第32話 商業ギルドと帰り道

 冒険者ギルドを出た後、せっかく紹介状を用意して頂いたので、商業ギルドにも登録をさせてもらったけど、特に何か起こることもなく非常にスムーズに登録が完了した。

とゆーか、フラウ姫の紹介状を出した途端、受付から個室に案内され、審査することもなく登録された。

ギルド長も挨拶に出てくるし。俺みたいなどこの誰かも分からない若造にペコペコ頭を下げるなんて、フラウ姫の紹介状凄過ぎるのだけど…


なお、商業ギルトから受け取った登録プレートは、ベースが魔鋼で精巧なギルドの紋章が彫られていた。大きさは冒険者ギルドのプレートとほぼ同じで、吊り下げれる穴もあったので同様にチェーンに通したのだが、『そのままだとプレート同士が重なってカチャカチャ音が鳴るでしょう』と言って革のケースも付けてくれた。

…なんか総じて高級そうで気が引けるので、

『ホントに登録して頂いただけで十分ですので』

と断ったんだけど、

『いえ、かの姫様のご紹介とあれば、本当はまだまだ足りないところなのです。なにせ貴重なマジックポーチや保存箱などの魔道具を制作・供給できる数少ない方ですので。なかなかコンタクトを取るのも難しい方ですので、少なからず繋がりがあるカズマ様には、粗相そそうのないようにせめてこれぐらいはやらせて頂きたいのです。そうでないと私共も気が休まらないので是非お願いします!』

と押し切られてしまった。


フラウ姫の凄さは紹介状を出してからの商業ギルドの動きで分かってたけど…やっぱりマジックポーチ、めっちゃ貴重なものだった!……最大級のもの、貰ってしまったんだけど!?

心の中で叫んで、色々と申し訳ない気持ちで帰ろうとしたら、商業ギルド総出でお見送りをしようとギルド長が言い出したので、『目立ちたくないので!』と何とか止めてもらった。

…いやもうリュノは『カズマはそれぐらいの扱いを受けて当然』って言うけど、ただの大学生には心臓に悪いって



 そしてギルド長を説得したあと、お礼を言って個室から出てギルドの出入口に向かうと、転移してきた宿の看板娘(名前はコピアちゃん)が出入口の扉を開けて入ってきた。

でこっちを見たあと、俺たちだけに分かる角度で小さく手でバッテンを作っていた。


…?

意味が分からず不思議がっていると、それを見たリュノが

『カズマちょっと待って。トイレに行っておこう!』

目力めぢからをこめて言いながら信じられないくらい強い力でぐいぐい押してきたので、こけない様にドタバタしながら(リュノは気付いてないが、急なことで落ちそうになった朱里ちゃんが「ぬぁああぁぁ!危ない!」って叫んでいた笑)押される勢いそのままにトイレに向かった。


トイレに着くとリュノが

『ここだと全体の念話の範囲外だからしゃべって大丈夫ね…よし。カズマはトイレで防具を脱いで、マジックポーチに入れてきて!あとは私が認識阻害の魔法をかけるから!…そして私が小さくなってカズマの服の中に入ればオッケーね!』

と早口で言って、俺をトイレに押し込もうとした。


朱里ちゃんが、

「のえぇぇぇ!男子トイレに連れ込まれる!絶対リュノさん、私の存在忘れてる!!」

ってジタバタして…あ、やばい、俺のメイスに手を伸ばそうとしている!


