第17話 復縁

 めちゃくちゃ、疲れている。


 なのに、カラダはすこぶる軽い。


 しかも、めちゃ火照っている。


 けど、身を焦がすような熱じゃない。


 ちゃんと、優しく、温かい。


「ハァ、ハァ……久しぶりのいっくん……すごかった」


「ごめんなさい、興奮がおさえきれなくって……久々の悠奈はるなさんに……」


「……良いのよ、嬉しい」


「悠奈さん……」


 俺たちはキスをする。


 別れていた期間は、そんなに長くない。


 でも俺にとっては、それはまるで永遠の絶望のような時間で。


 ああ、俺はもう、この女性ひとがいないと生きていけないんだって。


 情けなくも、強くそう実感したんだ。


「……ねえ、いっくん」


「何ですか?」


「その、出来ればなんだけど……もう1回だけ」


「えっ……むしろ、良いんですか?」


「うん、だって今日は……私をメチャクチャにしてくれるんでしょ?」


「は……悠奈さん!」


「きゃっ」


「好きです、大好きです、愛しています!」


「あんっ、私もいっくんが好き、大好き、愛している!」


 お互い、再びオスメスとなり。


 交わって――


「――たっだいま~!」


 ビクッ!!とお互いに盛大にビビッた。


「えっ、うそ、もう母さんたち帰って来た!」


「へっ!? ど、どど、どうしましょう……」


「と、とりあえず、着替えましょう!」


 俺たちはササッと着替えをする。


「おーい、一平ぇ~? いないの~? ああ、そういえば、美帆ちゃんとデートだっけ~?」


「でも、くつはあったよ。あと、女性モノのくつも」


「まさか、美帆ちゃんを連れ込んで……ふぅ~、やるわねぇ~!」


 あの、エロBBAはマジで……


「悠奈さん、俺が時間を稼いでおくんで、落ち着いて着替えて下さい」


 先に着替え終えた俺が言う。


「あ、ありがとう」


 俺はサッと部屋から出る。


 ゴクリ、と息を呑み、意を決して両親の下へ向かう。


「お、おかえりなさい」


「おっ、エロ息子、ただいま」


 うるせーよ、エロBBA


「エ、エロ息子って、何の話だよ」


「だって、今まで美帆ちゃんと……ねっ?」


「いや、違うから。美帆は……あっ、やべっ」


「んっ、どした?」


「あ、いや、何でも……」


「そんな隠すようなことじゃないよ。ほら、美帆ちゃんも出ておいで~!」


「か、母さん、そんな大きな声を出さないで……」


 トッ、トッ、とゆっくり足音が近付いて来る。


「……お、お邪魔しています」


「えっ……ハルちゃん?」


 さすがの母さんも目をパチクリとさせている。


 これは、もしや、俺たちの関係がバレて……


「……なるほど、一平。あんた、美人母娘を良いようにしちゃって」


「へっ?」


「美帆ちゃんとおせっせして、その後始末を母親であるハルちゃんにさせるなんて……この鬼畜め☆」


「ふざけんな、クソBBA、俺は悠奈さん一筋だ」


 普段は決して言わない、言えない暴言を吐いてしまう。


 直後、俺はハッと口を押さえた。


「あ、いや、その……」


 色々とまずい発言に、サッと血の気が引いて行く。


 今度こそ、終わった。


「……前から思っていたんだけどさ」


 万事休すか。


「ハルちゃん、うちの家政婦にならない?」


「へっ?」


 今度は、悠奈さんが目をパチクリとさせる。


「前から思っていたんだけど、ハルちゃんほどの逸材が、安い給料でパートしているのがもったいないって思っていてさ~」


「そ、そんなことは……」


「じゃあ、今の給料の3倍……いや、5倍出すよ」


「えっ……」


「どう? 悪い話じゃないと思うけど」


「か、母さん、いきなり何を言っているんだよ」


「あら、一平は反対なの? あんたも、ハルちゃんが家政婦になってくれたら、ハッピーでしょ?」


「そ、それは……」


 俺は悠奈さんの顔を見て、想像してしまう。


『おかえりなさいませ、ご主人さま』


 ……か、可愛すぎる。


 って、それは違うだろ、バカ!


「ま、まあ、正直なところ、母さんは仕事で忙しいし、男じゃちょっと家事はガサツだし……」


「そうそう。ハウスキーパー雇っても良いけど、このご時世、どんな裏切りに遭うか分からないじゃん? だったら、ハルちゃんが良いなって」


「…………」


「ハルちゃん、ちょっと前向きに検討してみてくれる?」


 母さんがニコッとして言う。


 悠奈さんは悩むそぶりを見せながら、チラと俺を見る。


 俺はゴクリと息を呑み、それからゆっくりと、頷く。


 すると、悠奈さんは、わずかに微笑んだ。


「……分かりました。ありがたいお誘いに感謝します」


「もう、やだ。友達同士でそんな堅苦しいのはナシ、ねっ?」


「ええ……ありがとう、彩乃あやのさん」


 微笑む悠奈さんを見ていると、俺は何だかドキドキが止まらない。







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