自慢の妻

じゃあ、さっそくわたしの妻の話をしましょう。

いやいや妻の愚痴を言いに来たのではありませんよ。いや、わたしの妻は少し変わってましてね。性格が変わるというか、趣味がコロコロ変わるというか。二重人格というのですか?全くの別人になるんです。


あ、待ってください。席を立たないで。不思議な話はこれからですよ。

妻は温厚で優しくて、笑顔がとても素敵な人です。顔も小さくてお人形さんのようにかわいいんです。料理も和食を基本として、料理上手です。

あ、のろけ話に聞こえましたか、すみません。


しかし、急にその妻の性格が変わるのですよ。

「ご飯を作りますね」と妻がキッチンから優しい声が聞こえたあと、ガンガンと何かをたたきつける音が聞こえてくるんです。驚いて見に行くと、牛肉を叩いていました。妻はわたしを見ると、眉をひそめて「ビフテキ作ってるぞ。邪魔すんな」と乱暴な口調で怒鳴りました。

あの優しい妻がですよ。びっくりしました。結婚前はそんなこと一度もありませんでした。


友人に聞くと、結婚後に妻の態度が変わることはよくあると言われたのですが、わたしの妻の場合はよくあることとは思えませんでした。

それでわたしは妻がなぜ性格が変わるのか、いつ変わるの調べることに決めました。家にいるときは妻をじっと観察するようにしていたのですが、どうしてもその瞬間に出くわすことがありませんでした。

そこでわたしは隠しカメラを部屋に仕込むことにしたのです。犯罪だって?いやいや、自分の家の場合は大丈夫なはずですよ。たぶん。

さすがにプライベートな空間につけるのは気が引けましてね。リビングとキッチンだけですよ。


3日ほど放置してカメラの映像を確認しました。妻がキッチンに立った瞬間の映像を見ているときです。妻は手を頭に置くと、ゆっくりと頭を回したんです。180度ぐるりとね。顔がちょうど真後ろにくる位置です。

わたしはそのとき見てはいけないものを見ていると思いましたよ。背筋がゾクゾクしました。でも映像からは目が話せませんでした。

妻は前にある後頭部の髪をかき分けると、そこには妻の顔がありました。その顔はカメラに気づいたのかこちら見て笑っていました。心臓の音がドクドクと鳴りましたよ。


   あなた


妻の声が後ろから聞こえました。妻がいつの間にか後ろに立っていたんです。びっくりしてパソコンを吹っ飛ばしてしまいましたよ。わたしが妻の名前を呼ぶと、


   どっちのことを言っているの?わたし?それとも……


妻は頭をゆっくり回して髪をかき分けて言いました。


   わたし?


妻に隠しカメラのことを謝り許してもらいました。妻はやっぱり温厚で優しかったです。なんか結局妻の自慢話になってしまいましたね。ははは。

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