音が消えた世界

Atto

プロローグ “音”が消えた世界

 僕の名前は「音也」


 普段僕は、空き時間があったら好きな曲を聴いて、自分の好きな作曲者さんのSNSは毎日チェックして、新曲が出たらすぐに聞きに行く。


 僕は何よりも音楽が好きだった。


 僕の中で音楽は僕の全てだった。


 とある日、僕は目が覚めて、階段を下った。


 その時、ふと違和感を感じた。


 「なぜ階段を下る音が聞こえないんだ?」

 普段なら確実に聞こえるはずだ。


 元々この家は古い作りのはずだし、階段を下る音は普段ならうるさいぐらい聞こえた音のはずだ。


 疑問を持ちながらひとまず、リビングに行ってみた。


 やはりおかしい、声以外の物音が何もかも聞こえない。

 

 どういうことだ?なぜ物音が聞こえない?耳がおかしくなったんだったら声も聞こえないはずだけど声は聞こえてる。


 嫌な予感がした。


 楽器の音が、これと同じように“物音”なら僕の好きな“音楽”もなくなっているのではないかと思ったからだ。


 恐る恐るスマホの好きな曲のあるプレイリストを見ようとした。

 

 ない、どこにもない、画面のどこを探しても、プレイリストが見つからない。


 僕は急いで部屋に戻った。

 

 ここにあったはずのCDも楽譜も何もかもが消えていた。

 

 そして僕は一つの結論に辿り着いた。


 楽器の音が“物音”として捉えられ、楽器の音がなくなったため、その楽器の音があることで出来上がった“曲”やその曲が入った“CD”その曲の“楽譜”が存在しなものとなった。


 要するに、音楽によって誕生したものは全て存在しなかったものとなり消えるということだ。


 僕は絶望した。


 僕の全てであった“音楽”が消えたのだから


 そして僕は理解した。


 今日からここは「“音”が消えた世界」だ。

 


 


 


 

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