第3-2話

ノアは工房内を見渡すと、目に飛び込んでくるのは様々な形状と輝きを持つ武具たちだった。棚や壁には剣や斧、槍などが整然と並べられており、その美しい姿勢と鋭利な刃はまるで芸術作品のようである。


彼女は一つ一つの武具を手に取り、その質感や重みを感じながらじっくりと観察する。鏡面のように磨き上げられた剣は、光を反射して輝き、その刃は鋭く空気を切り裂くことができそうな錯覚を与える程の出来栄え。

斧の柄は堅牢でありながら、握りやすさを考慮したデザインが斧の力強さを際立たせていた。槍はその先端が鋭く尖っており、長い柄はバランス良く重心を支えている。


工房内にはさまざまな種類の武具が所狭しと並べられていた。

魔法使い向けの杖や錬金術師の用具、弓やクロスボウなどの遠距離武器もある。それぞれの武具には個性と特徴があり、使い手の要求に合わせて作られていることが感じられた。


ノアは武具の美しさに魅了されながらも、使い勝手や性能を重視して選ぶ。彼女は自身の戦闘スタイルに合った武具を見つけるため、慎重に吟味していく。手に持った剣のバランスや振りやすさ、斧の切れ味や取り回しの良さを確かめながら、最適な武器を選び出すことに思考を巡らせる。


槍は狭い場所での取り回しが厄介だからなあ……。やっぱり取り回しの良さを重視したいから短い武器がいいよねえ……。


工房内の武具たちは、それぞれが鍛冶の技術と情熱によって生み出された存在だ。ノアはその輝きや美しさに惹かれつつも、戦場での使い勝手や効果を最大限に引き出す武具を選んでいく。

戦闘時に自分がどんな風に武器を手に戦うのかをイメージしつつ、彼女は細部まで注意深く見つめていく。




ノアが工房内を歩き回っていると、目に留まる一挺の銃があった。それは他の武具とは異なる、斬新なデザインと輝きを放っている。


彼女は興味津々でその銃に近づき、手に取る。銃の本体は鏡面のように光沢のある金属で作られており、優れた職人技の痕跡が随所に見受けられます。細部にまでこだわられた装飾や彫刻は、銃の独自性と洗練された美しさを引き立てている。


銃の形状も非常に特徴的で、従来の火器とは異なるデザインを持っていた。細身の銃身と短い銃床が絶妙なバランスを保ち、ノアの手にしっくりと馴染んでいる。銃身には複雑な彫刻が施されており、まるで魔法の力を宿しているかのような雰囲気を醸し出していた。


彼女は銃を手に持ち、軽く構える。その際、銃の重量やバランスが彼女の求める範囲内にあることを確認した。手に感じる重みや銃身から伝わる力強さが、彼女に自信と信頼を与える。


「これは……見た事の無い武器だね」


銃の引き金を軽く引くと、メカニズムがスムーズに作動し、銃の部品が正確に連動します。

カチっと、静かに音を立てて引き金が作動する。

バンガルフは熱した刀身を再度水に浸けると、椅子から立ち上がりノアの元へと移動する。


「銃って言う武器だよ。専用の弾薬を装填して引き金を引けば狙った相手を倒せる武器だ」

「弓とかクロスボウと何が違うの?」

「火薬を炸裂させて弾丸を打ち出す。弾倉に弾を入れておけば弓やらクロスボウみたいに毎度毎度矢を装填しなくても引き金を引くだけで弾丸を連続して撃ちだせる。お前が今持ってるそれは至高の一品で、弾丸に魔法を込めなくても銃本体に刻まれたルーン文字によって自動的に弾丸に魔法が込められて威力があがるようになってる」

