第12話 異世界1歩目

 リュノがこちらを向いて叫んだので、バッと左右や後ろを振り返ったが、何も見つけることができなかった。

ってことは原因は俺か?

『リュノ、何か変になってるか?』

全く分からなかったので問いかけると、

『カズマとナイフ以外、全部見えなくなってるー!!』

と、リュノは顔を真っ赤にして言ったあと、顔を手でおおっていた。


直ぐにはリュノが言った意味が理解できなかった。

えーと、俺とナイフ以外?…で、その反応ってことは…

『服とかか!』

慌てて前を隠すと、

『そうよ!早く服とか魔力で覆って!変態!』

と言われて、急いで魔力で覆っていった。


しかし、確かにまっぱにナイフのみは変態と言われてもしょうがないが…

『不可抗力だし、変態はひどくない?』

『いや、とっさに魔法を撃ち込まなかった私をほめて欲しいくらいだよ』

『でも俺には普通に服とか見えてるから気付けなかったんだよ。…しかもリュノ、覆った指の隙間からしっかりこっちを見…』

『ったく、しょうがないわね。そういうことなら、さっきのはなかったことにしてあげるわ!(…だって異世界人のカズマの体がどうなってるか気になるじゃない。アレとか同じっぽく見えたし)』

直ぐにこちらの言葉をさえぎったリュノは、また顔を真っ赤にして目を泳がせていた。

『……(かぶせるの早っ!まぁなかったことになったし、突っ込むのはやめとくか)』


『そっ、それにしても、私がカズマの世界で見えないさわれない状態になったのと同じように、カズマの世界の物もそのままだと、こっちの世界では見えないし、触れられないんだろうね』

『うーん、リュノの世界の他の人にも見て貰わないと分からないけど、その可能性は高そうだなー』

そうすると、俺が魔力コーティングしたものだけこっちの世界で使える感じになりそうだな。

『カズマだけが特別に両方の世界をまたがれるのかな』

『だけってことはないと思うけど…あっ』

『何、何か気付いたの?』

『いや…実は逆にリュノだけが特別に俺たちの世界に関われない可能性も…』

『やめてーー!そんな私だけハブられてるとか、怖いこと言わないでーー!』

『はははっ、悪い悪い。まぁでもそんな感じならもっと世界で色々な生物の目撃情報がありそうだし、それはないかなー』

『むー。嫌な想像しちゃったじゃない』

『まぁでも、俺はリュノだから助けるのであって、他に来ても知らんし、そもそもリュノ以外認識できるのかも分からんしな。とりあえず会えたのがリュノで良かったと思ってるけどねー』

『そ、そう?』

直ぐに照れて機嫌が良くなった。

チョロいんさんというか、コロコロ表情を変えるリュノは見てて飽きないよなー。



 その後、体調とかは問題なさそうなので、ほこらの出口まで行ってみると、山の中腹の鬱蒼うっそうとした森の中だった。しかも出口はツタ系の植物に覆われているため、簡単には見つからないような状態だった。

『これは、良く祠を見つけたな』

『うん、その蔦に実が付いててね、取ろうとしてつまづいて、コロンってね…ハハハ』

…さすがリュノである。

『何にせよ祠や扉が見つからない方がありがたいので、これはこのままにしとこう。俺の世界の方も隠した方が良いんだろうけど、あの丸太小屋を勝手に改造とかできないからなー。

あの小屋作った人はリュノの世界と繋がっているの知ってたんだろうな。小屋がだいぶちかけてるし、少なくとも最近は利用されてなさそうだけど…』

『少なくとも私はカズマみたいな人を見たことも聞いたこともなかったわ。気になるなら長老衆とか昔のことを良く知る者に聞いてみようか?』

『うーん、頻繁に行き来するようになったり問題が起こったら聞いて貰うかもしれないけど、だいぶ先のことかな』

『うん、分かったよー』

『ちなみにこの森って安全なの?』

『うーん、カズマの世界からすると、かなり凶暴なのがうろついてるかも』

『マジか』

『でも凶暴なのはこの祠に入れないサイズだから、祠に逃げ込めば大丈夫だよ』

『…じゃあとりあえず祠の中に戻ろうかな』


そうやって異世界の状況を少しだけ確認したあと扉まで戻り、今度こそリュノを見送ることになった。

『あ、カズマのこと説明するのに、できれば魔力コーティングした食べ物貰えないかな?あと丸薬も…』

『あぁ、ウィンナーが少し残ってたから、それをコーティングして渡すよ。しかし、丸薬は止めといた方が良いんじゃない?何か俺の印象が最悪になりそうな気がする…』

『ふふふ、ウィンナーあるし、丸薬は皆には食べさせないわよ。あくまで説明用と私用よ』

『そうか、じゃあコレ。気をつけてな』

『うん。ありがとうね。また来るから』

『おう』

そして握手をして別れ、リュノは里に向けて出発して行った。


別れの余韻よいんに少し浸ったあと、扉を閉め、丸太小屋を出た。

そして帰路につこうとした俺は、木の影から近づいてくる人の気配を感じたのだった!

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