第40話

「誰だ!」


 白い装束の集団の一人がそう叫ぶのと、ソリバが何をしている、と問うのが同時だった。ラニはソリバの姿を見るや否や、掴まれた腕をねじりながら、助けてと叫ぶ。


「こいつら、止めてよ! 僕は無実だよ!」


 その叫び声は、年齢相応の恐怖心を露わにしていた。


 しかし、それを妨げるように、白い装束のひときわ豪華な衣装をまとった者が前に出てくる。


 装束は聖職者のそれのように長く重々しく、シミ一つとしてない真っ白であった。首元まで隠れる装束に加え、両手には手袋をはめており、顔面は無表情の仮面で覆っている。長く垂れ下がった帽子は髪の毛の一本すらも隠し通しており、露出するところがまったくない。


「静まれよ。貴君らは何者か?」


 ソリバよりも背の高いその者の声は低く、どこか威圧感があった。仮面で表情はうかがえないものの、恐らくその下も、同じように無表情なのであろうと予想される。落ち着きのある所作であり、気品ある態度は、およそこのドワネスフの人間ではないことがうかがえた。


「俺たちは旅の者だ。その子とは知り合いなのだが、一体何の騒ぎだというんだ」


 ソリバの言葉は端的で冷静であったが、ピンと張った警戒心がにじみ出ている。仮面の者は軽く頷き、今にも武器を取りそうな装束の男たちを手で制する。ラニを取り押さえた者だけは未だ腕に力を入れていた。


「旅の方々よ、落ち着きなさい。我々は『涙』。ここら一帯の治安を守る者だ」


 仮面の中でくぐもった声がそう答える。後ろの方で腕を組んで見ていたディジャールは、「へえ?」と怪訝そうな相槌をした。


「最近は勢力が拡大していたって話だけど、ここまでとはね」


 そう言うディジャールは疑わし気な態度である。


「でも、高尚な団体様の『涙』が、一体その子に何の用なの?」


「この子供は治安を乱している。よって本部まで同行してもらう」


 仮面の者が淡々と答える。しかし、その言葉に被せるようにラニが叫んだ。


「嘘だよ! 僕は治安を乱してなんていないし……」



 言葉を言い切る前に、ラニを取り押さえていた男が、布のようなもので彼の口元を抑えた。男の拘束から逃れようとラニは暴れて抵抗していたが、数秒もしないうちに目を回して、ガックリと力を落としてしまう。気絶してしまったようだった。


「薬品ねぇ……たかが子供に」


「納得がいかない。その子が治安を乱す? 何を根拠に言っている」


 ソリバは剣を構え、出入り口を塞ぐような形で立った。仮面の者はそれでも何の素振りも見せず、ただの白い塔のように突っ立っているばかりである。



「どういたしますか?」



 装束の集団が仮面の者に口々に尋ねる。見る限り、仮面の者がこの集団をまとめているらしい。


 仮面の者はしばらく黙り込み、ゆっくりとソリバたちを眺めてから、ため息交じりに呟いた。


「……行きましょう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る