「それはそれは……なかなかに興味深いですな」

「一応、仕組みを理解してもらいてぇからこの安いヤツで構造を見せてやるよ」


バンガルフはノアに仕組みを解説する為に、銃を解体してみせた。細かい部品が組み立てられ、一つ一つが確かな技術で作られていることが分かる。

部品の一つ一つをノアに説明し終えると、バンガルフは再び銃を組み立ててそれをノアに手渡した。この銃は彼女の戦闘スタイルに合った効果的な選択肢となるかもしれない。

彼女は銃を肌で感じ、その力強さと精密さに心を躍らせる。


「剣は今日中には仕上がるがまだまだ時間が掛かる。庭を射撃場にしてあるからそれで遊んで来い」


ノアは瞳をキラキラと輝かせながら大きく頷いた。





ノアはワクワクしながらバンガルフに導かれ、射撃場へと足を踏み入れる。

広々とした場所には的が数個設置され、銃の試射に最適な環境が整っていた。


「ほれ、あの的を狙ってみろ」


バンガルフはノアに一丁のライフルを手渡し、的の前に立つよう指示。

彼女に銃の使い方や注意点を丁寧に教える。

彼女は緊張と期待が入り混じった心境で銃を構え、的に向かって狙いを定める。


「それじゃ、引き金を引いてみろ」


静寂の中、ノアは深呼吸をして集中力を高める。その後、ゆっくりと引き金を引くと、乾いた銃声と共に一瞬の閃光が放たれ、銃弾が的に命中する。的に穴が開き、それを見たノアは驚愕したように目を大きく開いた。


「凄い……なにこれ」

「これが銃だ。古い弾がここに置いてあるから好きにつかってくれ」


バンガルフはそれだけ言い残し、仕事に戻って行った。

彼女は銃を再び構え、的を切り替えて次の試射に臨みる。銃の操作に慣れ、連射するスピードも徐々に上がっていった。始めて銃を握ったと思えぬ程に、次々と銃弾が的に命中していった。

的の周りに広がる穴の配置はノアの的確な狙いと銃の精度を物語っている。


試射が進むにつれ、ノアは銃の特性や反動、射程距離などを探りながら自身の技量を高めていく。彼女の動作は滑らかで正確であり、銃を持つ手には自信に満ちて行った。

ノアは完全に銃の魅力に憑りつかれた。

射撃する度に射撃の制度は増していき、的に開いていく穴が狭まっていく。


気が付けば夢中で何時間も銃を撃ち続けた。バンガルフが用意してくれた何百発もの銃弾を弾倉に詰めては撃ちを繰り返し、気が付けばノアは最後の一発を撃ち終えていた。

的に銃弾が命中し、煙と共に的が揺れる光景が広がる。ノアは満足そうに銃を下ろした。


「最っ高だ……」


銃口からでる煙が風に揺らぐ。





射撃を終えたノアが工房の一室に戻ると、バンガルフの手腕により仕上がったミスリルの剣がそびえ立っていた。

美しい青白い輝きを放つミスリルの剣は、まるで星の輝きを宿すように見える程に美しい。

剣身には流麗な彫刻が施され、剣の全体にぼんやりと青白いオーラを纏っている。


ノアは手を伸ばし、銘を確認した。

刻まれた文字は鋭く、それ自体が芸術的なデザインを持ってた。剣の柄にはミスリルの細工が施されており、握る手にしっかりとフィットする。剣の刃は鋭利で光沢を放ち、髪の毛をほんの少し当てるだけでスパっと切れた。


「これは見事だな……」


ノアは目を輝かせながら剣を手に取る。剣の重さやバランスを確認し、軽く振るってみた。

ミスリルの剣は非常に軽やかで、軽枝を振るっているような感覚だ。

さらに目を凝らすと、剣の彫刻が細かいディテールで装飾されていることに気付く。優雅な曲線が美しい模様を描き、全体に流れるようなデザインが剣に独自の個性を与えていた。


「ミスリルの剣には特に何もしちゃいねえが、一度溶かして瑠璃輝銀るりかがねを追加。彫ってある彫刻はルーン文字になっていて魔力を込めるだけで初級魔法程度なら無詠唱で使えるようになってる」

「わーお……それはすごいねぇ……」


私魔法使えないんだけどね……。


「んで、お前が偉く気に入った小銃の事だがよお、途中まではデスクローラーの素材でクロスボウを作ろうとしていたんだ。最近じゃあ小銃に並んで小さな針状の矢を飛ばす半自動式クロスボウなんてものが流行っててそれを試しに作ってみようと思ったんだが蒸気機関を作る部品が不足してなあ……代わりにデスクローラーの素材を使った自動小銃を作って置いた」

「ほえー……。どんな感じになったの?」


バンガルフはデスクローラーの素材を使った半自動小銃をテーブルに置いた。

その小銃は魔法と技術が融合した驚異的な武器だった。


「銃本体はミスリルと魔法銀で丈夫さと魔法伝達力を向上させ、軽量化させた。デスクローラーの革はしなやかで丈夫、滑り止めとして非常に優秀だから手で触れる所全てに張っておいた」


