デフォルト編

 暁の空に確かな光はない。雲がかった細い月の光は、桂川の水面までは届かない。水はあおぐろく、見知った川が得体のしれぬ様相をしていた。ちろちろと鳴るせせらぎは、どこか亡者の舌なめずりを思わせる。

 明智光秀は自身の手が小刻みに震えていることに気づいた。武者震いではなかった。怯えていた。戦を前に恐怖したのは、初陣のとき以来である。一転して危機に瀕した金ヶ崎の退き口のときでさえ、光秀は冷静であったというのに。

 桂川を渡って、洛中へと兵を進めれば、もう後には退けない。

 ひとり密かに企てた謀反である。重臣に打ち明けたのは、昨夜のことだ。漏れていようはずはない。それでも光秀の胸には一抹の不安が付きまとう。

 気づけば、東の空が薄紫色に染まり始めていた。それに急かされるように、光秀は手綱を取った。

 声が震えぬように、光秀はぐっと食いしばってから口を開いた。

「敵は本能寺にあり!」

 光秀は、主である織田信長を討つ決意を胸にゆっくりと渡渉をはじめた。


               * AI *


 信忠率いる織田軍は京へ入った。しかし、本能寺にはすでに明智勢が入り込んでいた。

 信忠には知らされていなかったが、信長が不在と知るや否や、本能寺の門番たちはその扉を開いてしまったのだ。

 明智勢の兵らは物音に気づいて飛び出してきたが、すでにそこは火の海であった。

 勢いよく燃えさかる炎を見て、明智軍の武将らが浮き足立った。

 そこへさらに鉄砲隊が押し寄せてきたものだからたまらない。

 明智勢の武将たちの多くは、ひとたまりともなく倒れていった。

 この奇襲により、明智勢は総崩れとなった。

 だが、信忠もまた無事では済まなかった。

 本能寺の門前で、激しい銃撃戦が繰り広げられたのである。

 信忠の側近衆の中には、銃弾を受けて負傷する者も多くいた。

 また、運悪く流れ弾に当たってしまう者も多かった。

 多くの者が命を落とした。

 それは、信長の嫡男にして後継者でもある信忠も同様だった。

「父上……」

 信忠は馬上で呟いて、力なく目を閉じた。

 こうして、本能寺の変は終わりを迎えた。

 織田信長の死とともに、戦国の世は終焉を迎えることとなった。

 天正十年六月二日早朝。

 安土城の一室で、一人の男が息を引き取った。

 その男こそ、天下統一を成し遂げた織田信長であった。享年五十七歳という若さである。



               ~ 感想 ~

 

 信長のいない本能寺を襲う明智勢。悲しいよ。

 気づけば、袋の鼠になってしまっているし。

 本能寺の変当日に信長死んだけど、本能寺でじゃないし、討ってないからタイトルの件は果たしてないよねぇ。次回のセリフ編に期待したい。

 ところで、天正十年六月二日は、まさに本能寺の変が起きた日なのだけど、信長の享年がずれてるのがちょっと気になる。


 AI明智光秀は本能寺で織田信長を討つつもりが息子の信忠を討ってしまいました。なお、信長は安土城にて静かに息を引き取った模様。

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