三月 彼がやって来る

関西国際空港の国内線到着ロビーで難波零子は一人そわそわしていた。


「ほんまにほんまなんやよな」

一人スマートフォンの画面を何度も見る難波零子であった。そこには宅間優一がのってくる飛行機の便名と到着時間が書かれていた。

「ああっもうすぐ来るやん。なんか緊張してきたわ。ラインで毎日やりとりしてるけど会うのはあの池袋事件(零子は池袋で道にまよったことをこう呼んでいる)以来やからな。でもほんまうれしいわ。宅間君こっちに来てくれるなんて。これって運命ちゃうかな。たまたま出会って、ほんで彼の仕事が大阪に決まるなんて。やばっ心臓バクバク言うてきた。もし今日告白されたらどうしよう。あっでもうち宅間君より四つも年上やからな。こんなおばはんいらんわ言われたらどうしよう。いやいやそらないて。そんなんやったらあんなに毎日ラインせえへんて」

周囲の視線など無視してぶつぶつと一人言っているとスーツケースを持った宅間優一がやって来た。


「あっ宅間君こっちこっち」


「ほんまに久しぶりやな。あの池袋事件からやからもう二か月もたつんや。月日はたつのは早いな。いやいや、こんなおばはんみたいなこというたらあかんわ」


「ぜんぜんおばはんみたいに見えへんて。うれしいわ、宅間君。ほんで宅間君の住むことになった家って羽衣はごろもなんやよな」


「ほんで会社が淀屋橋にあるんや。羽衣からやったら淀屋橋よどやばしけっこう近いよ。難波で地下鉄に乗り換えてすぐやな。けっこういい立地やん。ちなみにうちが住んでるのはガシやねん」


「あっガシいうてもわからへんか。宅間君埼玉県出身やもな。ガシは堺東のことやで。宅間君の引っ越し先の羽衣からすぐやで。車やったら二十分もかからへんちゃうかな。ほんならいつでも宅間君の家いけるやん。なんやったらうちの家きてくれてもええねんで。って宅間君また顔赤いで。飛行機でつかれたんかな」


「なんでもないって。ちょっと熱みたるわ」

難波零子は前髪をかきあげ、自分の額を宅間優一の額にあてる。

「ほんまちょっと熱いな。最近寒暖差激しいからな。宅間君、体に気つけらなあかんよ。もし風邪ひいたらうちがお粥さんつくったるからね」


「ほんなら行こか。うちのマーチ駐車場とめてるねん」

二人は関西国際空港の駐車場に向かった。

「ほら荷物後ろに乗せてな。宅間君はうちの隣やで。後ろに乗るなんて絶対やるさせへんからね。キッ(鋭い視線を宅間優一に向ける)」


「バタンっと。宅間君、音楽何聞く。アニソンがいいって。うふふっうちもアニメ好きなんや。やっぱりうちら気があうな。スマートフォンをブルートゥースでつなげてっと。んで、シートベルトをしめて。宅間君も悪いけどシートベルトつけてな。うちこれでも無事故無違反なんや。でもシートベルト嫌いやわ。ほら、胸のところに食い込むやん。これ息苦しいねん。まあ、でもルールは守らなあかんのやけどね。ほら、おっぱいのところにシートベルト挟まってまうやろ。これけっこ痛いねん」


「どうしたん、目そらして。もう、宅間君こっち見てよ。うち、宅間君の顔見たいのに」


「せ、せやな。よそ見運転なるな」

車は駐車場を抜けて阪神高速道路を走る。


「もうちょっと行ったら高石たかいしの工業地帯が見えるねん。そこな夜景がもうめちゃめちゃきれいなんよ。ほんま、工場萌えっていうの。なんかゲームのワンシーンみたいにきれいなんやで」


「今度一緒に見たいって。ええよ、今度見に行こか。宅間君こっちで働くことになったんやからいろんなところいけるね。これから一緒にいろんなところいこな。約束やで。指切りげんまんや」

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