銃の本体はミスリルと魔法銀で作られており、軽くて丈夫なつくりとなっている。デスクローラーの革を使った銃身は非常に硬く、優れた耐久性を持ちながらも、銃の軽さを損なわない。

革の模様は美しい装飾であり、秘めた力を宿しているような雰囲気を醸し出していた。


「この取り付け式の魔力装填機構は弾丸そのものの威力をあげてくれる」


小銃に脱着可能な機構には精密な歯車や宝石、ルーン文字等が組み込まれており、装填される弾薬に魔力が込められていく。

そのため、この魔力装填機構を銃本体に装着するだけで、通常の弾薬よりも強力な一発を放つ事が出来るのだ。


「ちなみにこいつは脱着式の消音機だ。この消音機の内部に消音性をあげつつ状態異常攻撃を底上げするルーン文字を刻んである。この消音機を付けて引き金を引くだけで下位のドラゴンでもぶっ倒れるような毒弾をぶち込む事ができる」


バンガルフは自信満々に消音機を銃に取り付けた。


「最後にお前の要望として、麻痺弾をぶち込む事が出来る機構だが――それは銃本体に備わっている。その機構はディレンブライトの毒袋、デスクローラーの邪眼、牙を惜しみなく使ったから引き金を引くだけで対象の自由を奪う弾を発射する事ができる。ただ、そんな力が不要な場合もあるだろうから通常弾と切り替えができるようにしてある」


特殊弾薬へと切り替えは、引き金の少し上にスイッチがあるのでそれを押すだけで簡単に切り替えが可能になっている。

消音器や魔力装填機構と組み合わせれば対象への殺傷能力や攻撃力をできる。


完成した半自動小銃は、高い命中精度と素早い連射速度を持ちながら、魔法と科学技術の融合によってノアの戦闘スタイルに完璧に合致していた。銃身からは微かな光が輝き、魔法のエッセンスが込められていることを感じることができる。


「お前さんの要望をいろいろと組み込んでいたら内部機構が多少複雑になってる。部品の一つ一つは俺の作った一品ものだ。オリハルコンを使った合金だから早々ぶっ壊れる事はねえだろうが……また身の丈の合わねえ魔物を相手にした時は分からん。この銃に対応できるのは俺ぐらいだからぶっ壊れたら持ってこい。あと、手入れは毎日して銃の構造を覚えろ。使った素材の量とモノがモノだから生き物だと思え」

「生き物? どういう事?」

「武具に魔物の素材を組み込むと魔物の意志というか……魂のようなものが宿る。それが大なり小なりなんであれ、生きた武具としてそこに存在する。この銃は特に、デスクローラーの躍動を感じる……蛇と龍は念を残すからな。定期的にそいつの意志を汲み取ってやらねーと使用者が武器に飲まれる」

「それは聞いた事あるけど、滅多にない事じゃん」

「馬鹿言え。ストレイニルのアランから死ぬほど叩き込まれた筈だ」

「武器は武器でしかない。道具は道具でしかない。それぞの武器、道具には役割があり、正しく理解し、上手に使いこなせ――って言われてきたけどなにか関係あるのかな?」

「それが答えだよ。お前さんがこれから使おうとしている道具がどんなものなのか、しっかりと理解して運用しろって事だ。だからこの生きた銃も、少なからずお前に影響を与えるからそれを理解し、順応し、正しく扱えるようになれってこった」

「ふーん……なるほどねえ……」


ノアは剣を鞘に納めて腰に下げる。

出来上がった銃も、機構を理解した上で分解し、バンガルフが用意してくれたケースにしまっていく。


「私は私なりに理解してるつもりだよ。それをどうやって運用していくかも決めてる。この銃も剣も、私がこれから背負って育てていくだけだよ」

「そーかい」

「お代は?」

「防具が仕上がったら全部で70,000フェインってところかな」

「な、なかなかの大金ね……」

「ったりめぇだ。ほぼ一生モンの一級品だぞ。とりあえずおめぇ、金は何処にあずけてんだ?」

「ギルドだよ?」

「んじゃお前の名義で小切手を発行してもらえ。そうすりゃ俺が後で取りに行く」

「了解。防具はいつ頃仕上がりそうかな?」

「防具は嫁が専門だ。明日か明後日には仕上がるからお前の住んでる所教えろ」

「ギルドの宿で寝泊まりしてるよ」

「あいよ。仕上がったら届ける」

「ありがとねー!」


バンガルフは鼻を鳴らして踵を返した。

ノアは新調した武器だけを手にして宿屋に戻る事にした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る