第10話

 イファニオン人の血を引く者のみが使うことが出来る、非科学的に自然を超えた現象。それを人々は魔法と呼んだ。


 魔法についての研究は各地で行われているものの、それに内包される多くの謎についての明確な回答は、未だ発表されていなかった。


 しかも当のイファニオンという国は、魔法についての情報を極端に秘密にしている。それは国の神に関わることであり、軽々しく公開していいような情報ではないのだという主張である。


 しかし解明していることもあった。


 例えば、魔法を使用する際には、術者に様々な条件が課せられる。魔法とは言わば、創造神への冒涜であった。創造神が定めた自然という法律を犯し、私利私欲のために世界の一部を捻じ曲げる行為である。よって魔法を使用する場合には、術者の命が削り取られる。


 一般的に寿命と呼ばれるものである。術者はその魔法を使用する際、自身の寿命を対価にしなければならなかった。先ほどディジャールが言った「コスト」というのはそのことだった。


 そして、創造神を冒涜したものは、罪を負う。魔法を使用した瞬間に、術者は犯罪者として世界から見放されるのだ。人間として生きる上で与えられた自由を奪われる。


 それは自殺の自由。魔法使いは自殺が出来ない。寿命が完全に底をつくまでは、たとえ致命傷を負ったとしても死ぬことが許されなかった。さらに、魔法使いは死に至るまでの苦しみが一般人よりも深く刻まれるようになっている。傷を負えば倍の痛みを感じ、病に侵されれば、その苦しみは骨の髄にまで至るのだった。


 大抵の魔法使いと呼ばれる者たちは、与えられた苦痛を忘れないという。


 故に、アフラムがあの地の底に収容されていた時に得た苦しみは、想像を絶するものであった。

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