第21話

 しかし、その気迫を目の前にしても、未だディジャールは呆れたような笑いを見せている。


「何で王女が出しゃばるかねェ……。だから、貴方には関係ないと言っているじゃありませんか。分からないかなぁ、私たちはバナ王に要求しているのですよ、ねえ」


「交渉は決裂ということですか」


「……」


 王女の毅然とした態度に、ディジャールは舌打ちを漏らす。ちらりとアフラムの方に目線を向けるが、アフラムはそれを無視した。


「バナ王、貴方が返事をしないせいで、王女がしゃしゃり出てきてしまったではありませんか。結局、貴方はどうするのです?」


「応えなくても良いですわ、お父様! ここは私が……」


「はぁ、何故そうなるのです?」


「この国の王を、私が守らないでどうするのですか」





 ティフルがそう言い切らないうちに、大きな白い影がバナ王の方へ伸びた。凄まじい速さで視線の上を横切るそれは、今まで黙っていた人骨の右腕のようである。


 それは真っすぐにバナ王の方へ向かっていく。先ほどの衛兵隊長の無惨な姿がソリバの脳裏を横切った。横切ると同時に、気づけば彼は走り出していた。


 鋼がぶつかる音が響く。バナ王の周囲に取り巻いていた人々は悲鳴を上げて遠ざかり、ざわめきが広がっていく。


 ソリバの剣が、人骨の手を受け止めていた。両手に全身の力を込めて耐えるも、その重量は比類ないものである。ギチギチと嫌な音が、人骨と剣の間から発せられる。ソリバはその一瞬で滝のような汗を流していた。


「邪魔が入ったねぇ」


 そう茶化すディジャールに、アフラムは見向きもしない。目を見開き、殺意を具現化したような表情で一心にバナ王の方を見入る。それと同時に、人骨に込められた重量が増した。


「ソリバ!」


 ティフルが叫ぶも、応える余裕はない。地面に押しつぶされそうになりながら、とうとうソリバは片膝をついた。


 巨大な骨が間近に迫っている。生き物とは思えない非現実的なものが目の前に寄ってきている。その薄気味悪さに半ばパニックになりながら、ただ剣が折れないことを願っていた。人骨の指先が、もうバナ王の眼と鼻の先にあった。



「まあこうなるとは思っていたけどさ。……で、次はどうしようか」


「黙っていろ」


 アフラムの低い怒声が漏れる。悪鬼のような、憎しみに満ちたその顔が、彼の荒んだどす黒い心のうちを露わにしていた。はいはい、とディジャールは呆れたように返す。人骨の手は、もう地面に付きそうになっていた。

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