第21話 崩壊した街 ⚠この先鬱展開⚠
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次の話からは、鬱展開が続くことになります。不快に思われる方は、読まない方がいいかもしれません。ここまで読んでくださった方には、心から感謝しています。ありがとうございます。
この作品を最後まで読んでくださる方も、ここでやめてくださる方も、どちらも私にとって大切な読者です。次回作もよろしくお願いします。
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空から魔族の集団がふってくる。地面から魔族の腕や頭が這い出してくる。お祭り会場は混乱に包まれた。恐怖に震えながら子どもを連れて逃げ惑う人、勇敢に杖や剣を取り出して構える人などさまざまだった。武彦は椅子の背もたれを強く握りしめた。魔族の襲撃に対して何もできない自分に怒りと恐怖がこみ上げてきた。逃げ惑う人々や傷つく人々の姿が目に焼き付いて離れない。足が震えて何もできない。
「皆さん、離れてください」
審査員席に座っていた結界の守護者たちは、道を空けるように言った。彼らは光り輝く結晶を高く掲げたところ、中心にまぶしい光が現れた。光を中心に結界が張られたが、襲ってきた魔族は結界を通り抜けられずにはじかれ、吹き飛ばされた。しかし、すぐに振動とともに結界が破られてしまった。
『我々の世界を取り戻す!』
魔族たちはかけ声とともに何度も侵入を繰り返す。守護者たちも結界を張り直した。攻防が続く間、ひとりの守護者がよろめき、その場に倒れた。まぶしい光は消え、倒れた彼の顔色は悪く、つらそうに息をした。空には魔族たちが結界を破ろうとしている姿が見えた。
「ハアハア、くっ、さすがに厳しいか」
倒れた者は苦笑いしながら立ち上がり、再び結晶を掲げた。
「もう私はこれで最後かもしれない。後は頼んだ」
そう言いながらふたりの守護者の手を握った。ふたりは決意した顔をした。その時また再び、地面が揺れ始めた。足下に真っ黒な煙を発生させながら巨大な魔方陣が展開する。
「武彦、危ない!」
隣にいたフェリシアが武彦の腕を掴むと、魔方陣から遠く離れた場所まで引っ張られた。魔方陣から禍々しい色の巨大な腕が守護者たちの足下から生えた。そしてそのまま守護者三人を掴むと、強く握りしめたのだ。悲鳴が上がる。巨大な腕はぼたぼたと赤い液体を垂らしながら、伸びていく。そして頭、肩、上半身、足と、その正体を現した。巨大な魔族だ。10メートル以上はありそうな巨体に黒い甲冑を着ている。
「あ、あれは……魔王……」
フェリシアの表情は恐怖で引きつっていた。武彦の腕を掴む手が震えている。
会場の椅子が一斉に浮き、魔王にぶつかる。誰かが魔法で攻撃したのだろう。しかし、魔王はいたがる素振りも見せず、血にまみれた手の中から何かを取りだした。緑、青、黄色の輝きを放っている。結晶だ。
「火の結晶がないな。まあいい」
魔王は結晶を握りしめると、拳から緑色の邪悪な光を放った。地面が揺れると同時に木の根が浮かび上がり、人々を捕獲していった。
「魔法使いから世界を取り戻す!」
「我らが魔王様に光栄あれ!」
「抵抗する者は殺せ! 残りは捕獲しろ!」
魔族たちが人々に突進する。
「守護者たちをよくも! くそ!」
子どもを守ろうと、椅子を振り上げながら果敢に魔族を倒していくおじさんがいた。魔王は結晶を握った手の人差し指をおじさんに向けると、赤黒い光線がおじさんを貫く。おじさんは煤のように消え、泣いている子どもは木の根に巻き付けられた。
その場から走って逃げていた武彦たちも魔族に道を塞がれてしまった。フェリシアと背中合わせで警戒する。
「おいおい、抵抗しないでくれよ。若い魔力はあまり殺すなと命令なんだ」
「でも、いいなぁ。金ぴか娘の魔力は質がいい。欲しいな」
ニヤニヤと笑いながら魔族が近づいてくる。武彦たちの力では、この人数を倒すことはできない。このまま殺されるより、おとなしく捕まった方がまだ可能性があるかもしれないと武彦は悩んだ。背中のフェリシアも杖を構えたままだ。
「おっとお前たち、その少年は殺さないでくれ。その子には大切な役目があるんだ」
魔王がこちらに近づいてくる。フェリシアは武彦を守ろうと防壁を張った。抵抗するものは殺す。先ほど言っていた魔族の言葉に武彦は焦った。フェリシアが殺されてしまうと。魔王はフェリシアの行動に苛立ち、人差し指を向ける。
その時だった。赤い光線とともに衝撃波が生まれる。武彦たちの前にモイラが現れた。
「なんだ、お前は」
突然の登場に魔王は驚いた。赤い光線をモイラに放つが、彼女は光を両手で受け止める。手の中の禍々しい赤を純粋な赤に変化させ、手を放った。人々に絡まっている木の根だけが燃え、捕まった人たちが逃げ出した。抵抗するモイラに魔王は怒り声を上げた。
「私の邪魔をするな。ああ、お前の髪は私の嫌いな赤い色だ。殺しやるよ」
