ぎっくり腰の話

 皆さんはぎっくり腰になったことはあるだろうか?

 

 更新2回目にしてこんな話もどうかと思うが、なんと本日朝起きがけにやってしまったため、今回はこれをネタにしたい。


 職業柄、肉体労働を主にする方々にとって、腰痛、ひいてはぎっくり腰などは非常に頭の痛い問題の一つだと思う。ふとした瞬間、何気ない動作の最中に、世にも恐ろしい音と例え難い衝撃の後、力の抜けるような感覚、激痛が襲ってくる。魔女の一撃などとはよく言ったもので、その場で動けなくなることもしばしばである。そして手の悪いことに、一度なると再発の確率が高いので、多くの場合はこの一撃に怯える生活が幕を開けることとなるだろう。

 時に、ぎっくり腰を体験した同志諸氏に置かれては、この衝撃の初体験の記憶が残っているだろうか?私は嫌に鮮明に覚えている。数年前、それも大雪が降った次の日の除雪の最中だった。


 当時はまだきのこ生産業を引き継ぐ前で、前職に従事していた頃であった。休みの日や仕事から帰った時に手隙であれば作業を手伝うのが当たり前だった。

 実家の裏にきのこを栽培するハウスがあるため、除雪するべき範囲は概ね広い。家族労働なので除雪するのは男手である私か父の仕事になるわけだが、当然スコップ一本で除雪できるような広さではないので、除雪機を使うことになる。除雪機も最近のものはハイブリット型になってきていて、バッテリーを二つ積んでいる上に、古い型の同じ大きさのものより遥かに重量がある。昔ながらの除雪機であれば、方向転換したかったり埋まったりしたら力任せに引っ張るだけでもある程度動いたものだが、ハイブリット型のものは人間一人の力では全くと言っていいほど動かない。手前のレバーやハンドルの操作が全てで、埋まったり引っかかって走行不能にならないように注意しながら運転しなければ、何かあった時に自力での対応が大変難しいのだ。

 その日、私はシイタケの菌床を主に栽培しているハウスの脇を除雪機で除雪していた。そのハウスの左隣には青いトタン屋根の小屋があって、その間を除雪機で行ったり来たりしていたわけだが、除雪の最中に屋根からの落雪が雪崩れ込んできたのだ。落ちてきた雪は除雪したスペースをあっという間に覆い隠すほどだったが、ハウス側に近いところにいたおかげか、足元まできた雪は自分の脛の真ん中くらいまで埋まる程度の深さで、パッと逃げ出せた自分は全く無事だった。しかし、除雪機はクローラーが埋まってしまい、度重なる除雪で出来上がってしまった段差も相まって身動きが取れなくなってしまった。

 幸いにも、落雪で埋もれた所から除雪が終わっている雪のないところまでの距離はおよそ数メートルで、脱出は可能そうだった。本来であれば周りの雪を掻きながらバックすればよかったものを、当時の私は人力で引っ張り出す方法を選んだ。

 前述の通り、ハイブリット型の除雪機は大変重いのであるが、その当時は若さゆえにいけると思ったのだろう。息を吐ききってグリップを握りしめて歯を食いしばり、出せるだけの力で思い切り後ろに反動をつけて引っ張った。その瞬間、ゴキゴキゴキッと、腰の骨から出てはいけない音が頭頂部から抜け出るほどに響き渡り、あまりの衝撃に脱力してそのまま後ろに倒れてしまった。

 あまりに一瞬の出来事で、頭の中も目の前も雪のように真っ白になった。数秒ののち、頭がハッキリしてくると、何が起きたのかを理解した。


 ぎっくり腰だ。遂にやってしまった。


 その思った途端、じわっと背中が冷え出し、仙骨上あたりから腰が段々と痛み出す。しかも膝が笑って立てない。

 私は雪が燦々と降りしきる中、冷たい汗と暑い汗をだくだくとかきながら、匍匐前進で家の玄関まで辿り着いた。着いた時には全身雪だらけで、さながら行き倒れの雪だるまのようになっていた。その日はそれから半日布団から動けなかった。ちなみに、後で確認すると除雪機はその場から一ミリも動いていなかった。


 これが私のぎっくり腰との出会いと初体験の全容である。それから毎年、年に平均3回ぎっくり腰を再発している。前触れとなる左腰の痛みが数日続いたのち、ある時は長靴に手を伸ばした時、ある時は布団から起き上がる時、ある時は車から降りる時に。普段は気をつけていながら、ふと注意がそれる瞬間に腰に一撃が入る。その後は痛み止めとコルセットの世話になりながら、約1週間ほどを過ごさねばならない。

 最近は、ぎっくり腰になったからと言って寝ていると良くならないので、1日くらい静かに過ごした後は気を付けながらも普段通りの生活をした方が早く良くなるのだという。勿論休んでばかりはいられないので、痛み止めを齧りながら仕事に戻るのであるが、収穫作業のような立ったりしゃがんだりを繰り返す動作が多い時期はかなりしんどい。冬も深まった今時期は雪さえ降らなければ数日軽作業で様子見しながら業務内容を調節できるのでまだありがたい。腰が冷えると泣きを見るので、貼るカイロは必需品である。

 ぎっくり腰に悩む同志諸氏は、特にこの冷える冬場は腰を暖かくしながら気をつけていただきたい。また、もしぎっくり腰未経験の方は、ならぬように最大限に腰を労って生活していただき、かの一撃を生涯見舞われることがないよう切に願っている。

 

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徒然蕈 まっしゅ13 @mush13

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