第3話 リュノの世界

急いでテントに戻り、フルクローズにして腰を落ち着けたあと


『じゃあ説明するよ』


とリュノが話したことをまとめると、

 リュノの種族(フーリル)は、リュノが元いた世界ではかなり上位の魔法の力を持っており、一目置かれる存在らしい。

 ただ魔法の元となる魔力を、ある1つの種類の木の実からしか得ることができないため、リュノ達は先祖代々その木の群生地に里を築いて暮らしていたのだそうだ。

 しかし、最近になってその木が里の周辺で枯れ始めた。

 栄養は他の食べ物から得られるが、基本的に力がない種族のため魔法なしでは不便であるし、魔力が少ないところを他の種族から攻められたら大変なことになるので、困っていた。

 すると野蛮なイノシシ族が木の実を得る手段があるらしく、木の実を定期的に渡す代わりに、リュノ達の姫(めちゃくちゃ可憐らしい)の身柄を差し出し、猪族が他の種族を侵略するときに魔法で協力するようにと言ってきた。

 今はまだ木の実の貯蔵があるから要求を跳ね除けているが、このままでは不味いため、リュノを含めた選抜された数人が、他に実がないか、他に魔力を得る方法がないか調べに里を出たらしい。


『なるほど…それでこちらの世界へ来たのか。異世界を渡るって凄いな。助けるって…その木の実の替わりになるものを探すとか?』


『それが…凄いって話ではなくって……じつはこの世界へは狙って来た訳ではなく…偶然見つけたほこらの中にあった扉を潜ると、こちらの世界に繋がっていたの。そして、呆気に取られている内に潜った扉が閉まる音がして慌てて振り向くと、こちらの世界の扉が閉まっていて、私はその扉に触ることができず、開けられないので帰れなくなってしまったの…。どうやら私はこちらの世界の生物や加工された文明的なものには触ることができないらしくって。…そこで、まず頼みたいことは、その扉を開けてほしいの。』


 頼みごとを言いながら、リュノは下を向きほんのり顔を赤くしてもじもじしていた。

…これはかなり軽はずみというか、ドジッてるよな。焦ってる姿が目に浮かぶ…実はリュノ、ポンコツなのかな?まさか帰れなくなってるとは。

 ホントに困ってそうだしそれぐらいならしてあげたいが、危険に巻き込まれるのは困る…


『その扉を開けると危険なものが飛び出してきたりしない?』

『来る時には周りに何もいなかったし、飛び出して来たりはしないと思う。絶対とは言えないけど……もし何か出てきたら私が命に変えても倒すわ』


 う〜ん、リュノが迷い出てきた感じだし、単純に繋がってるだけなら問題なさそうだけど…後は実際に見てみて判断するか。ふんすって気合入れて必死さも分かるし。でももし【封印】とか書かれていたりしたら諦めて貰おう。


『じゃあ扉の雰囲気とか見てみて問題なければ、やってあげるよ』

『ホントっ!嬉しい!…綺麗な水があるから飢え死にはしないけど、ひもじいし、寂しいし、変になりそうだった…ようやく希望が…』


 了解するとリュノが涙をこぼしていた。

 軽いノリの多いリュノだけど、精神的にかなり追い込まれていたんだな…。そりゃ異世界に独りぼっちだもんな。


 ちょっと励ましてあげたくなり、指先でリュノの頭を撫でてあげると、ビクッとして目を見開いていた。


『あ、ごめん。嫌だった?』

『そうじゃないの…さっき手に乗った時もわずかに感じてもしかしてって思ったんだけど、カズマから魔力を貰ってる気がするの。触れられた頭がぽわって温かくなって魔力が増えてる感じなの!』


 リュノが精神的な解放からの驚きと希望の発見!?で、涙でぐちゃぐちゃの顔のまま笑っていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る