第10話 恵麻の嫉妬の炎


 愛知県警察本部では首なし死体事件の特別捜査本部が設置された。

 管理官が事件の進展具合を所轄の刑事たちに問い質している。


「この難事件、首なし死体事件の犯人は今もって何の手掛かりも無いまま、逃走を続けている。誰か新たな情報を入手した者はいないか?銀さん何か手掛かりは?」


「ああ……面白い情報を入手できよった。だで……田淵に説明して貰うでよ―。オイ❕田淵説明しや-よ」

 この銀さん勘が鋭く優秀なのだが、公の場でも一向に名古屋弁を治す様子が見られない偏屈者。更には…上司にもタメ口である。と言っても銀さんは管理官よりも随分年上だ。このような理由から上司に疎まれ出世とは程遠い、御年59歳にして現場人間の警部補だった。


「はい!アッあのですね。岡崎市のモーテル「シャチ」で風呂場から首なし死体で発見された木下満さんですが、それが……恋人代行サービス「レンタル彼氏ローズ」にお気に入りの子が2名いることが分かって来ました。どうも……聞く所によると木下さんは女性ではなく男性を、指名していたらいです。そして、木下さんがゲイであることは以前から分かっていましたが、1人目は25歳のRという男性です。嗚呼……でも、もう1人は有名進学校S高校の菊池凛音と言う女の子らしいですが、全くもって分かりません。ゲイなのに……どういうことなのか?という事は、木下さんはバイセクシャル(両性愛者、男性にも女性にも惹かれる)だったのかも知れません。どうも……ここに問題が有りそうですね?ゲイなのに何故女の子を、お気に入り指定しているかという事です」


「そこのところ……詳しく調べてくれ!他に木下さんが懇意にしていた人物はいるか?独身貴族で、よく夜の街に飲みに出掛けていたらしいから……誰か知らないか?」


 ※「レンタル彼氏は男性が利用できるか?」という質問に対する回答としては「使おうとしているレンタル彼氏サービスによって異なる」とあります。多くのレンタル彼氏サービスでは男性利用に関して言及されていないので、その場合はご自身がレンタル彼氏サービスに問い合わせをして下さい。地方から出て来て観光巡り等をしたい男性は、女性より気を使わなくて済むのでレンタル彼氏を利用する男性も多い。他の用途でも条件が合えばOK。


「木下さんの情報は知りませんが、岡崎市のモーテル「シャチ」に関する情報ですが、あの深夜防犯カメラに映っていた車で、廃墟に乗り捨ててあった車が見つかりました。廃墟から盗み出された車ですが、岡崎市W町の田んぼ道で発見されたそうです。今のところ田んぼ道に乗り捨てたと見られる犯人の目撃情報が、全くありません」


「一体誰が田んぼ道に乗り捨てたのだろうか?その犯人も捜してくれ!」


 

   ***

 3人理生と朝陽それに恵麻のこの3人は強い絆で結ばれていた筈だった。何故こんな事になってしまったのか?この3人は結束が強すぎたせいで壊れたと言っても過言ではない。結束が強すぎれば過ぎるほど裏切られた恨みは強い。

 

 一体どういう事?


 恵麻は朝陽に声をかけられて、いつの間にか3人の仲間に加わっていた。

 だが……朝陽と理生の仲の良さは、昨日今日仲間に加わった恵麻が嫉妬するほどのものだった。3人で遠乗りしてサイクリングに出掛けても理生が朝陽から離れる事は無い。早速海に自転車を止めて2人して短パンで海に潜り恵麻は置いてけぼり。山に遠乗りした時だって……ある時は理生が朝陽におぶさり、恵麻を置き去りにどこかに消えた。


 そんな時に恵麻は目撃した。それは……チョットした勘違いかも知れないが、理生が朝陽におぶられている時に、朝陽の首筋を愛おしそうに見詰めながら、舐めていたのだった。(全く理生って変態チックな所が有るのね?私が理生にアプロ-チの数々らしきことをしても全く無反応なのに?)とその時はそのくらいに思っていた。


 

