第12話

 幸いドローンは動いているし、コメントも続いていることを見るにまだ配信圏外じゃないってことだ。ここはどこだ? 本当に地下444階なんてありえるの?


『地下、地上ともに100階までって聞いたけど......?』


1人呟きながら、『B444』と書かれた扉の先を歩いて行っていた。そこは、どこかダンジョンと言うよりも研究施設のようで映画やアニメで出るような培養カプセルが並んでいた。しばらく歩いていると、コツコツコツコツという音が聞こえ始める。


『え、なに??』


突然、施設内が霧にまみれていく。すると、その霧の先で光が見えた。その光は、人の目や口が浮かび上がっているようにも見えた。


『もしかして、これが......』


警戒して短剣を持っていると、急に目の前に馬が出てきた。馬は、私を見るなり啼きだした。すると、その馬の持ち主である人物が声をかけてきた。


『汝、探索者なりや?』


『え、ええ。もしかして、ジャック・オ・ランタン?』


そう言うと、ジャック・オ・ランタンが霧の中から現れた。彼は馬から降りて、私に剣を向ける。


『いかにも......。では、我と果し合いを!』


『タイマンってことね......。嫌いじゃないわよ?』


私は短剣を取り出し、その短い剣先でジャック・オ・ランタンの禍々しく光る剣をなでながら彼の黒い鎧に突き刺す。


『さらに強固に! スティール・ブロー!!』


剣にバフをかけて、より強固に頑丈にそして鎧をも突き抜けるほどに魔力を込める。

ジャック・オ・ランタンはそれを意図も容易く防御魔法で身を守る。


『今度はこちらから行くぞ! 我が剣に散るがよい! 百戦練魔・断罪の舞!』


ジャック・オ・ランタンは即座に私の短剣を跳ね飛ばし、フェンシングのように細長い剣を素早い動きで上下に私を追いかける。私は土属性の魔法でなんとか防御を挟むのがやっとだった。コメントも聞く暇もない......。


『鬱陶しいわね! アイス・エイジ!』


私はしびれをきらせ、ジャック・オ・ランタンの足元を凍り付かせ身体の自由を奪っていく。そしてそのまま間髪入れずに彼の頭の部分に、魔法を直接浴びせる。


『ツタよ、伸びろ! アイビー・グロウ!』


手の甲に浮き上がった魔法陣から、茨の付いたツタがジャック・オ・ランタンの空洞な体へ侵入していくのが伝わってくる。内部から侵入して、その元を絶つ!


「う、うがあああああ!!」


ジャック・オ・ランタンの頭部から見たことのない光が漏れ出し、ついに彼は消失していった。さらに馬も、霧と共に消えていった。残ったのは、彼を討伐した証となるアイテム一式だった。


『これが、ジャック・オ・ランタンね......』


¥10,000【元冒険者】『うおおおおおお! すげえええ! やっぱ、姐さん強ええ!』


¥5,000【袋】『やったぜ!!』


¥4,000【酒バンバスピス】『さすがは姐さん!!』


『さて、アイテムも手に入れたしどうやって帰ろっかな』


『待てよ、ババア......。それは、オレんだ』


振り返ると、そこには意識を失って倒れていたつっぱり源次郎が、扉に寄りかかってこっちを睨みつけて立っていた。


『あんた、しつこいわね。モテないぜぇ?』


『うるせえ!! 手に入れ方なんて関係ねえ! お前を倒して、俺が伝説になってやる!!』


そう言うと、つっぱり源次郎はどこからともなくボウガンを取り出してきた。あれって、めちゃくちゃレアリティ高くて値が張る武器じゃん!? こっちに向けんなよ!! 彼が引き金を引くギリギリのタイミングで、私はこれまで以上の俊敏さで解き放たれた矢を避ける。今まで気づいてなかったけど、こんなに早く動けたっけ?


『おりゃっ!!』


私は、ハイキックで彼のボウガンを弾き飛ばした後、そのままかかと落としで彼の首元を落とす。


『ぐわっ!』


瞬間、彼はまたも気を失って倒れてしまう。私は、ふうと息を整えた後に出口を探した。


『あった。エレベーター!』


【staff only】と書かれた看板など気にせず、私はエレベーターの上のボタンを押した。エレベーターは静かにここに来て、私はそのまま地下10階まで戻った。


『長かった......』


地下10階に着いてエレベーターが開いた瞬間、私の背中からゾゾゾッとした悪寒が走る。その直後、痛みと共に寒気が一気に増していく。背中を触ると、血が手にがっつりついていた......。


『な、なんじゃこりゃあ』


「......」


薄れゆく意識の中、つっぱり源次郎がなにか言って去っていった。クソっ、アイテムも奪われた!


‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐

 エレベーターで私が倒れた瞬間、誰かに抱えられていった気がする。でも、誰かはわからない。頭痛が起こる中、キンと通る声が私を襲いだす。


「......! あんた、しっかりしなさいよ!!」


「だ、誰??」


じわじわと回復してきたのか、意識がはっきりしてくる。ぼやッとした世界で、私を介抱してくれているであろう人が声をかけてくれているみたいだ。


「うちだよ......。 れもん、かんきつ女子の......」


「れもん? ああ、ありがとう」


「前に助けてくれたんだし、これで貸し借りなしだからね......」


ようやく目の前がはっきりとして来たと思うと、私は舞台の上で座らされていた。しかも、そこにはかつて助けたアイドルが......。なに、この状況。


「で、なにこの状況」


「いいからさっさと立ちなさいよ。 悔しいけど、あんたがイベント制覇した初の配信探索者なんだから」


ジャック・オ・ランタンを倒したのは確かに事実だけど、アイテムはつっぱり源次郎に奪われたんじゃないの? 状況がまだ読めない。


「うん? 何がどうなってるの?」


回復の魔法で介抱してくれたれもんは、バツが悪そうに私の手を取り無理やり立たせた。さらに、彼女と入れ替わるように運営スタッフが笑顔で私を見つめる。


「ダンジョンビキニアーマー配信無双様、おめでとうございます。イベント制覇です!」


「うん、ありがとう? でも、どうして」


「さきほど、つっぱり源次郎様がこられてアイテムを持ってこられたのですが......。一部始終を見ていた視聴者の方や配信者が彼を追求したのです。我々は公正に判断し、あなたがイベントにふさわしいということでこうやって舞台に立ってもらっているのです」


配信しててよかった......。いや、そこは源次郎を追い込んだ勇気ある視聴者や同業者を褒めるべきか。ほんと、感謝しかないわ......。


「......その、つっぱり源次郎は?」


運営スタッフの一人に顔を向けると、彼女は少し神妙な面持ちで顔をそむけた。


「俺にも見る権利はあるだろ!! 離せ! 人権侵害だぞ!!」


「即刻この場から立ち去りなさい! 警告は3度もしませんよ!」


奥の方で罵声を浴びせるつっぱり源次郎と、対応に困っているスタッフが言い争っていた。そして、つっぱり源次郎は私が見つけた途端私に視線を映した。


「お前! このままで済むと思うなよ!! お前のこと、絶対にy」


言いかけた途端、言い争いでもみくちゃになっていたスタッフとは別の屈強な男性スタッフが、彼の背丈と同じくらいの魔法の杖を使って地面を叩いた。すると、突っ張り源次郎は一瞬にして消えた。


「今しがた、彼は追放処置としました。もう二度とダンジョンの敷居をまたぐことはないでしょう......。ダンジョンビキニアーマー配信無双様、そして皆さまどうかご安心ください」


運営は私たちに深々とお辞儀をした。そのままイベントは何もなかったかのように進行して、景品一式が私に贈呈された。イベント景品は、結局お菓子ばっかりだったけど討伐報酬として私はジャック・オ・ランタン型のランプをもらった。贈呈式が終わり、私達は現地解散となった。


「そういや、私が瀕死になっちゃってドローンが配信停止のままだったっけ?」


私は1階まで戻ってダンジョンを退室した。このまま終わっちゃうのも味気ないし、ハロウィン限定衣装を買ってそのまま着用して配信を仕切り直した。


『いろいろあったけど、チャイナドレス風キョンシーのかわいい私で許してよ』


どスケベサキュバスは無かったけど、胸元の開いたチャイナドレスとキョンシー風のお札があったので今それを着ている。コメントたちは私の元気な姿に安堵の声とチャイナドレス衣装に歓喜の声がいっぱいだった。


¥10,000【ドエロ将軍】『鼻血でそう』

¥5,000【酒バンバスピス】『今日も酒がうまい代』

¥500【元冒険者】『イベント制覇おめ』


『みんな、ありがとうね。今日は、みんなのおかげでイベント制覇できたよ』


【袋】『ま、俺らのおかげってわけ』

【ぐわんぐわん】『今日も楽しかった。出会いに感謝』

【ふぉろー】『それにしても、あの地下444階ってなんだったんだ?』


『わかんない。でも、イベント用のフロアじゃない? 雰囲気全然あってなかったけど』


コメントに来てくれた人たちと一緒に首をかしげても、答えが降ってくるわけでもない。短いながらも改めて立てた配信枠を閉じ、家路に向かうのだった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る