第31話 冒険者ギルドへの登録

 ゴタゴタがある程度落ち着き、登録用の申請書にリュノに記載して貰っていると、そういえば受付に向かってから周りの話が聞こえるようになっていることに気付いた。

不思議に思ってリュノに聞くと、ギルド内には全体に念話が行き渡るように魔道具が設置されており、また受付には、その話し合うスペースだけを伝達範囲に設定できる念話の魔道具があるとのことだった。

おかげで俺もコミュニケーションできるし、プライバシーも守られるし便利だよなーと感心していると、

『でも念話ありきになってるから、みんな言語がバラバラのままだし、共通語の識字率も全然上がらないのよね。しかも周りに声が聞こえないものだから、フォルナ(キツネ耳の受付嬢の名前)なんてナンパされまくりでしょ?』

とリュノが言い、凜とした美人である受付嬢のフォルナさんは苦笑いしていた。

……さもありなん。


とりあえず受付スペースのみの念話を設定して貰い、登録内容の打合せを行った。


・・・・・

『はい、では登録内容を確認しますね。名前が“カズマ”、出身地と登録地は共にこの街ということで“ニレスト”、職業は“魔剣士”、消息の連絡先は“リュノと同じ”、ということで良いですか』

『はい、それでお願いします』

答えて頷くと、フォルナさんは上品に柔らかく微笑み、

『ではこの内容でプレートの作成を依頼してきますね』

と言って席を外した。

あ、ふわふわのキツネの様な尻尾が揺れている……はっ!横と後ろから視線を感じる…これは注目していると後からさんざん突っ込まれるヤツだ!!

…っやばい!何か目先を変える良い方法は!?


『あっ、リュノ、代筆ありがとう!』

…よしよし、我ながら無理なく上手くいったと胸をなで下ろしていると

『危うく間違えて登録されるところだったけどね』

とリュノが思い出して苦笑いしていた……そういえばリュノの書き間違いで、名前をカズマではなく、ってされそうになったんだった!…似てるとはいえ、酷過ぎない?わざとじゃないのが恐ろしい…リュノらしいけど。

出身地は色々と面倒そうなのでこの街ってことにしてもらった。…冒険者ギルドはやむにやまれず登録する人もいるので、犯罪歴がなければここらへんは融通が利くらしい。

職業の魔剣士は…変わったことをやっても何となく許されそうなジョブとしてリュノの勧めで選んだ。まぁパーティー募集とかの為の自己申告なので、大まかで良いらしいしね。

消息の連絡先は…亡くなったときや行方不明になったときの連絡先なんだけど、どこもあてが無ければ登録したギルドになるらしい。今回はリュノと同じにして貰ったので、ミズハ隊長に連絡が行くことになった。



登録内容を思い返していると、受付嬢のフォルナさんが戻ってきた。

『はい、こちらが冒険者ギルドのプレートとなります』


そう言って手渡されたのは、人差し指と中指を合わせたぐらいの大きさの白色の金属プレートで、文字が掘られており、斜めにオレンジのラインが入っていた。


『名前と職業の記載内容を…リュノさん、確認して貰えますか?』

フォルナさんの言葉に、金属プレートをリュノに見やすいように傾けると、リュノはこちらの手元をのぞき込んで、

『うん、問題ないよ』

と答えていた。


『では、そのプレートを持ったまま、こちらの水晶に触れてください』

言われた通り、プレートを持ったまま反対の手で水晶に触れると、水晶とプレートが俺の魔力の色に大きく輝いた!!おお、何かすごい!(さび色だけどね、なにか?)


『かなり珍しい色で輝きも大きかったですが…問題なく登録できてますね…はい、ではこれでギルドへのご登録は無事完了となります。当ギルドにご登録頂き、ありがとうございます』

魔力の輝きに冒険者達がざわめいていたようだが、フォルナさんはちょっと目を見開いたあと、動じずにササッと登録手続きを完了し、軽く頭をさげて微笑んでいた。

…おぉ!冒険者ギルドに登録できたよ!!これは上がるね!