(だけど理生は……全くと言って良いほど恵麻に興味を示さない。私は理生が好き!あのク-ルな眼差しを私だけのものにしたい。そして…その凍り付いた氷のような眼差しを私が溶かして、何かどうにも出来ない事で悩んでいるのなら、私がその悩みを解決してあげる。だって……理生の事が好き……大好きだから……)


 そんなある日朝陽から告られた。

 

「恵麻ちゃん……その~恵麻ちゃん……僕……僕……最初恵麻ちゃんを見た時から恵麻ちゃんの事……だから…付き合ってください」


「私達3人いつも一緒の友達じゃん?」


「……そうじゃないんだよ。男の子と女の子としてだよ。今は只のダチじゃん。分かった?」


「分かったけど……?」


 こうして…全く恵麻の気持ちとは裏腹に、好きでも無い朝陽に告られた。


(そうだ!理生を振り向かせるために、この関係を利用しないでどうする?私と朝陽の関係を知り嫉妬に狂えば、理生が私に興味があるという事だ。あの日飼育小屋の奥に私が朝陽を誘い出したのよ。だって理生は朝陽にしか興味が無いんだもの。私を見て!私に振り向いてほしいの……)


 こうして…朝陽は野郎に追い掛け回されボコンボコンにされ、河原で意識を失ってしまった。


    ***


 追い掛け回したあの夜は朝陽を成敗出来なかった理生達だったが、引き下がるわけが無い。


「よくも俺達に恥をかかせてくれたな!皆今度こそは絶対に朝陽をコテンパンにヤッツケテやろうじゃ—ないか!そこでだ……俺らの通学路に河原が有ったじゃないか、あの河原に誘い込みフッフッフ❕痛い目に遭わせてやろうじゃないか?皆分かったな!」


「今日決行するのか?」


「この前はもうチョットの所でしくじったが……今度こそ……コテンパンに……ウッシッシイ」


「オウ!今日はコロナ対策の臨時職員会議が有るので、授業が早く終わる。だから…今日決行しよう」

  




***


 河原に向かった4人組は、朝陽を河原に追い詰め成敗している。


「フッフッフ……お前の……お前の……裏切りが許せネ—!俺達は1年生の時からどんな事も包み隠さず話し合って来た。それなのに……それなのに……なんだよ!こそこそと隠れて恵麻ちゃんと乳繰り合いやがって……なぁお前ら!そうだろう?」


「本当だ!噂ではお前がどうも……しつこくて……それで恵麻ちゃんも……強引にキスされて困っている。そんな噂が漏れ聞こえて来てんだ。お前分かってるのか?このスケコマシ野郎が、許せネ—!」


「何言っているんだよ?両者同意の元だよ!恋愛は自由だろう?」


「お前は本当にバカだな!お前に無理矢理キスされた張本人恵麻さまが、そう言っておられるのだよ?よくも……我がクラスのマドンナを汚してくれたな、許せネ—!」


「オイ!皆こいつを河原に連れて行け!……フッフッフ!ボコボコにしてやろうじゃないか?ヤレ————————ッ!」



 野郎達は、がれきや棒で朝陽を一方的に殴り付けている。


 ボコン//〷バカン〷//グシャン〷//∥


「ヤッヤメロ❕止めてクレ————————ッ!」

 

 朝陽はコテンパンにやっつけられて、その場に倒れ込んでいる。しかし……恵麻は何故、朝陽に不利になる事を言ったのだろうか、少なくとも同意の元付き合い出したのも事実だし、同意の元キスをしたのに………。


「フフフ!チョット可哀想な事をしたけど……だって……私だって……クラスで不利な状況に追い込まれたくないでしょう?それから……私……朝陽より……クールで知的でイケメンな理生がタイプだったの。だから……もう……私に近付かないで」

 恵麻も恐ろしい女の子、この後どうなって行くのか?


(だって……私見たの……それはね!あの夏の日、狂う程の熱い夏の日に……それこそ……あれは何だったの?朝陽と理生の熱い抱擁とキス……でも太陽が……灼熱の太陽の悪戯なのか、眩しい太陽光線でキスの部分が眩しすぎて分からなかった?只理生の表情には恋人に寄せる熱い思い……輝きを感じ……朝陽に意地悪をしたくなったのは事実……だって……あんな表情は理生は私には見せた事が無いから……)

    






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