第12話 W不倫


 この首なし死体事件のあった愛知県の謙太君と勝君の通学していた星信学園高校では、実はある出来事が起きていた。それは……先生同士のW不倫事件だった。


 残念ながら首なし死体事件の被害者となったK教員こと桐谷先生36歳は、生前とんでもない問題で追い詰められていた。


 事件の発端は桐谷先生36歳と45歳の花田先生が、2016年の4月から名古屋市瑞穂区の同じ星信学園高校で勤務する同僚となった事から始まった。


 2人は共に既婚者だった。


 2017年の10月某日校内運動会の後居酒屋で、数人の先生方で打ち上げ会があった。酒が回った桐谷先生に声を掛けたのが花田先生だった。


「飲酒運転はいけません。良かったら私が家まで送っていきますが?」

 

 花田先生が、車で送ってくれた事がきっかけで徐々に付き合いが始まって、やがて不倫関係に発展して行った。だが、翌2018年に桐谷先生に男の子が誕生したのをきっかけに、桐谷先生の方から関係解消を望んだが、花田先生はヒステリーになり受け入れなかった。


「何を言っているの?あなた奥さんが子供にかまけて家の事は疎かにするわ、俺に構ってくれないわで離婚したい。そして私と結婚したいって……あれだけ言っていたじゃないの?今更何言っているの?私の方は子供ももう直ぐ高校卒業だから、大学生になっちゃえば下宿する可能性だってあるじゃない?だから……離婚に何の支障も無いの」


「いや~?そうは言ったが……我が家はまだ子供が小さいから……」


「どういう事ヨ?離婚の話進めてくれているんじゃなかったの?」


 別れ話を切り出しても受け入れてもらえず、延々と関係は続いた。そして…2人は徐々に警戒心も薄れ、やがて学校の生徒の目撃情報や父兄の目撃情報などが出始めて、学校中の噂になってしまった。


 これを良しとしなかった学校側が、2人を呼び出し別れるよう説得した。

 ましてやこの学校は県下でも有数の進学校で、富裕層の子女たちが多く通う有名校。そんな由緒正しい高校の先生が、そのようなハレンチ極まりない行動を取る等許されぬ行為。父兄からのタレコミにより学校側が動いたのだった。2人は校長室に呼び出され延々と注意を受けた。


「生徒の見本でもある先生方が、事も有ろうに生徒に不倫現場を目撃されるとは何たる醜態、不始末、子供たちが『2人の先生、桐谷先生と花田先生が一緒に帰る所を目撃しました』更には『2人の先生が手を握り合っていました』そんなタレコミでは注意は出来ませんが、父兄が決定的な場面を目撃していたのです。更には携帯に現場写真を収めてあると言うじゃありませんか、それは2人がモーテルに入った写真です。まあ時間外で校内での写真ではないですが、それでも…父兄にも、生徒にも、噂は広まっています。節操をわきまえて下さい。はしたない!こんな事が続くようでしたら移動も十分に考えられます」


 桐谷先生にすればこれ幸いに、10歳も年上のしつこく付き纏う花田先生と、やっと別れることが出来ると内心ほっとしていた。


 だが……一方の花田先生は、もう夫には何の未練も無い。桐谷先生との未来しか考えられなくなっていた。


 そんな時に2019年4月、桐谷先生は岡崎市の高校に異動となり、2人は日常的に顔をあわせる間柄ではなくなった。桐谷先生は異動のタイミングで赴任先の近くに引っ越したが、花田先生には新住所を教えなかった。その理由は、前年に妻との間に子供が生まれており、桐谷先生はこのタイミングで花田先生との関係を清算しようと考えた。



      ***

 桐谷先生はやっと花田先生と別れる事が出来て、新たに人生をスタートさせていた。


 しかし、花田先生は別の高校職員の桐谷先生の知り合いから居場所を聞き出していた。そして…新学期早々の4月3日の1日だけで花田先生から桐谷先生の携帯に500回以上もの着信があったと言うのだ。更には、2人の関係を妻にバラすと言われ、仕方なくまた腐れ縁で付き合い出すようになった。


 だが……しょっちゅう携帯が鳴る事に不信感を抱いた妻が、夫が子供と入浴中に携帯をこっそりと見た。なんと同じ番号がまるでコピ-されたかのように携帯に並んでいた。そこで風呂に入っている事を良い事に、コピ-されたかのように携帯に並んでいる同じ番号に、かけ直してみた。


