第11話

 地下10階でのハロウィンイベント、開催から多分1時間くらいが経過した。数千もいる案内役であるウィル・オ・ウィスプたちに悪戦苦闘する私を含めた配信者たちだけど、まだだれもたどり着いてないのかしら......。


『みんな、なんか情報ない?』


ここまで、私は10体ほどウィスプに遭遇したがそのどれもジャック・オ・ランタンにたどり着くことはできなかった。たいていは戦闘に巻き込まれる状態だ。埒もあかないし、コメント欄の子たちの手も借りるくらいしないと進まない......。


【元冒険者】『他の人たちもかなり苦戦してるっぽい』

【ドエロ将軍】『結構難易度高いイベントだな......。これが初回?』

【袋】『だけど、簡単すぎるのもいかがなもんかと......。配信向きな気がする』

【つっぱり源次郎】『今配信中なんですけど、面白いもの見つけました!! 会えませんか?』


コメント欄を聞いていると、一人気になる人がいた。どうやら同業者らしい。

さて、この話に乗るか? いや、今は疑ってる暇もない。聞いてみよう。


『つっぱり源次郎さん、了解です! 一旦、エレベーター付近で落ち合いましょう! ビキニアーマー着てるんでわかりますよね?』


コメントにはもう現れてこなかったが、聞こえていることを願おう。エレベーター付近に向かうと、一人キョロキョロしている男性がいた。あの人が、もしかして......。


『もしかして、つっぱり源次郎さん?』


『あ、ビキニアーマー配信無双さんですね! お噂はかねがね聞いています! じゃあ、早速ですけど僕についてきてもらえますか?』


『いいけど、ノーリスクで情報提供?』


そういうと、源次郎さんは急に返事をしなくなった。ただ、彼は歩く一方だ。あれ、聞こえなかったのかな? 少し歩幅の広い彼に小走りで着いていきながら、私たちは地下10階の端まできた。


『それで、どんな面白いものが?』


『さっき、1体のウィル・オ・ウィスプから聞いたんです。ここの壁のどこかに隠し扉があるって』


『隠し扉......。いかにも、いそうな場所ですね』


なるほど、それを探すのを手伝ってほしいというわけか......。ここは地道な絵面になるけど、耐え忍んで挑むしかない。私と源次郎さんは無言で、ダンジョンの壁に障り始めた。ただ、一つ思ったのは壁の向こうは外に繋がっているだけじゃないのかと......。


『ねえ、ほんとにここにあるって言ってたのよね?』


『ええ。間違いないです』


『他にヒントはないの? たとえば、扉を開くためのボタンとか』


『だから、それを探してるんでしょ?』


たしかにそうだけど......。私は少し疲れもあって、源次郎さんに当たりそうになったが唾を飲み込む仕草をして抑え込んだ。それからしばらくして、壁を触っているとちょっとしたくぼみを見つけた。それはどことなく、丸みを帯びていた。


『ねえ、これじゃない?』


私はのんきに源次郎さんを呼びつけた。すると、彼は目の色を変えてすっとんできた。さらには、私の身体を押しのけてきた。


『ちょ、ちょっと!!』


『へへっ......。これでイベント初クリアの称号はオレのもんだぜ! あんがとな、ババア!』


そういうと、彼はその丸みに添って押してみせた。すると、長方形の扉型に壁に線が入っていって扉が開いた。


『別にあんたの後ろをついて行けばいい話だし......』


『させると思ってんのかよ!』


源次郎はそう言うとすぐに背中に背負っていた大剣を私に向けた。私は腰に付けた短剣を取り出すも、彼はただそれを見てあざ笑うだけ......。


『ここで争っても意味ないわよ! ここが本物かどうかわからないし!!』


『ここしかねえんだよ! 他のモンスターどもは「ついてきて」って言ったがそいつだけは「あっちだよ」と言った。これは大きな違いだと思わねえか?』


源次郎はゆっくりと剣を私の首元に近づけ、皮一枚傷つける。

私はそんなことも動じずに、源次郎の目を見る。


『根拠が薄すぎるわ』


『うるせえ! クソザコ装備のくせによお! そんな短剣、お前の身体ごとぶった切ってやるよ!』


再び、彼は剣を振り上げて私の脳天向けて振り下ろそうとする。だが、私は右に転がり避けて、腕を伸ばして彼の足を短剣の刃で傷つける。


『ぐわっ!!』


『そんな大物振ってるから悪いのよ』


源次郎がよろけてドアと反対方向へよろけ始めた。今がチャンスだ!

私は、そのドアをくぐりぬけようとした。だが、それも読まれていたのか源次郎が歯を食いしばりながら私の足を掴んできた。その瞬間、足元を滑らせてしまう。ハッとして私は、急いでドアが示す先を見た。するとそこは滑り台のようになっていて、そのまま私たちは下へ下へと落ちていく。


『ああああああ!? きゃああああ!!』


私のドローンは私を追いかけてきている。この醜態もパソコンに食いついてみている私のファンたちが見ているのだろうか......。しばらく滑り台が続き、ようやく終了地点が出てきた。


『また、ドア......?』


意識を失って伸びてる源次郎を放っておき、私は滑り台の先にあったドアへ近づいた。そこには『B444』と書かれていた。まさか、地下444階? そんなことあるわけがない。でも、ここにジャック・オ・ランタンがいる可能性が高いかも! 


『入ってみるしかない......わね』


私が触れると、その鉄でできた扉がゆっくりと開いた......。







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