そこそこ高名な依頼人

 その土曜日は雨が降っていた。


 これも地球温暖化の影響なのだろうか? 九時頃から降り始めた雨は、あっという間に春先に似つかわしくない、南国のスコールの如き土砂降りとなってしまった。春の嵐と呼ぶにはいささか潤いを帯びすぎたその風雨は、ここ野羽高にも幾ばくかの小さな出来事を引き起こしていった。


 わずかに咲き残っていた桜の花は完全に散り、雨具のない生徒たちは怨嗟の声を上げつつ、レンタル傘を求めて職員室に殺到した。体育の授業で予定されていた体力テストは延期となった。湿り気を帯びて滑りやすくなった廊下のそこここで転倒事故が発生し、にもかかわらずスケートリンクがわりにして遊び始める悪ガキは後を絶たず、ついには生活指導担当の槙原先生が校内放送にて「本校の生徒としてふさわしい、節度ある休み時間の過ごし方」を全校生徒に求めるに至った。


 そして──我が愛すべき民俗学研には、一人の訪問者がやって来た。


 降りしきる雨をものともせず、辺鄙極まる特別校舎の、さらにどん詰まりの四階第四教室なんぞにわざわざご足労いただいたこの女子生徒は、名を川村愛花あいかという。僕の同級生だ。

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