第31話
朝になりタルティーニは部下に命令し、ドナテッラの宝石を全て持ってこさせ、ドナテッラを尋問した。
「ドナテッラ嬢、魔法石はどれだ?」
ドナテッラの顔は涙でぐしゃぐしゃになり、体を小さく丸めて小刻みに揺れていた。
「私は悪くない、私は悪くない、私は——」
あらぬ方向に視線を彷徨わせ、落ち着かないドナテッラの顔の前でタルティーニは手を叩いた。
「おい!しっかりしろ!魔法石がどれかと聞いている、答えろ!」
女神エキナセアに雌と呼ばれ、魂を握り潰すと言われたのだ、正気を失って当然なのかもしれない。
だが、魔法石を壊さなければならない、でなければ、黒魔術をかけられ、操り人形と化している王族を正気に戻せない。どれが魔法石なのか知っている人は他にいるだろうか、モディリアーニなら知っているだろうかとタルティーニは思った。
私は悪くないを繰り返すばかりでドナテッラとは会話が成立しなかった。
「もういい、時間の無駄だ。牢屋に戻してくれ、次はモディリアーニを連れてきてくれ」
タルティーニは額に手を当て考えた。急いで王都に戻り国の崩壊を食い止めねばならないが、魔物の襲撃もある。自分たちが王都に戻ってしまったら、ここの住民たちは誰が守る?だが結局ここに残ったところで何ができる?部下の殆どが戦える状態じゃない。1時間ともたず全滅するのがオチだ。
魔法石の存在を知ってすぐ、アロンツォとドナテッラを拘束しなかったことをタルティーニは悔やんだ。
モディリアーニが尋問室に連れられてきた。ドナテッラよりはマシだが顔面蒼白となり、挙動不審だった。
エキナセアからの報復を恐れているようだとタルティーニは思った。
「何を怯えているのです?」
「——怯えてはいない、昨晩体験したことの神秘さに打ち震えているだけだ」
「嘘ですね、真実を当ててあげましょうか、ロゼッタ様を殺めようとしたことが、女神エキナセアにバレてやしないかと怯えているのでしょう?」
「あ、殺めるなど、何の根拠があって——」
タルティーニは短剣をテーブルに置いた。
「これは昨夜あなたから押収したものです。短剣を何に使おうとしていたのですか?」
「何も、ただの護身用だ」
この状況では、腹黒モディリアーニといえどもその腹黒さを見せる図太さは持ち合わせていないらしい。神を敵に回して平気でいられる人間などいはしないなとタルティーニは思った。胸を張り目をまっすぐに見つめ、やましいことはないように見せているが、しきりに鼻を触り机の下では何度も指を組み直していることから、嘘をついていること、極度の緊張常態にあることが分かる。
こういったボディランゲージを騎士は習得させられる。相手が危険人物かそうでないかを判断する有益な情報になる。そして、自分自身が心の内を敵に悟られないようにする為でもある。
「教王ともあろう人が嘘をついていいのですか?女神エキナセアは見ているのではないですか?」
「そんな……。わ、私はただ英雄になりたかっただけだ」モディリアーニは頭を抱えた。
「英雄だと?」
「魔族を殺せば私は英雄になれる」
「ロゼッタ様が聖女だということは分かっていたことだろう?聖女がいなくなれば国がどうなるかだって知っていたはずだ。なのに何故」
「聖女の逸話など迷信だと……エキナセアなどいるはずがないとそう思って……」
「だが、本当にいた。ドナテッラが使っていた魔法石がどれか分かるか?」
「自慢げに見せてきたことがあったが……多分これだろう」モディリアーニはペンダントを指差した。
タルティーニはその魔法石を金槌で叩き割った。
「魔物に関してはどこまで知っているんだ?あんたは安全な塔の上から見物するタイプだ。魔物がうじゃうじゃしているところに好き好んで来るとは思えない。勝算あってのことなんだろうと思うが違うか?」
「魔物はヴェルニッツィ侯爵が操っていると聞いた、頃合いを見て我々が聖道具を使い追い払うことになっていた」
「それで頃合いを見た結果、俺の部下は、前途洋々な若者たちは、死ぬ羽目になったのか?」
「少しの犠牲が必要だった。騎士団より教会の方が優れていると思わせたかった」タルティーニに睨まれたモディリアーニの額には大粒の汗が浮き出ていた。
「はっ!少しの犠牲か、お前は人の皮をかぶった化け物だな、畜生以下だよ」
「私はただ権威が欲しかっただけだ!皆に崇拝されるべきなのに、馬鹿な貴族どもが私を見下すからいけないんだ!コルベールなんかに負けるわけにはいかなかったんだ!」
「そのご大層な虚栄心を満たすため、聖女を殺すことにしたと?」
「あの女はコルベールに似て目障りだった、ああいった潔癖の偽善者には虫唾がはしる」
「要するに清廉な人物は自分が劣っていると知らしめるようなものだか憎いってことか。
アロンツォ王太子殿下はどこまで加担してるんだ?」
「ただの操り人形だ。ドナテッラが黒魔術で、言うことを聞かさせていた。あれはただアロンツォに夢中で、振り向いて欲しかっただけだ。それに聖女と崇められるのを夢見ていただけの馬鹿な女だ。全てはヴェルニッツィ侯爵の思惑だ。王室の乗っ取り計画、あの男は王になるつもりだったんだよ」
「王都に戻ったら裁判が開かれるだろう。直接手を下したわけではないが、癒着と謀反を知りながら黙っていたことは責任を問われるだろうな、身の振り方を考えておいた方がいいだろうな」
タルティーニはモディリアーニの醜悪な言い訳を、これ以上は聞いていられないと思い、話は終いだと部下に手振りで伝え、モディリアーニを連れていかせた。
モディリアーニの不快な汗の匂いが漂ってきた気がして、タルティーニは鼻を寄せた。
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