武彦は心配で叫んだ。
「モイラさん!」
「君たちは逃げて!魔法師団がすぐに駆けつけてくれる。ほらほら」
モイラが振り払うような仕草をすると、風が起こり、魔族だけを吹き飛ばしていく。逃げ道ができた。
「ここはあの人に任せましょう」
フェリシアは武彦の手を取り走り出した。魔王は武彦を追いかけようとするが、モイラにたち塞がれる。
「お前、私を倒せるとでも思っているのか?」
「倒せたら嬉しいけど無理なんでしょう? あなたの魔力は普通じゃない。多くの魔法使いたちの魔力を感じる。殺して魔力を取り込んでいる。いったい何人を犠牲にした?」
「さあな。でもお前もその犠牲の一人になるさ」
魔王は片手をあげ、青、緑、黄色の混ざった黒い光を放つ。モイラは構えた。魔法の魔王とモイラの魔法が激しく衝突した。
◇
リナシーは混乱する街の中で武彦たちの姿を探した。あちこちで魔法がぶつかり合う爆発音と、叫び声、悲鳴が聞こえてくる。リナシーは聞こえてくる悲惨な音に耳を塞ぎたくなった。
「危ない!」
リナシーの後ろから声がした。リナシーの顔に血が飛び散る。そこには魔族の鋭い爪を腕で受け止めているおじさんの姿があった。お店の店員さんだ。おじさんは魔族を足で蹴り飛ばすとリナシーに向き直った。
「ここは危険だ。魔法師団のところに……」
そこまでいうとおじさんは本を取り出し、呪文を唱えた。四方から飛びかかってた魔族の上に瓦礫を落とす。魔族が瓦礫の下で動かなくなった。
「とりあえず行こう」
おじさんはリナシーを案内しようと、瓦礫の上にのった。その時、瓦礫から魔族の腕が伸び男性の足を強く握りしめた。バキバキと鈍い音がする。
「逃げろ! 行け!」
おじさんは魔法でリナシーを後ろに飛ばした。飛ばされるままにリナシーはその場から逃げ出した。
わたしのせいだ。わたしのせいだ。リナシーは自分を責めた。もっと自分が上手く魔法が使えたら、あの人は死なずにすんだはずだと。モイラのようになりたいと願いながら、何もしてこなかった自分を憎んだ。
走り疲れて立ち止まったところ、狙っていたかのように魔族が飛びかかってきた。リナシーは鋭い爪から守るように鞄を盾にする。引き裂かれた鞄からキラリと光る石がこぼれ落ちた。モイラが作った魔法道具だ。武彦から渡された学園に戻るもの。リナシーは石を拾い握りしめた。助けてモイラさんと祈り、目を閉じだ。魔族が再びリナシーに飛びかかると、リナシーの姿はそこにはなかった。
◇
リナシーが目を開けると学園の中にいた。学園も魔族に襲われていた。爪痕が深く刻まれ、地面には倒れた制服を着た生徒や、抵抗したであろう妖精たちの姿があった。恐怖で震えていると、魔族に見つかった。
「おっと弱そう奴ミッケ!あいつに対抗するためにちょうどいい」
「ひぃ!」
リナシーは悲鳴を上げた。魔族が爪でリナシーの顔を引き裂こうとする。その時、剣が魔族を突き刺した。倒れた魔族の背後にレドモンドがいた。
「レドモンド!」
リナシーは驚いてレドモンドを見る。
「お前もまだ生きていたのか」
レドモンドは冷たい目をしていた。彼は地面に転がっていた誰かの剣を取るとリナシーに渡した。
「これを使え。戦え」
「で、できないよ。私、魔法苦手で剣も使えないよ」
リナシーは剣を受け取ろうとしない。
「できないならこいつらと同じだ。はやく倒れろ」
レドモンドは地面の生徒たちに目をやる。リナシーも見る。彼らは血だらけで、動かない。
「そんな……」
リナシーは涙があふれた。同じ学年の生徒だ。顔見知りもいた。
「おい、早くしろ!魔族が来るぞ!」
レドモンドが怒鳴る。リナシーはレドモンドの後ろ姿を見た。彼は剣を構えて、魔族に立ち向かっている。
「わたし……」
レドモンドは剣に火をまとわせ、魔族を切り倒していった。魔族の隙を突いて切りつける。魔族は紫色の血を流しながら、倒れた。
「こそこそと卑怯な魔族だ」
レドモンドは息を切らしている。生徒の以外にも魔族も地面に転がっていた。レドモンドが倒したのだろう。レドモンドが壁に背を持たれたとき、壁が崩壊し、レドモンドの腕を掴んだ。魔族が壁の裏に隠れていたのだ。
「まじかよ」
レドモンドは不意の攻撃に対応できなかった。レドモンドの腕から血が流れている。リナシーは手の剣を強く握るとレドモンドを掴む魔族に飛びかかった。呪文なしで火の玉を出すと魔族に向けて発射する。魔族の焼け焦げた肌にめがけて剣を振り下ろした。魔族とレドモンドが離れる。
「よくやった!」
レドモンドはお礼を言うと剣を魔族の頭に突き刺した。魔族の血がリナシーの顔に飛びかかる。血を拭うと、手についた魔族の血を見つめた。恐怖よりもレドモンドを救えたことに喜びを感じている。リナシーは決心した。そして、レドモンドの顔をまっすぐな瞳で見た。
「わたしも戦うよ」
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