『では、続いてギルドの仕組みについて説明しましょうか?』

『はい、お願いします』


『まず冒険者ギルドについてですが、冒険者ギルドは世界中に支部があり、冒険者は街や国を自由に移動する事が可能です。先程お渡ししたプレートは、カズマさんの魔力に紐付けされて本人にしか使うことができないので、身分証明書としても使うことができます。多くの街で入場手数料が無料になったり、手数料はかかりますが、世界中の冒険者ギルドでお金の出し入れができたりと色々と恩恵があります』

…魔力で紐付けとか、まさに異世界ならではだけど、便利だよな


『次に冒険者についてですが、冒険者には等級があります。下から順に、石級、青銅級、黒鉄級、魔鋼級、銅級、銀級、金級となります。石級から黒鉄級までは2段階あり、今お持ちのプレートは白色にオレンジのラインが1本入っていると思いますが、次の段階ではラインが2本となります。また、プレートもそれぞれの等級に合わせたものになります。順番に挙げると

まず初心者と言われる石級が2段階あり、

・石級Ⅰ(白にオレンジのラインが1本)

・石級Ⅱ(白にオレンジのラインが2本)

大半の冒険者が属する青銅級と黒鉄級の4段階が続き、

・青銅級Ⅰ(青みがかった緑に黄色のラインが1本)

・青銅級Ⅱ(青みがかった緑に黄色のラインが2本)

・黒鉄級Ⅰ(黒に赤のラインが1本)

・黒鉄級Ⅱ(黒に赤のラインが2本)

上級と言われる次の4段階があります。

・魔鋼級(濃い青色)

・銅級(銅色)

・銀級(銀色)

・金級(金色)

本当は金級の上にミスリル級(輝く青紫色)があるのですが、現在該当者はいませんので、実質は石級Ⅰから金級までの10段階となります。

ちなみにリュノさんは魔鋼級、リュノさんのお姉さんは銀級となります。

リュノさんは銅級に上がったこともあり、さらに上を狙える実力も十分あるのですが…暴発が…まぁ私としては情状酌量というか、むしろ良くやったと言えるものもあるのですが…あ、詳しいことは本人にお聞き下さい』

フォルナさんの言葉にリュノへ視線を向けると

『わ、私は魔鋼級の濃い青色のプレートが好きだから、魔鋼級にいるのよ。うん、わざとよ、わざと』

と目を泳がせて乾いた笑い声をあげていたので、とりあえず『また今度くわしく』と言ってこの場で追求するのは止めといた。

リュノは固まった笑顔を貼り付けたまま、一筋の汗を流していた(笑)


『では次は依頼についてですが、現在受けられる依頼は、あそこの掲示板に貼ってあります。そして依頼には難易度に応じて等級が書かれています。自分の等級と同じ等級までの依頼しか受けられないので注意して下さいね。

依頼を受けるときはボードに貼ってある依頼書を剥がして、受付まで持ってきて頂ければオッケーです。

ただし常設依頼と書いてあるものは、討伐証明部位や採取物を受付に持ってくるだけで依頼達成となります。

依頼にはそれぞれポイントが設定されていて、依頼を完了してポイントを一定数貯めると、等級を上げることができます。

なおプレートの色が変わるときは、毎回試験があります。

逆に1年間活動しなかったり、3回連続の失敗、あとは苦情の出るような大きな失敗や、規律違反をすると等級がダウンします。

さっき騒ぎを起こした者も、登録前の一般人に武器を抜かせるような攻撃をしたという規律違反により、等級ダウンとなります(笑)』

…そういえばさっき唐揚げを打ち返されたヤツが、ギルド員に連れて行かれる時に、『嘘だろ!青銅級に落ちちまう!』って叫んでいたな…朱里ちゃんがカットラス抜いたからね。南無(笑)


『高い等級の依頼ほど難易度は高いですが、報酬も高くなるので頑張って下さいね。

あと、プレートには、パーティー名やクラン名、称号なども記載されます。今後カズマさんがパーティーを組んだりした時は受付にお伝え下さい。なお、ギルドが認識できる二つ名なども希望があれば付けることができますよ』

『じゃあリュノのプレートに“蒼の暴発魔”を』

『承知しました』

『ヤメテー!』

…フォルナさんなかなかノリ良いな。


『最後に、プレートは他の人は利用できませんが、再発行にはそれなりにお金がかかりますので、落とさないように気を付けて下さい。

もし良ければプレートに開いている穴に通すチェーンをサービス致しますが、いかがですか?』

『あ、それは助かります。頂けますか?』

『はい、ではこちらになります。ついでにこちらでチェーンを通してしまいましょうか?』

『あ、はい。お願いします』

フォルナさんにプレートを手渡すと、プレートにチェーンを通し、受付から身を乗り出して首からかけてくれた。

…わっ!なんか照れるな……はっ、リュノがジト目でぷくーっと膨れてるし、背後からも不穏な気配が!ゆるんだ頬を戻さねば!


『長くなりましたが説明は以上となります。お疲れ様でした。ご活躍、期待しています。リュノさんとも相性良さそうですし、お二人がまた来られるのをお待ちしていますね』

そう言うとフォルナさんは、突っかかるリュノと和気あいあいとしながら、にっこり微笑んでいた。

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