第38話

 やはり個人的な手紙は控えるべきだっただろうか、と、もう薄く赤みがかっている地平線を見てソリバは思った。


 そこは宿屋の中庭に当たるところだった。庭には頑丈な柵で囲われた家畜小屋と、集団でまとまって丸くなっている伝書鳩の鳥かごが複数かけられている。籠にはそれぞれ往復先が記されており、その中にいる鳩は、その目的地に行って帰ってこれるように調教されたのであろう。


 そのたくさんの籠のなかに、クリミズイ王国 王宮行きと書かれたものがあった。ソリバはその中から一番綺麗な鳩を選び出し、足に手紙を括り付けて飛ばす。


 彼の腕に押されるようにして飛び立った伝書鳩は、最初に少しふらついた後、風を掴んだように真っすぐに飛んで行った。小さくなっていく綺麗な翼が、まだ生まれたばかりの朝日に照らされて白く輝いていた。彼はその後ろ姿を、見送ることしかできない。そのピンク色の足には、彼の書いた手紙が二通取り付けられている。





 部屋に戻ると、もうすでにアフラムは起きていたようで、荷物だけが取り残されている状態だった。また朝の散歩にでも行っているのだろうと思い、空洞になった部屋の中で彼は自らの荷物をまさぐった。


 衣服の入れておいた袋の一番奥に、その兵器がしっかりと居座っている。触ったときの金属感と、妙に重量のある感覚が、昨夜とまったく同じであった。




 気付かれていない。そのことに彼はひとまず安堵し、音を立てないようにして、その兵器を元の位置に戻す。




 しかし、いつまでも隠し通すことは出来ない。目ざといディジャールのことだ、すぐに荷物の違和感に気が付いて何かしらのカマをかけてくるに違いなかった。



 (……それでも、実践で使える銃はこの一つだけ。これがこちらの手にある限り、抵抗は可能だ)



 ソリバは首を振り、その胸中に流れる汗をぬぐう。不思議とどこか浮ついたような心情になるが、隣の部屋の物音を聞いた途端、そのことを忘れようと、急いで立ち上がった。

 

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