 すると……電話を今か今かと待っていたかのように、飛び付いて出たかのようにコールが終わるか終わらないかの一回で、喜び勇んで携帯に出た見知らぬ女性の声に啞然とした。


「アッ‼もしもし宏、待っていたのよ。嬉しいわ!あなたから電話かけてくれるなんて……」


 妻は返答しなければバレてしまうので、慌てて電話を切った。そして…夫が子供と風呂から出て来るなり仁王立ちで言い放った。


「あなた、この携帯の着信どういう事?あなた……ハッキリ言って!ウウウウッ(´;ω;`)ウゥゥシクシクまさか…まさか…あなたが私に隠れて女がいたなんて……許せない!もう離婚……離婚して下さい」妻は余りの出来事に感情を抑える事が出来ない。


「許してくれ!あの女がしつこいんだ。俺は別れたいんだが?頼む絶対に別れるから」


    ***


 ある日の事だ。桐谷先生は今度こそハッキリと別れようと、決意を固めて花田先生と会った。


「俺と……俺と……これっきりにしてくれ。お互いに家族がいる事だし……」


「私は絶対に嫌!もう何年の付き合いになると思っているの?別れられる訳無いじゃないの……」


「……じゃ~手切れ金200万円払うから……別れてくれ!」


「バカにしないで!もう付き合い出して2年よ。散々弄んで捨てようなんて……じゃあ1000万円払って頂戴!」


「そんなお金がどこにあるんだい。取り敢えず400万円払う……そして…月々少しづつ支払うから……頼むから別れてくれ!」


 それでも…諦めきれない花田先生から、またしても携帯音が鳴り響く事となる。

 

 そこで……この由緒正しい品位の溢れた御婦人方たちの間では、以前から不倫の噂が絶えなかった2人だったので、口々にあらぬ噂で持ち切りだ。


「どうも……桐谷先生、奥様から花田先生と別れないのだったら、子供を連れて出て行きますと、言われていらっしゃったみたいですのよ」


「まぁそれは当然の事ですわねぇオッホッホッホ!」


「だけど……花田先生は桐谷先生と絶対に別れたくない。別れるくらいなら死んでやると言って、桐谷先生を離さなかったらしいですわね。ウッフッフ!」


「人のお噂では桐谷先生は、奥様からあの女と別れなかったら子供とは会わせてあげないと責められ、更には10歳も年上の花田先生からは別れるのだったら1000万円払えと、脅迫され追い詰められて2人で死ぬ事を決意して、一緒に死ぬつもりで睡眠薬を大量に飲んだのだとか、そして…桐谷先生が運悪くお亡くなりになられたので……花田先生が首を切断してマンションに保管していらっしゃるらしい。花田先生は、御主人様とは別居していらっしゃるでしょう。だから……自分のマンションの目の届くところに置いて、永遠に自分のものにしたかった。このように仮説する方もいらっしゃるとか、オッホッホッホ!」という事は花田先生が犯人て事?


 だが……これは連続殺人犯の仕業が濃厚だ。花田先生が後の2人最初の事件の、廃墟の民家から発見された豊明市の43歳の男性Tを、恨む筋合いがどこにあると言うのか?


 アッ!だが、星信学園高校の生徒勝君の父親Tさんが、首なし死体事件の被害者の一人だ。そして…2人目の被害者は星信学園高校の使われていない倉庫から発見された、名古屋市瑞穂区の36歳の桐谷先生だった。だから…花田先生とは接点がある。




 何という事だ。ブルジョアで知られるお金持ちの子女達が多く通うこの学校で、2人もの関係者が相次いで首なし死体事件の被害者だった。そして…桐谷先生は夜の見回りで見てはいけないもの、2人の男子生徒の抱き合った姿を見てしまった。


 妻に帰る時には電話を入れるのが習慣になっていた桐谷先生は、妻に帰る事を伝えていると、足音が近づいて来た。そこで「アッ!誰か来た!この学校の男子生徒2人が使われていない更衣室で、裸で抱き合っていたが、その時、生徒と目が合った」そう言うと電話は切れた。



 だから…桐谷先生は不倫の末に殺害された可能性もあるが、「LGBT」の生徒の正体が分かって、親に絶対に知られたくなかった生徒の誰かによって、消された可能性もある。



 だが……後1人、岡崎市のモーテル「シャチ」で殺害された56歳の男性木下満さんだけは、星信学園高校と何ら関わりが無い。これはどう説明が付くと言うのか?



 



 











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