第27話 エンディング
崩壊した街は少しずつ元の姿を取り戻しつつある。魔法使いと魔族はお互いの関係を修復しようと歩み寄った。まだお互いにいがみ合う者は少なくないが少しずつ改善している。
魔王になりすましたカスミは裁判にかけられた。もうすぐ判決が下る。
タケヒコが瓦礫を撤去していたところ、後ろから肩を叩かれた。振り向くと大きな魔族がコップを持って立っていた。その脇には小さな魔族二人もいる。
「無理をすると体を壊すぞ」
大きな魔族がタケヒコにコップを渡した。
「ありがとう」
ちょうど喉が渇いていたタケヒコは喉を潤した。飲み干したコップを大きな魔族が回収する。タケヒコは大きな魔族に握手を求めた。
「ねえ、名前教えてくれないかな? ずっと聞きたかったんだ。もう、魔法使いと魔族のわだかまりを気にすることはないだろう?」
大きな魔族はきょとんとした表情をするが、すぐに笑顔になって握手に応じた。
「バリー15歳だ。よろしく」
筋肉隆々のバリーが武彦と同じ歳というギャップに、タケヒコは思わず笑った。
「僕はアレックス!」
「フリッツです!」
小さな魔族もはしゃぎながら自己紹介をした。
「タケヒコ! 今度の祭りは一緒に行こうよ!」
タケヒコの右腕にフリッツがぶらさがると、
「僕も!」
アレックスも左腕に飛びつく。お父さんになった気持ちで両腕を広げていると、フェリシアの声が聞こえた。
「タケヒコ!」
彼女は花を手にタケヒコに近づいた。そして近くにいる魔族たちを見て笑顔になった。
「あら、友達?」
「まあね」
タケヒコは両腕にぶら下がった二人を見せる。
「あなたはすぐに仲良くなるわね。って、そんな場合じゃない。追悼式が始まるわよ。ほら、あなたたちも来る!」
フェリシアがせかすようにタケヒコと魔族の背中を押した。
追悼式には多くの人が集まっていた。リナシーとレドモンドも来ている。
「なんだ、魔族も連れてきたのか」
レドモンドが快く受け入れた。彼はもう魔族の恨みを持っていないようだった。
大聖堂のあった場所には大きな石碑が建てられている。石碑に刻まれた名前をタケヒコはなぞった。モイラ・プリムラ。彼女はもうこの世にいない。彼女からもらった魔法道具のペンダントを首から外し、石碑の前に置いた。
「いいの?」
その様子を見ていたリナシーが聞く。彼女の体には所々時空を超えたときにできた跡が残っていた。
「うん、僕にはもう必要ないものだ。モイラさんに返すよ」
周囲から懐かしさを覚える音楽が流れてきた。それはコンテストで金賞をとった曲だった。タケヒコはなぜ自分がこの曲を知っているのかわからなかった。
「ねえ、パッヘルベルさんのことはもう思い出せないの?」
フェリシアが悲しそうな声で聞いた。
世界の崩壊を止めた後、タケヒコはモイラに川で助けてもらった以前の記憶がなくなってしまった。自分の家族、出生に関する記憶が抜け落ちている。ただ一つ覚えていたのは、『ササヤマタケヒコ』その名前だけだった。
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