感謝を込めて 2

リノア

「魔王様、来客です。」


「誰だ?」


「先代魔王です。」


「は~、わかった。通してくれ。」

嫌な予感しかしないな。


「承知しました。」



しばらくすると、

「サイトー、久しぶりだな!」


笑顔で話しかけてくる女性。

見た目年齢は30代前半。

長い髪を雑に後ろで縛っており、顔もノーメイク。

服装は、畑仕事の作業着という感じ。


先代魔王、八木いずみ。

俺が魔王になる前に魔王をやっていた人だ。


「どうしたんですか?

先代が魔王城に来るなんて珍しい。」


「ハッハッハッ~、

ちょっと困ったことがあつてね。

サイトーの力を借りたいんだよ。」


嫌な予感しかしない、、、


「お断りします。

俺は忙しいんです。」


「え~~~、

そう言わずに話ぐらい聞こうよ。

サイトーは先代への感謝とリスペクトが足りないよ。」


「感謝もリスペクトするところもほぼ無いです。

だいたい、先代がしっかりしてたら、俺が魔王として呼ばれることもなかったんですよ。」


「つまり!

魔王になれたのは私のおかげってことでしょ。」


「『あなたのおかげ』、

じゃなくて、

『あなたのせい』です。」


「サイトー、最近付き合い悪いぞ。

とにかく話は聞いて損は無い。

と言うか、聞かないと取り返しがつかんことになるぞ!」


「・・・なんか、やらかしたんですね?」


「・・・まあ、科学の発展にトラブルは付き物だな。」



先代魔王、八木いずみ。

元々研究者だったらしい。

どこかの大学の農学部で品種改良などを研究していたところ、魔王として召喚された。


そして、、、歓喜した。

この世界は元の世界と異なる生物が山のようにいる。

植物も似ている物が多いが違う。

八木いずみは研究バカなのだ。


異世界で植物の研究に明け暮れた。

そう、魔王の仕事など一切せずに。。。


そして、退任をさせられたのだ。

その後、俺の保護の下、生産性向上のための品種改良の研究に専念してもらっている。


彼女の作った小麦や芋などは同じ作付面積でも、飛躍的に生産量が上がった。

現在、俺の指示でゴブリンやコボルト等に農業をさせているが、その指導なども彼女に行ってもらっている。


魔界の食糧安定には一役買ってくれているのは間違いない。

なので、無碍にするつもりは無いが。。。


彼女には常識が欠けている。

研究以外にほぼ興味が無い。

マッドサイエンティストになる素質満点。

たまたま植物の品種改良が研究テーマのため、人にはあまり迷惑はかからないだけだ。



そんな彼女が俺を頼ってきた。

嫌な予感しかしないね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る