第20話 異世界前日(1)

 次の日、午前中は大学の講義に出ることにした。

リュノも『部屋に居てもしょうがないから、付いていくよ』って言うので、小さくなってもらって連れていったんだけど…


 まず、スクーターに乗るときに興奮しまくって、『ひゃっほー』って頭の上で前後左右に動くもんんだから、危うくバランスを崩しかけるし。


 大学ではバッグに入って貰ってたんだけど…講義内容が日本の寺院建築についてだったのがまずかった。教授が部屋を暗くしてパワポで画像を交えて説明をしだすと、ひょこっとバッグから顔を出して講義を見始め、興味が沸いてくると机の上に移動し、最終的に前に飛んで行って見ようとするから気が気じゃなかった。ってゆーか、飛んで行こうとするのを抑えようとして机に体をぶつけ、大きな音を出してしまい、教授にめっちゃ睨まれたし……絶対寝てたと思われてるよ…まぁ日本の寺院建築の写真や図が多くて面白かったんだろうけどね。


 ってことで、お昼になり学食に移動すると、リュノの物欲しそうな表情を無視してガツガツとカツ丼を食べていた。

『カズマ、ごめんって。私にも頂戴〜』

『やるわけないだろ。ってゆーか、カツが空中に浮いてかじられたように無くなっていったら、さすがにマズいから』

『む~、…あっでも大丈夫よ。カズマが食べ物にだけコーティングしてくれたら、うつわはすり抜けるから、器の中身だけ無くなるんだし、覗かれない限り気付かれないよ。ほらっ』

そう言うとリュノは、どんぶりの中に顔を出し、体はどんぶりの外…って間抜けというか、微妙に怖いんだけど。

こっちが引いている間に、リュノは俺の膝の上に座り、口が丁度どんぶりの中にくるように体の大きさを調整して口を開けていた…こいつはホントに食べ物のためには努力を惜しまないな。


 努力に免じてカツ1つとその周りの玉子とご飯を箸で持ち上げ、コーティングしてからどんぶりの中のリュノの口に放り込んだ。するとリュノは『うまーっ!』って伝えながらこっちを向き、リスのように口いっぱいに頬張り、目を輝かせて食べていた。

…うん、幸せそうな顔をこっちに向けるのは良いけど、机の上に首から上だけがある生首状態だから、若干ホラーなんだって。

 苦笑いしつつお茶に手を伸ばそうとしたら、その肩を後ろから

「藤堂、お前寝てただろー!」

とバシン!と叩かれた。その反動で俺の手は予定と違う方向に伸び、その手の先にはもきゅもきゅと動くリュノのほっぺがあった。

『ぶふぁっ!』

盛大に発射されたカツ丼ミサイルが肩越しに飛んで行き、声をかけてきた相手に襲い掛かった。

「うわぁぁ!」

慌てて振り向くと、そこにはミサイルまみれになったアパートの隣部屋の先輩がいた。

…うわっ、タイミングの悪い人だなっとか、先輩もしかしてあの講義、去年落として2回目ですか?とか、とりあえず被害者が先輩で良かった(笑)とか、色々思うところがあったけど、とりあえず速攻で謝って、先輩が混乱しているうちにそそくさと離脱したのだった。



 そんな訳で大学を出た後で、異世界に持って行くものを準備して、扉のある丸太小屋に向かった。

食材の購入は大樹さんが業者から買った方が安いとの事で、それぞれ段ボール1箱分を手に入れてくれたので、キャンプ場で受け取らせて貰った。それだけでも有難かったのに、購入代金を払おうとしたら、「娘が世話になったし今後の事もあるので今回は久門家でもつよ」と言って代金を受け取ってくれず押し切られてしまった。お礼は言ったけど、しっかりと態度でも返していかないといけないなぁ。


 丸太小屋に着くと、まずは道具や食材のコーティングを始めた。

食材はリュノの里に着いてからでも良いんだけど、量があるからな。今のうちに食べ物の補給をしながら進めておこう。

あ、ついでに扉の先でも同じようにコーティングできるのか試してみるかな。…リュノに怒られるのでとりあえず服にコーティングしてっと


 そこで、扉を開けて祠の中でコーティングを試していると、朱里ちゃんと大樹さんが小屋にやってきた。

「どうしました?」

「いや申し訳ない。朱里がどうしても付いて行きたいと言うので、まずは扉の先でどうなるかを調べようと思いまして」

「っというわけで、とぅ!」

「あ、またこの馬鹿は!」

朱里ちゃんが、扉の先に飛び込んできた!

前回半身を扉の先にだしたことがあるため問題ないはずだが、思い切りが良すぎだろ…まぁでも特に朱里ちゃんの見た目も様子も変化ないので問題なさそうだな…と思っていると、

『朱里ちゃんが見えない!』

とリュノが叫んだ。


「『え、ここに居るけど見えないの?』」

俺が朱里ちゃんの肩をポンと叩くと、リュノが寄ってきて朱里ちゃんに手を伸ばしたが、すり抜けた。

『見えないし触れない!』

「『ふーむ、俺は触れるんだけどな…』」

「リュノさんがすり抜けてる!?あれ?ってゆーかリュノさんが見えてる!?」

「どうやら扉からこちらに来ると、朱里ちゃんが俺らの世界でのリュノと同じみたいになってるっぽいな」

「つまり私からは見えるけど、リュノさんの世界の人からは見えないし、触れられないってこと?…これ、こっちからは見えるのに認識されないって思った以上にキツイね…私は和真君がいるから落ち着いていられるけど…リュノさんみたいに5日間も耐えられる自信がないわ…」


「おい、大丈夫なのか?…あ!あれがリュノさんか!?」

大樹さんが動揺している朱里ちゃんを心配して扉からこちらに身を乗り出していた。

「『あ、大樹さん大丈夫です。リュノ、大樹さんも来てるけど見える?』」

『あちらに残ってる足だけ見えるわ』

「『やっぱり逆転してるのかなー。大樹さん、とりあえず朱里ちゃんの状態を色々調べてみるってことで良いですか?』」

「あぁ問題ないなら続けてくれ」

「『分かりました』」


さて、まずは透明状態の朱里ちゃんがどんな状態か調べてみるかなー

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