第28話 最終話




 第3の殺人事件木下社長の殺害には、どのような経緯があったのか?


 それでは順を追って行こう。

 何故同じモ-テルに理生と友樹2人が入ったのかと言うと、まだ未成年で中には興奮して襲ってくる男もいる。それは……今までの経緯でそんな危険な目に何度か遭っていたからだ。

 友樹は「レンタル彼氏」として最初から経営者に面接の段階で男性相手の恋愛関係抜きの、例えば旅行で地方からやって来た男性の為の1日の道案内や、中には友達がいない男性の友達として数時間付き合う形を取っていた。


 一方の理生の方は女の子に変装しての「レンタル彼女」として働いていた。こうなるとお互い理生と友樹の相手は男だ。中には当然ゲイもいるだろうし、エッチ無しで会っているのに突如襲われる事だってある。


 その時の為に理生と友樹はいつも近場のところで「レンタル彼氏」「レンタル彼女」としてデ-トする形を取っていた。それは興奮して襲って来た時に対処法としてどちらかが、危険にさらされた時に連絡を取り合って助けに行くという事だった。


 だが、残念な事に理生とあの夜岡崎市のモーテル「シャチ」でデ-トした男はゲイだったが、何故凛音ちゃんを「レンタル彼女」として選んだかという事だ。


 それは、女装した滅茶苦茶美形の男の子がいるとゲイ仲間から聞いて、その時に凛音ちゃんを指名した。あくまで女の子として登録していたのに、その男は凛音ちゃんが男と知っていて襲って来た。


 幾らゲイだと言っても、こんな中年のガタイの大きいキモイオヤジと関係を持ちたくなかった理生は、木下に揉みくちゃにされて危険を感じ友樹を呼び出した。


    ***


 あのモーテル「シャチ」で事件の起こったあの日、理生達は朝陽を追い回して途中の林道で朝陽を発見したが、森の中に逃げてしまった。そして止まっていたポ-ルの車で理生達が朝陽を探したが見つからず、お客様との待ち合わせ時間になった。

 

 運転は免許を持っている友樹が運転して、理生がこの日会う事になっていた木下社長の待ち合わせ場所の公園で、夜の7時半に待ち合わせていたが、当然物騒な場所ではない。目の前にラーメン屋さんがあるその公園で降ろしてもらった。そして…理生は慌てて化粧をして女の子の格好をして、木下社長とのデ-トに向かった。


 一方の友樹も今日お客様と会う事になっていた。そして…お客さんの待ち合わせ場所喫茶店に向かった。残りの野郎達もその手前で降ろし各々帰って行った。手前で降ろした理由は、野郎達に「レンタル彼氏」の実態がバレたら困るからだった。


 理生の連れ込まれたモーテル「シャチ」自体はお洒落な外観だったが、田舎道の人通りの少ない場所だった。それは木下社長が人目を気にして、こんな田舎のモーテルに連れ込んだのだ。


 そして…理生と木下社長の待ち合わせ場所の公園も友樹がお客様との待ち合わせ場所の喫茶店もモーテル「シャチ」も1キロ圏内に有った。


 30分ぐらいすると理生から「車でモーテルシャチに、強引に連れ込まれてしまった」と電話を貰った友樹は慌てて「シャチ」に向かったが、このモ-テルは2台まで泊めれる駐車場だったので、空きスぺ-スに車を止めて慌てて指定された部屋202号室に向かった。


 だが、客室廊下に防犯カメラがあったらバレると思ったので、用心して入って行ったが、どうもかなり旧式のラブホテルのだったらしく、防犯カメラが運良く見当たらなかった。


 そして最大の難問、部屋に侵入する手口だ。今までも協力し合っていたので準備万端金具は用意していたが、このモーテルは「カード式キー」のドアだった。 登録されたカード以外では開錠することができず、しかもカード差込口はあるものの鍵穴は無い。


 従来の鍵を持ち歩く手間を考えれば、ポケットにスッと入り、かさばらず、デジタル時代の象徴としても、スマートに利用でき、セキュリティレベルも高そうに感じられるが、しかし、このカード式キーのその手口は、意外にも単純なものだった。


「サムターン回し」といって、ドアの隙間やドアポストなどから針金様のものを外から差し込んで、ドア内側にある「サムターン(鍵をかけるつまみ)」を動かして、ドアの外にいながらにして内側からドアを開ける手口だ。


 こうして友樹は室内に侵入した。すると木下社長が理生を押さえ付けて理生を強姦しようとしていた。


(これは大変だ!)

 後ろから羽交い絞めにして、理生と慌てて逃げようとしたが、なんと捕まってしまった。


 風呂場に連れ込まれた友樹だったが、もみ合っていると風呂場のタイルに打ち付けられ木下が気絶した。この隙に逃げようとカードキ-を差し込みモタモタしていると、木下がむっくりと起き上がり襲って来た。


「逃がして堪るものか!」


 尚も抵抗して思い切り手で振り払った理生だったが、その勢いの凄まじさに木下がよろよろとよろけて倒れ込んだ。だが今度こそ打ちどころが悪く意識を完全に失ったと思い、慌てて出て行こうとしたが、尚も立ち上がり、怒り狂って友樹に丸椅子を投げつけた。これには流石に怒れた理生が木下を思い切りキックした。すかさず友樹も木下を思い切り押し倒した。やがて木下は打ちどころが悪かったのか完全に動かなくなってしまった。


