞬間、カズマは目をカッ!と開き、足を一歩踏み出した。


震脚だった。


深部の謎の物質でできた硬い床材が踏み抜かれ、グレーターデーモンたちに向かって一直線に爆ぜていく。



『我が一歩、悪鬼羅刹を蹴散らす也!』



リンは自然と記憶をなぞっていた。


リンは震脚した。


広場の地面が踏み砕かれ、辺り一面がひび割れ、一直線に発光して隆起し、グレーターデーモンを下からカチあげて爆ぜさせたのだった。

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不遇レア職【治癒補助師】だったけど、前世【拳王】を思い出して脳筋無双 楽使天行太 @payapayap

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