第10話 遊びの約束

「やっとお昼だぁ」


 彩楓凜が家に来た次の日のお昼休み。


「おつかれ。はい、お弁当」


「ありがと!」


「それじゃ鍵取りに行こっか」


「ういさ!」


 職員室に屋上の鍵を借りに行くと、職員室から出てくる乃藍と天蓮に鉢合わせた。


「もしかしてもう貰ってきた?」


「ん」


 乃藍が手に持った鍵を見せてくる。


「早いなぁ……」


「また遅れちゃったか。ありがとね」


「気にするな。では共に参ろうぞ」


「「うん(!)」」


 雑談をしながら屋上へ向かい、テーブル付きの椅子にそれぞれ座る。


「今日のお弁当はなんだろな〜♪」


「簡単なものしか入れてないよ」


 今日はあまり時間がなかったため殆どが冷食で、まともに作ったのは卵焼きと唐揚げくらいしかない。


「どれどれ〜? おおー!……これが簡単なの?」


「え? そうだよ」


「はぇぇぇ」


「「いただきます(!)」」


 4人揃って食事の挨拶をし、それぞれの弁当を食べ始める。


「ふむふむ……この唐揚げは手作りだね!」


「正解」


「やった! あむっ……これは――」


 僕達は冷食か僕が作ったものかを当てるゲームをしながら弁当の中身を減らして

いく。


「イチゴいいなぁ……」


 そんなゲームをしている中で彩楓凜の視線が乃藍の弁当に釘付けになる。

 乃藍の弁当を視界に入れた彩楓凜は、その中に入っている大粒のイチゴに目が釘付けになる。


「食べる?」


「いいの!?」


「ん」


 乃藍はイチゴを緑のヘタの部分を持って彩楓凜の弁当に移す。


「やった!」


 彩楓凜はヘタを取った後、丸々一個を口に放り込む。


「めちゃあま!」


「でしょ」


「高級苺って感じ! これなら10個入り1000円でも買っちゃうね!」


「? 2000円」


「へ?」


「だから1個2000円」


「1個で!?」


 予想を超える値段に彩楓凜はあわわわわっと挙動不審になる。

 そんな値段のイチゴが平然と入っているなんて……乃藍の家は相当裕福なのかもしれない。


「な、何かお返しをしなきゃ……こ、これ! あ、あげるよ!」


 卵焼きを箸で持って恐る恐る乃藍に差し出す。


「あり」


 彩楓凜は乃藍が卵焼きを食べる一部始終を「ああっ……」という声を漏らしながらじっと見つめる。

 もしかしたら楽しみに取って置いていた卵焼きだったのかもしれない。


「うま」


「そ、そりゃあ黎威くん特製だからね!」


 泣きそうになりながらも自慢する。

 卵焼き1つで大袈裟だと思うけど……。 そっと自分の卵焼きを彩楓凜の弁当箱に入れる。


「え!?……なんだぁ。2つあったのか〜」


 勘違いしてくれた彩楓凜は心底嬉しそうに卵焼きを頬張る。


「ごちそうさまでした!」


「ごち。本読んでくる。天蓮ボディーガードよろ」


「必要なのか?……余は別に良いが」


 2人は席を立って屋上から去ろうとする。

 あれ……何か忘れているような……。


「あっ、思い出した。2人ともちょっと待って」


「なに?」


「2人に話があるんだ」


「そうだった!」


「なんの話?」

 

「ほう?」


「昨日彩楓凜と考えたことなんだけど、今週末、僕の家に来ない?」

 

 僕は乃藍と天蓮に昨日彩楓凜と話したことを聞いてみる。


「いく」


「ふむ……秀外恵中の黎威が統べる居城か。果たして如何程の一驚なる修羅が待ち受けているのだろうか。俄然興味が湧く。故に余も出向こう」

 

 すると乃藍と天蓮はすぐに賛成の意を示してくれた。


「「やった(!)」」


 喜びの声が彩楓凜と重なる。


「時間とかは後で連絡するね……って2人とはまだリヤン交換してなかったか」


「してない」


「はーい!」


「リヤンとは何だ?」


 三者三様の返事が返ってきた。

 天蓮はリヤンのことを知らないみたいだ。


「リヤンっていうのはメールアプリのことだよ」


 最近認知されてきたアプリだから知らなくても無理はない。

 僕と彩楓凜も去年知ったばかりだ。


「ふむ……これか?」


 天蓮がスマホでアプリを検索したらしく、黄色いマリーゴールドが描かれたアイコンを見せてくる。


「うん。それだよ」


「承知した」


 確認が取れた天蓮はすぐにインストールしてくれる。


「それじゃあ開いてここのボタンを押したら――」


 僕はフレンド追加のやり方と、グループチャットの入り方を説明する。


「「「できたー(できたぞ)」」」


「あとはグループチャットの名前だね。何かいい案はある?」


「はい!」


「はい彩楓凜。どうぞ」


「うん! 仲良しグループ!」


「シンプルでいいね。候補1だね」


「仲良し四天王とかは!?」

 

 彩楓凜は『仲良し』を入れたいのか。


「それは候補2にしよっか。乃藍と天蓮は?」


「NDSG」


 乃藍が淡々と言う。


「NDSG? それはなにかの略称だったりする?」


「乃藍大好きグループ」


 乃藍がドヤ顔で言う。


「嫌いなわけではないけど……却下で」


「そんな……」


 乃藍は却下された途端、愕然とした表情を浮かべて脱力するようにテーブルに顔を伏せた。

 ボケじゃなかったんだ……悪いことをしてしまったな。


「皆の名頭を取って黎彩乃天というのはどうだ?」


 天蓮が顎に手を当てながら案を出す。


「おお、かっこいいね。僕はこれで良いかな」


「ちょ! 黎威くんも案出してよ!」

 

 僕だけ考えていないと彩楓凜がむすーっと拗ねた顔をする。

 名前を考えるのは苦手だから上手く逸らすつもりだったけどバレちゃったか。


「……分かったよ」


 そうだなぁ……乃藍の案みたいな略称と、天蓮の言った頭文字を取った案。

 この2つを組み合わせて作ることなら僕でも出来そうだ。


「みんなのスペルから……RANA。ラナとか?」


 自信が無いため不安になりながらも「割と覚えやすいと思うけど……」と3人に恐る恐る問う。


「呼びやすい!」


「決まり」


「実に良いな。余の中に眠る豺虎も昂ってるぞ」


「良かったよ」


 3人とも賛成してくれたのでホッと胸を撫で下ろす。


「これで登録完了っと。そろそろ昼休み終わっちゃうから、後はラナで話そっか」


「はーい!」


「ん」


「心得た」



✧ ✧ ✧ ✧ ✧ ✧



更新が遅れてしまい大変申し訳ございません。m(_ _)m

テスト明けで倒れてました。

初めての投稿でスムーズに出来ていなく、今後とも更新が途絶えることがあるかもしれませんが、長い目で見ていただけると嬉しいです。



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