バトルメイド物語 いや、バトルメイドって何さ!?

蒼色ノ狐

第1話 バトルメイドが来た!?

 普通とは何よりも代えがたい物だと俺こと浜川優作はまかわ ゆうさくは思っている。

 波乱に満ちた人生よりも、つまらなくても平穏無事な生活の方が好きだ。

 だから俺はなるべく普通になるべく努力してきた。

 勉強も運動も友好関係もなるべく普通と言えるだろう。

 だからこの高校二年生になるこの春も何事も無く過ごせると思っていた。


 だが、かのアインシュタインはこんな言葉を残している。


 『普通と呼ばれる人生を送れる奴なんて、一人としていない』


 …そう、俺の人生も普通と呼べなくなったのは春休みが始まってすぐ。

 一本のチャイムから始まったのである。



 「初めましてご主人様!バトルメイド協会より派遣された月美桜つきみ さくらです!新米ですがどうぞよろし…って!なんで玄関閉めようとしてるんですか!?」


 優作がそっと閉めようとしていた玄関の扉を寸前のところで足を入れる事に成功した桜。

 一方で優作は桜を胡散臭い物を見る目をしている。


 「…すみませんけど、そういった特殊な趣味はないので。」

 「そ、そういうお店じゃ無いですよ!?れっきとしたメイドです!」


 照れか怒りかは分からないが顔を赤くしながら桜は抗議する。

 だが優作がそう思うのも分からない事では無かった。

 自分とそう変わらないであろう歳の女の子がいわゆる和メイドな恰好をして現れれば疑われるのも無理はない。


 「そういう店じゃなかったら家を間違えてますよ!家はメイドや家政婦を雇った覚えなんて…。」

 「〇〇町の×××の浜川優作さんですよね!何度も確認したから間違いないです!」

 「うっ!た、確かに家の住所でそれは俺の名前ですけど…。」

 「ほら合ってるじゃないですか!」

 「けど本当にそんな所に連絡した覚えは無いんですよ!というかさっきから気になってましたけどバトルメイドって何ですか!?」


 優作がその事を聞くと桜は胸を張りつつ自慢げに答える。


 「バトルメイドと言うのは古来より自身が仕える主を守るべく戦闘技術を磨いてきたメイドの事で、その存在は極秘裏に…って!?さっきより力を込めないでください!?」

 「残念ながら家は無宗教です!怪しい教えを持ち込まないでください!」

 「宗教でもありませんから!?本当の事ですから!?」


 一進一退の攻防が続き優作に疲れが見え始めた頃、桜は思い出したようにある人物の名前を出す。


 「そ、そうです!もし疑われたら浜川大介が依頼したと言えと…。」

 「…浜川大介?」


 ピタリと動きを止める優作に対し、チャンスだと思ったのか桜はその事を強調する。


 「は、はい!浜川大介という名前でした!ご家族か誰か…。」

 「…悪いがあんたを入れる訳にはいかなくなった。」

 「ど、どうしてですか!?」


 再び力を込め始める優作に動揺する桜であったが優作は淡々と説明する。


 「その名前は俺の父親の名前だ。そして俺が一番憎んでいる男の名前でもある。」

 「そ、そんな。どうして。」

 「親父は昔からロマンなんて物を追いかけて世界中を旅して回ってたんだ、俺や母さんを置き去りにしてな。」


 第三者からすれば優作が普通に対して執着するのもその父親の行動が一番の原因ののかも知れない。

 優作は極力怒りを抑えつつも目の前の桜に怒りをぶつけてしまう。


 「分かるかアンタに!母親が死んだ時にすら連絡が取れなかった親父を持った人間の気持ちが!」

 「…。」

 「…すまない。けどあの男が何を考えてるにせよ、その考えに乗りたくない。悪いけど帰ってくれ。」

 「…分かりました。」


 優作が再び扉に力を込めようとすると、桜は挟んでいた足をスッと除ける。


 「…いいのか?」

 「いいんです。無理やり押しかけてもきっと誰の為にもならないですから。…ご迷惑を掛けて申し訳ありませんでした。」


 桜はペコリと頭を下げると浜川家の敷地から静かに出て行った。


 「…。」


 優作はその後ろ姿に罪悪感を感じながらも玄関の扉を閉めるのであった。



 優作がその声に気付いたのは突然の雨によって濡れてしまったであろう洗濯物を回収しようとした時であった。

 すすり泣くような声が玄関から聞こえ、優作が覗いてみるとそこには桜が膝を抱えながら泣いていた。


 「月美さん?」

 「!?ご、ごめんなさい!とっさに雨が降って来て!雨宿りできるような場所もなくてつい!」

 「…雨宿りぐらい別にいいけど。帰ったんじゃ?」

 「そ、それは…。その…。」


 何とか誤魔化そうとアタフタする桜であったが、嘘が吐けない性格なのか最終的には説明をしだした。


 「協会に確認したら依頼は依頼だから奉仕するまで帰ってくるなと言われて…その行く所が無いという訳です。」

 「けど実家があるんだろ?そこに匿ってもらえれば…。」

 「実は私、孤児院育ちなんです。月美家に拾われたお陰でここまで成長出来たんです。迷惑なんて掛けられません。」

 「っ!…そうか。」


 二人の間を沈黙が支配する。

 優作は少し前に言った言葉を後悔しながら何かを言おうとするが、その前に桜が立ち上がる。


 「ごめんなさいこんな話をして。それにここにいたら邪魔ですよね。」

 「…行くとこ無いんだろ?」

 「何とかなります。では浜川さん、今度こそさような…クシュン!」


 桜のクシャミを聞いて優作はため息を吐きつつ、玄関を開ける。


 「そんな服で濡れたら風邪引くだろ?入りなよ。」

 「じ、じゃあ雨宿りだけ…。」

 「はぁ。家のメイドになるんだろ?それともずっと外から通うつもりなのか?」

 「い、いいんですか?その…お父様の事は。」


 桜がそう聞くと優作は頭を掻きながら諦めたように話す。


 「まあ確かに?思うところは多々あるけれどさ。泣いてる女の子を突き放すほど、冷血漢じゃないでな。」

 「あ、ありがとうございます!ご主人様!」

 「ご主人様は止めてくれない?何か背中が痒くなるから。」

 「じ、じゃあ優作様?」

 「まあそれでいいや。」

 「で、では改めて。バトルメイド協会により派遣された月美桜です!新米ですけど一生懸命尽くしますから、よろしくお願いしますね優作様!」


 こうして優作の日常はバトルメイドがいる日常に変わるのであった。



 「ところでさ、最初から気にはなってたんだけどさ。」

 「どうしましたか?優作様?」


 桜を家に入れてタオルで水気を取らせてている途中で優作は気になっていた事を聞く。


 「その腰にぶら下げてるのって…竹光か何か、だよね?」


 優作が指を指した先には日本刀のようなものがぶら下がっていた。


 「安心してください!本物ですよ!これでどんな脅威もバッサバッサと…。」

 「もしもしポリスメン?」

 「何で110番に直行なんですかー!?」

 「当たり前だ!俺は警察のお世話になりたくないんだよ!」

 「バトルメイドは世界中で武器の携帯が許されてます!」

 「そんなの聞いた事ねぇ!!」



 頑張れ優作、負けるな優作。

 君の求める普通は既にサヨナラをしているぞ。

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