第15話 回想~団らんの日


〈ギルド【アース・オブ・ファミリー】食卓〉


「ほっほっほっ! 再会を祝してレッツパーリーじゃっ!!」


 じいちゃんとばあちゃんと再会したその日、うちでは盛大な祝賀会が執り行われた。家族みんなもその日のうちに各々が抱えていたクエストを完了させ(大体いつもだけど)、夜にはみんながギルドに集まった。


「お義父はんとお義母はんに会うのんは引っ越してきて以来どすなぁ、遠路はるばる来て頂いて嬉しおす」


 母さんと料理長らがこれでもかという程に豪勢な料理を振る舞い、アナスタシアらメイドさん達や執事、給仕の人達が右往左往する。新たな家族の登場に緊張した様子ではあるものの……仕事ぶりは完璧だった。

 余談だけど、ここにいるメイドさんや料理人(コック)さんは見習いでもレベルが100以上ある。これは料理スキルとか執事スキルがとかそんな話じゃなくーー戦闘(バトル)のレベルだ。各々の長(トップ)に至ってはレベル180くらいだそうで……料理長であるおばちゃん(年齢57歳)はこの前、鯨(くじら)ほどの大きさの魚を仕留めてきて捌(さば)いていた。


 そんな使用人すら普通ではない者が集う【アース・オブ・ファミリー】の食卓に久々に賑わいが増した。皆、じいちゃんばあちゃんに会えて嬉しいんだ。僕も今日だけは抱えている問題を全て忘れて楽しんだ。


「──ほぅ、ではキミがシンや皆をガイドしてくれておったのか。ワシからも礼を言うぞぃ、べっぴんさん」

「べ……? シン、どういう意味?」

「綺麗とか可愛いっていう誉め言葉だよ」

「──っ! バ……バカッ、何言ってんのよ! でも本当、再会できて何よりです」


 セリカもじいちゃんばあちゃんとすぐに馴染んでいた。と、いうかセリカは僕以外の家族には人当たりが良く、すぐに仲良くなれる。やはり騎士としての矜持なのか強きには礼を、そうでなければ厳しく接するみたいな教えがあるのだろうか。

 だから僕にはきつく当たっているのだ、だけどそれには感謝している。これからまだまだ精進しなければならないと気を引き締められるから。


「シン様違います。あれは猫を被ってるだけです、むしろシン様だけに見せている態度が素です。化石文化のツンデレというあざとい手法です」


 僕の考えを読んだかのように、アナスタシアがすぐ後ろから声をかけてきたけど……相変わらず早口でよく聞きとれなかった。聞き返すと仕事に戻ってしまったので、取り直してじいちゃん達に聞いてみる。


「じいちゃんとばあちゃんは今までどうしてたの?」

「いやはやすまんのぅ、すぐに帰ろうと思うたんじゃが……迷った挙げ句に金がすっからかんになってしもうて……そん時に賞金の出る『武術大会』に出場して優勝してからというもの各地で助けを求められてのぅ……」

 

 じいちゃんばあちゃんはこの【インフィニティ・グランデ】に来てから半年間にあったことを語り始める。

 セリカに聞きながら話を整理してみると(二人は北海道旅行してたと思っているため)、二人は一緒にここから10万キロ離れた(地球二周分)【カミツグニ】という島国に地球から転移したらしい。

 【カミツグニ】は現在確認されている中でも極小国家群らしく、47ヶ国しか大陸の中に存在しない……とセリカは言った。

 日本みたいだけど注意してほしいのが……47『都道府県』ではなく47ヶ『国』だ。

 面積を聞いてみるととユーラシア大陸より遥かに大きかった。果たしてそれは『島国』と言うのだろうかと突っ込みそうになったけど【インフィニティ・グランデ】では普通のことだった。


「──それで弟子の面倒を見てるうちに帰れんくなってのぅ……すまんのぅ、シン」


 地球にいた頃は、『整体師』として色んな人達のお世話をしていたじいちゃん。優しくて面倒見のいいじいちゃんの事だから断る事ができなかったんだろう。

 申し訳なさそうな表情をしたじいちゃんだけど、僕はそんなじいちゃんを誇りに思った。きっとその国の人達も皆、じいちゃんを好きだったのだろう。


「僕も今度行ってみようかなぁ……」

「止めときなさい、【カミツグニ】は一芸を極めた人間や獣の集まる国よ。生物平均レベルが500前後は下らないし、更には【四四四季】と言って最高気温96度最低気温-47度までの寒暖差が日毎(ひごと)にやってくる。高い適応力がないとやっていけないところよ」


 セリカに制止され、僕はいち早く前言を撤回した。適応能力の問題じゃなく、もはや人間の住むところじゃない。


「ーーところで、【帝河(たいが)ちゃん】と【瑚珀(こはく)ちゃん】は今日は来てないのかねぇ……」

「む、そういえば鍋の日以来見ていないな……」


 宴もたけなわになってきた頃、ばあちゃんが【兄】と【義姉】の話題に触れた。

 そう、未だ再会を果たしていないのはこれで長兄、義姉、猫の三人──しかし、家族は誰も心配してはいなかった。それもそのはず……長兄の帝河兄さんはしっかり者で19歳でありながら既に働いていて別々に暮らしているし、結婚までしている。異世界に召喚された日はたまたま義姉と一緒に実家に食事に来ていたんだ。


 つまり異世界召喚されたと理解していない皆は、帝河兄さん達が行方知れずだと思っていない。

 

「連絡もつかねぇんだよなぁ、ま、奥さんと仲良くやってるってことじゃねーの?」

「……帝兄ぃはともかく、私はあの女性(ひと)苦手……陽キャだから……」

「便りがあらへんのんは元気な証拠言うさかいね、さ、そろそろお開きにして寝処の準備をしまひょか」


 姉さんも妖も母さんも全く気にしていない様子だ。じいちゃんやばあちゃんも少し寂しそうにしていたが納得していた。

 かくいう僕も同じだった。そんな僕らを見て、セリカが心配そうに僕に耳打ちする。


「ちょっと……大丈夫なの? お兄さんのこと……」

「あぁ、うん。心配は心配だけど……ヘンリルに事情は聞いてるし……兄さんならたぶん大丈夫。僕と違って凄く優秀だし……帰れない理由も知ってるから」

「理由?」

「うん、兄さんは『勇者』って称えられてて……奥さんと一緒に魔王討伐の旅に出てるんだって」

「………まさか、【勇者タイガ】の事!? あんたのお兄さん時の人じゃない!」


 そう、遥か遠い地で兄さんは【勇者】として冒険の旅に出てるらしい。圧倒的な『スキル』で魔物達を圧倒しているとか。でも……【インフィニティ・グランデ】には【魔王】と呼ばれる存在が7115人もいて未だに全ては倒せていないとか。


「……? どうしたのよ? 落ち込んで……」

「……いや、僕の思い描いてた理想の異世界転移生活を兄さんが送ってる事にちょっと思うところがあってね……」

「………察するわ、残念だったわね」


 まぁ落ち込んでいてもしょうがない。僕が心配すべきなのは家族の残りひとり──猫の【たま】の事だった。

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