「オイ!ヤバイ!どうしよう?」


「そうだ!今日朝陽が生意気だと言って皆で追い回していたが、その道具が一式ある。あいつを思い切りやっつける為に金属バットやゴルフセットが入っていた。そして隠し場所に困った俺は電動ノコギリをスポ-ツキャリーバックに入れておいた。それを使って連続殺人に見せかけて、またしても「首なし死体」にしよう!」


「そうだ。良い案だ!」


 そして…「金文」のシ-ルは、実は…「金文」は刃物がメインだが、ゴルフのドライバ—も製造していた。だから……あの時の「金文」のシールはゴルフドライバ-のシ-ルをわざと落として置いたのだった。それと父親の仕事柄生物の後始末も当然行う事も有る。その為防水バッグが常備してあるので、最初の殺人勝君の父殺害の時からスポ-ツキャリ―バックに防水バッグが常備してあった。それは絶対に中身が漏れないものだ。


 こうして人目に付きにくい途中で理生を降して、車を走らせていたが田んぼ道に来た時に完全に車は動かなくなった。


 そこで友樹は考えた。父親を呼び出さずに従業員のひとりに向かいに来させる事を思い付いた。


 実は…その少年裕也は19歳だが、過去に日本を震撼させる事件、バスジャック事件を起こし1人を刺殺5人に重軽傷を負わせた少年だった。当然戸籍も名前も変えてこの〈グレイト株式会社〉産業廃棄物処理場に勤務している。実は…この会社には刑務所を出所して来た青年もヤクザから足を洗った青年も何人かいる。

 

 それは、幾ら健全な産廃業者と言えども中には昔からの繋がりで、裏で暴力団と繋がっている産廃業もあるので、頼まれて致し方なく就職させているのだ。


 この男だったら、役に立つと踏んだ友樹は3個の頭部はバレないようにして袋に入れて、一般廃棄物として裕也に焼却してもらった。雨合羽廃とゴム手袋は廃プラスチックに分類され処分されて、凶器の電動ノコギリの後始末も分別され、破砕機 で粉々にして電気炉で溶かしてもらった。

 

 それでは産業廃棄物処理場の仕事とはどのようなものなのか?

 ※産廃業者とは:建設会社や工務店などの事業者から依頼を受け、現場で出たゴミを処分場まで運び、処理をしてリサイクルしていく仕事。だが、民間家屋の解体工事などの時に、生物の死体処分もある。


「もしこの頭部の事をバラしたら、お前の過去をバラしてやる!」と言って脅かし処分させた。そして当然3人流星と理生と友樹でお金を出し合い、多額の口止め料を支払い処理を頼んだ。


    ***


 銀さんと田淵両刑事は今日も首なし死体事件で飛び回っている。


「確かに駐車場からモ-テルに入る2人連れは、若い女と中年のオヤジだということは確認できたが、帰る時は目深に帽子を被った男性1人だった。一体どういう事だよ?」

 それは持参して来たリュックサックに頭部を入れて、スポ-ツキャリーバックに理生を押し込んで車に乗せて走り去ったのだった。


 こうして事件は幕を閉じた。


 だが、銀さんと田淵両刑事は、なんとしてもホシを挙げようと今日も悪戦苦闘している。


 終わり



 ◆追伸◆

 理生は思う。仲間内が恋バナで盛り上がる中、本当の自分の話をすると場が白けてしまうので「いい人がいなくてさ~」「理想が高くてね」と切り返す事で難を逃れてきた。ある時は女の子に告白されて、嬉しくて付き合ってみたものの、側に寄られたり手を繋がれたり顔を近づけられたりするのが、すごく嫌で耐えられなくなりその場から逃げてしまった。


 その話を勝君に話したら「“普通は”ドキドキするはずじゃないか?」


「そんな事になるなんて……タイプじゃ無かっただけだよ」


「大人になればきっと理想の女の子に会えるさ」とばかり言われて『そういうコトじゃないのにな』と傷ついた。


(人と違う自分が嫌で仕方なかった。何で女の子が近付くと嫌悪感を感じるのか……?)



 俺は「体の性」「心の性」「好きになる性」「表現する性」がすべて男性で、いわゆるゲイと呼ばれるセクシュアリティに該当している。ゲイである事がまるで気持ち悪い変態のように思われるので「とにかく、絶対に誰にもバレてはいけない!」という焦りに取り憑かれていた。


 本当は男の子が好きなのに「クラスの美由紀ちゃん可愛いね」と噓を付いて話を合わせる罪悪感たら半端ない。心の中では(本当は勝君が好きなのに……どうして噓偽りを話さなくちゃいけないんだ……)いつも心の中で、この不条理にイライラがたまって爆発していた。


 また、同級生に見せられたエッチなお姉さんの雑誌を見て「うひょー!」と叫んでみたが、実際はそんな女の裸なんかまったく興味がない。そうやって“普通の人”を演じるのがつくづく嫌になってしまった。


 そして…正直に生きようとして(我慢が出来なくて勝君にLINEで告ったら学校中の笑い者になってしまった。また、あんなに仲良かった朝陽は、俺の目を盗んで女に走ってしまった。そして…一番タイプではない友樹だけが残った。嗚呼……俺……俺全然幸せじゃない。だが、俺には……俺には……流星が……流星がいる。今度こそ……今度こそ……「首なし死体事件」共犯者運命共同体として……絶対に……絶対に流星を離さない。一生流星は俺から離れられない。フッフッフ)


 まだまだセクシュアルマイノリティーに対しての、理解が深められていない現状化、性的少数派の人々の心の叫びをもっと理解する必要がある。

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首なし死体の謎 tamaちゃん @maymy2622

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