『待て待て、朱里ちゃんいるし!というか、そもそも何が起こっているの?』

トイレに押し込まれそうとするリュノと、実力行使で思い出させようとする朱里ちゃんを阻止しつつ、理由を聞くと

『あーごめん…ちょっと焦ってた。多分どっかのバカが、フーリル族が現れたって噂を聞いて、探し回ってるのよ。この街でそんなことするのは余所者だと思うけど。…街中で絡まれて魔法をぶっぱしちゃうと周りに迷惑だし……毎回暴発するみたいな認識も改めたいし…』

とのことだった。

…認識されるたびに魔法ぶっぱにおちいっているのだろうか…


『あー、暴発魔ってそういうこと?毎回?』

『ま、毎回じゃないよ!!暴発魔は…まぁそれもあったり、クズな依頼人ごと吹っ飛ばしたこともあったり、ちょっと勢い余って仲間を巻き込んだりしたこともあったからかな?…てへっ』

『……』

『……えーっと(汗)』

『…まぁ状況は分かったから、とりあえず朱里ちゃんを降ろして防具外してくるよ』

『うん、ありがとう!待ってる!』


まず近くの床をコーティングした後、朱里ちゃんに降りてもらい、トイレで防具を外したり、再度朱里ちゃんを背負ったり、リュノが認識阻害の魔法をかけた後で小さくなって服に潜り込んだり、と準備を完了してからようやく商業ギルドから外に出た。



 ギルドの出入り口の外には、ギルドに出入りする者や近くを通る者をジロジロと注意深く見る者がいた。…おぉ、危ない危ない。コピアちゃんナイスだね。

不自然にならないようにやり過ごし、通りに出て、宿に向けて歩き始めた。…うむ、追ってこないし上手くいったようだ。


しばらく進むと通りの向こうから、キラキラゴテゴテした服を着た、明らかに貴族風の小太りの男が、キョロキョロしながら取り巻きを引き連れ歩いて来た。


『絶対あれじゃね?』

『ちょっとそこの屋台にでも行く振りをして、やり過ごして』

了解りょ


ちょうど近くにあった串焼きの屋台に向かって歩き始めると、後ろから肩を叩かれ、

『おい、君、ここら辺で羽の生えたフーリル族を見なかったか?』

と話しかけられた。


…マジか…こら朱里ちゃん、期待に満ちた目で「やる?やっちゃう?」って言いながらシャドーボクシングするんじゃない。


無視するわけにもいかず、(嘘つき判定とかあってバレると面倒だし注意しよう…と思いながら)振り向いて、

『フーリル族ですか?見てないですが、冒険者ギルドで見ましたよ』

と答えた。

すると、貴族風の小太り男は隣の取り巻きの男に何か確認しながら

『本当か!どんな感じだった?』

と聞いてきた…やっぱ嘘ついてたら危なかったんじゃないか?


『えーと、何をしようと考えてられるか分かりませんが、止めといた方が良いかと』

『何故だ!?』

『何かギルドに居た人達に“蒼の暴発魔”って呼ばれてましたので』

『暴発魔!?どんな奴だ?』

『さぁ、私も最近この街に来たところで詳しくないので…街の人に聞いてみたら分かるかもしれませんね』


そう言うと、小太り貴族と取り巻きは、向かおうとしていた串焼きの屋台や近くの店で聞き込みをしていた。…何か酷くびっくりしたり青ざめたりしてるな…どんな話だろ?…ん?身振り手振りを使って説明していた串焼きの店主がこっちを見たと思ったら、慌てて串焼きを小太りに渡して片付け始めたぞ?…あ、リュノが俺の服から出て睨んでるや…


そうこうしていると小太り達は戻ってきて(リュノは一瞬でちゃんと隠れてた)

『ありがとう!君のおかげで危ない目に遭わないで済んだ!これはお礼だ、受け取りたまえ!…まぁこれは串焼き屋が「噂してたら寒気がしたので罪滅ぼしにこの場の皆さんでお食べ下さい」と言って渡してきたものだがな!!何にせよ助かった!わはははは!』

と言って串焼きを渡して去って行った。


『……』

『…ぐぬぬぬっ』

『…なぁリュノ、凄い興味あるんだけど、俺も聞いてきて良いかな?』

『絶対駄目!』


さて暴発もなかったし、折角もらったので串焼き食べながら宿に向かいますか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る