26. 配信後

 配信が終わると、カベツヨは胡桃に飲み物を差し出した。


「お疲れ、胡桃。良かったんじゃないか」


「ありがとう!」


 2人は最初の配信について仲良く話し込んでいた。佐助は少し離れたところからその様子を眺める。遠目にも2人の仲の良さがわかった。


 胡桃に呼ばれ、佐助は2人に歩み寄る。


「これから帰るんだよね?」


「そのつもりでござる」


「帰還玉を使うの?」


「いや、ここからなら、歩いて帰るでござる」


「ええー。帰還玉を使おうよ」


「帰還玉も安くはないでござるからな」


「ええー」


「胡桃。あんまり小次郎さんを困らせるんじゃないよ」


 胡桃は渋い顔で口を閉じる。カベツヨの言うことは素直に聞くらしい。


「すみません、小次郎さん。胡桃のことをお任せしてもよろしいでしょうか? 胡桃がモンスターを倒しているところを見たら、僕も体を動かしたくなっちゃいました」


「承知したでござる」


「ありがとうございます。胡桃のこと、よろしくお願いします。それじゃあ、胡桃。あんまり小次郎さんを困らせるんじゃないよ?」


「わかっているわ」


 佐助と胡桃は、カベツヨはダンジョン内で別れ、カベツヨの背中がダンジョンの闇の中に消えるのを見送ってから、2人は歩き出す。このとき佐助は、『光魔忍法――影分身』と『闇魔忍法――変化の術』を組み合わせ、意思を有したスライムを作り出す。スライムは滑るように地面を移動し、カベツヨを追いかけた。


(これで彼の行動がわかる。あとは、人となりについて、胡桃に聞いてみるか)


 佐助はカベツヨへの意識を保ちつつ、胡桃にも意識を向ける。


「カベツヨ殿とはずいぶん仲が良さそうに見えるでござるな」


「うん。まぁね」


「どれくらいの付き合いなんでござるか?」


「1年くらいかな」


「長いんでござるね。それくらい長いと、カベツヨ殿を男性として意識したりするでござるか?」


「んー。カベツヨをそんな風に見たことは無いな。信頼できるお兄ちゃんって感じかな」


「なるほど」


「それに、あっちが私を女として見ないだろうし」


「そんなことはないと思うでござるよ。胡桃殿は可愛いから」


「ありがとう。でも、そうじゃないんだよね」と言って、胡桃は辺りを見回し、佐助に顔を近づけて、声を潜めた。「他の人には絶対に言わないでね」


「承知した」


「実はカベツヨさんには、大好きな彼女がいたらしいんだけど、その人が事故で亡くなったらしいんだよね。それで」


「今もその人のことを思っているというわけでござるな」


「その通り」


 カベツヨの仕事ぶりを見るに、彼女の傷が残っているようには見えなかったので、彼の仕事ぶりはプロのそれだった。


「カベツヨ殿は、どうしてマネージャーになったんでござるか?」


「ん。聞いた話によると、人に勧められたらしいよ。芸能人のマネージャーなら、忙しすぎて彼女のことを考えている暇がないんじゃないかって」


「なるほど」


 そのとき、佐助のスマホに朱雀からメッセージがあった。


『話したいことがある。会えないか?』


 佐助は胡桃と一緒にいる旨を伝え、2時間後に会うことにした。

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